デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

5月8日の産経ニュース(デジタル)は「日本の電機大手がAIに本腰 課題は人材不足 技術者獲得競争過熱」と報じました。「フェイスブックやグーグルに勝つつもりで臨む」といった勇ましい言葉も紹介されていますが、各社のIR資料などを見ても、AIで勝つためのこれといった戦略は示されていないようです。 まさにAIへAIへと草木もなびいていますが、遅ればせの「日本の電機大手」に残された金脈はどこにあるのでしょうか。 
  • データを認識し予測や分類を行うAI
  • ディープラーニングは三度目の正直 
  • 金脈は行動のディープラーニング
  • ディープラーニングが世界を飲み込む
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Wedge Infinityに寄稿したコラム「AIとデザイン思考でパナソニックは蘇るか? 」は、NEWSPICKSで取り上げられ、GW期間中にも関わらず(GWだったから?)多くのコメントをいただきました(コメントはこちら)。

その多くは(当然ながら)コラムの内容というよりは、「AIやIoTでイノベーションに取り組む」「デザイン思考を適用する」「AI技術者を大量に採用する」といったパナソニックの取り組みに対するコメントでした。日本を代表する大手製造業のイノベーションに対する期待と疑いが大きいことがうかがえました。

また、デザイン思考に対する関心も高いようでいくつかのご指摘がありましたので、ちょっと補足しておこうと思います。(ここで補足してもNEWSPICKSのユーザーさんには届かないとは思いますが ^^;)。以下、引用はコラムからです。
デザイン思考はニーズを起点にしています。IDEO社のコンサルティングのプロセスは、「現実の生活における人々を観察し、提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す」というステップから始まります。このステップでは、ユーザーのエクスペリエンスに注目します。そして、発見した問題や潜在ニーズを解決したり満たしたりすることができる、技術的に実現可能なプロダクトをデザインします。
ニーズ起点から、顧客中心で取り組もうというのがデザイン思考です。そしてその考え方はデザイナーの世界から提案され、米国の大学やデザイン学校の先進的なカリキュラムとなっていますが、まだ設計工学(デザイン・エンジニアリング)の世界には浸透していないようです。そのため、デザイン思考はデザイナーによって語られ用いられ、 デザイナーが顧客領域に関与できるサービス産業やウェブ・サービスなどの分野でインクリメンタルな成果物を生むにとどまっているようです。

IDEOのティム・ブラウンは、デザイン思考を「採り得る事業戦略によって顧客価値と市場機会に転換することができ、かつ技術的に実現可能な製品やサービスを、デザイナーの感性と手法を用いて人々のニーズに調和させる専門分野である」と定義しています。

IDEOはデザイン・コンサルティングファーム(会社)で、多くのクライアントは大企業であり、その経営層からの経営戦略に関わる案件を手掛けています。IDEOにおいては、インダスリアルデザイナーだけでなく、エンジニアあるいはそれ以外を専門とする人も含めてメンバーのすべてが、この「デザイナーの感性と手法」を備えているということでしょう。心理学、建築学、経営学、言語学、生物学といった分野のバックグランドをもつメンバーも多いそうです。
ノーマンは「ラディカル(不連続)な技術革新がなければ、イノベーションを起こすことはできない」と言っています。デザイン思考のアプローチ、本当の問題を特定してからその解決策を考えるというアプローチでは、プロダクトの機能や仕様の改善にしか結びつかないというのです。
私も「ニーズ起点のデザイン思考ではラディカルなイノベーションは生まれない」と思います。しかし、「シーズとニーズを調和させる」ために、デザイン思考のプロセスや考え方は非常に有効だとも考えています。

パナソニックはAI技術者を1000人規模に拡大すると言っていますが、デザイン思考を経営や社内に広げ、それを応用してAIやIoTといったシーズ起点でのイノベーションを推進できる人材にも多くの投資が必要でしょう。ぜひ、そのような人材が日本で育って欲しいと思います。

ただ、デジタルカメラなど、3つの事業部を解体して人員を減らすことなどが計画されています。パナソニック全体がBtoBに大きく舵を切っている中で、デザイン思考をどこで生かすのかという疑問は感じます。コンシューマ向けのデジタルカメラの再発明などは、ぜひデザイン思考とAIでチャレンジして欲しい分野なのですが。

(ご参考:2016年2月のコラム)スマホの呪縛に陥ったパナソニックのデジカメ


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パナソニックは4月19日のプレス向けの研究開発戦略説明会で、「さらなるイノベーション推進に向けて、今後の成長エンジンとなる新事業モデルの仮説を自ら構築し、リソースを集めて挑戦する仕組みと体制を本社主導で整備する」との発表を行いました。そこで、4月1日に新設されたビジネスイノベーション本部は、次のようなミッションを持つとの説明がありました。
  • 「モノ売り」から脱却し、サービス中心の事業創出を推進
  • 既存に対する破壊的技術になり得る、IoT技術に基づく事業創出を推進
  • 加えて、人工知能(AI)技術などの破壊的技術で事業創出を推進・支援 
また、3月25日の日本経済新聞は「パナソニックは不採算の6事業を対象に一段のリストラに踏み切る」と報じました。デジタルカメラなど、3つの事業部を解体して人員を減らすことなどが計画されています。これまでにもプラズマテレビやプラズマパネルから撤退し、鉛蓄電池などの事業を売却するなどのリストラを断行してきましたが、今回が赤字事業の最終処理だとのことでした。

大規模なリストラによって経営の健全化は進んでいるようですが、まだ新たな収益源の育成に向けた戦略は見えません。5年以内に人工知能(AI)領域の技術者を1,000人規模にまで増強してサービス中心の新しい事業を創出するという「意思」が示され、ビジネスイノベーション本部という「箱」はつくられましたが、それは「戦略」にはなっていません。しかし、新たな本部の副本部長に就任した元SAPジャパンの馬場渉氏が説明会で話した「ユーザーエクスペリエンスとデザインシンキングをパナソニック全社に適用する」という言葉には注目させられました。  
 
AIとデザイン思考でパナソニックは蘇るか?(Wedge Infinity)


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いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「モノづくりのデザイン思考」の連載では、経済価値が経験へと進化するなかで、製造業がデザイン思考を応用して自らを(経験を提供する)ステージャーへと変革(イノベーション)するための方法を考えています。

あるテレビ番組で大江健三郎さんが次のように話されました。
最初は偶然のように始ったものが1/3ぐらい出来上がると、自分の中に批評性というものが生まれる。書いているものが良いか悪いか、この点は良い、この後半戦はすっかり捨ててやり直さなければいけない、というような態度決定を自分に呼び起す力が、偶然からのように始まった小説の草稿にはある。それが僕にとっては一番面白い、小説家であることの驚き悦びに関係しています。  
このブログでこれまで書いてきたことを書き直して、ちょうど全体の1/3ぐらい出来上がった感じです。自分でも面白くなってたところで、やり直しと全体の構成の練り直しをしようと思いますので、連載についての次の更新はしばらく先になります。

連載その他についてのご意見やご質問がございましたら、是非  contact に @ と ibornb.red をつけたアドレスまでメールでお寄せください。今後の参考にさせていただきます。

Wedge Infinityへの寄稿のお知らせ(イントロ)と、連載以外のブログはこれまで通り続けますので、今後ともよろしくお願いします。

川手恭輔

black magic


モノづくりのデザイン思考 (連載 13)

プロダクト・マーケット・フィット 

ウェブサービスとハードウェアビジネスでは、プロダクト・マーケット・フィット、狙う市場を満足させることができるものに製品を育てるプロセスが大きく異なります。エリック・リースは『リーンスタートアップ』の中で、プロダクト・マーケット・フィットのために、製品をプロトタイプの段階から実際のユーザーに使ってもらい「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すことが重要だと説きました。
stage
十万円程度のパソコンがあれば、ウェブサービスに必要なソフトウェアを開発することができます。そのプロトタイプ、必要な最小限の機能だけを実装した製品(ウェブサービス)を公開して実際のユーザーに使ってもらうためには、開発したソフトウェアをインターネットに接続されたサーバー上で動かす必要がありますが、こちらも最初は年間数万円から数十万円程度でアマゾンのAWSなどのサービスを利用することができます。そして、得られたフィードバックから改良したソフトウェアをアップデートすることは毎日でも可能です。 

また、ウェブサービスのビジネスモデルは、サービスの利用が完全に無料であったりフリーミアムであったりします。プロトタイプ、必要な最小限の機能だけを実装したサービスを、多くのユーザーに使ってもらうことが比較的容易です。

しかしハードウェア製品の場合は「製品をプロトタイプの段階から実際のユーザーに使ってもらう」ことは難しく、限定的なモニターに試してもらうという程度になってしまうでしょう。実際のユーザーに使ってもらいフィードバックを得るには、製品を購入してもらわなければなりません。たとえイノベーターやアーリーアダプター(初期購入者)を想定したものであったとしても、要求される製品の完成度はウェブサービスの場合とは比べものになりません。

リーンスタートアップを誤解し、解決しようとする問題とソリューション(製品)が合致しているかの検証が不十分なまま製品化し、プロダクト・マーケット・フィットの前に販売に多くの投資をして、たくさんの「なくても良い」機能を追加するという失敗も散見されます。

プロブレム・ソリューション・フィット


前回の『iPodの創り方』では、「コンピュータ(iTunes)で音楽を管理する」というソリューションと、「たくさんあるCDを管理できない」という携帯型音楽プレーヤーのユーザーが抱えているであろう問題の組み合わせのアイデアを持って、機能領域から顧客領域に遡上して「観察」を行いました。そして「聴く曲をその場で選びたい(けどできない)」という、より大きな新しい問題を発見し、機能領域に戻って、その問題を解決するための「携帯型音楽プレーヤーにすべても曲を入れて持ち歩く」というソリューションを導きました。このプロブレム・ソリューション・フィットのプロセスは、図のように表すことができます。
iteration
これは、問題とソリューションを合致させる、デザイン思考でいうところの「ニーズとシーズを調和させる」プロセスでは、顧客領域と機能領域をなんども往復しなければならないということを意味しています。それによってソリューションが洗練され、より大きな問題を解決するものになります。
まず技術が最初にあって次に製品、そして新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化し、最後にそれが必要不可欠なものになる。- D.A. ノーマン
iPodやiPhoneの例を見ても、ビッグアイデアのプロダクト・マーケット・フィットには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいでしょう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加えていかなければなりません。そして徐々に、その価値が人々に理解されていきます。しかし、それにはプロブレム・ソリューション・フィットのプロセスで、その製品が解決しようとする問題を評価しておく必要があります。

それはどんな問題を解決するのか?

その問題を解決することによって、製品のユーザーはどのような新しい体験の価値を得られるのでしょうか。その問題は、すでに存在する他の手段で解決できてしまわないでしょうか。その問題は、解決する価値があるのでしょうか。これらの質問にシンプルに答えられるでしょうか。 

2015年の4月に発売されたApple Watchの狙いについて、ティム・クックは「アップルは人々の生活を変えたいのだ」と次のように話しました。
人々があまりに長いあいだ座っているのはアップルの社内で日常的にみられることだが、それを知らせてくれる機能がある。会議で終わりの時間が近づくと、みなApple Watchのアラームに促されて立ち上がる。多くの医者が、座っていることは癌の原因になると考えている。動くことは間違いなく、誰にとっても良いことだ。 
健康でいたいということが、人々の変わることのない基本的なニーズであることは間違いないでしょう。しかしApple Watchのキラーアプリケーションが「人々を健康にすること」であるならば、解決すべき大きな問題は「会議で長いあいだ座っていること」の他にあるように思います。

Apple Watchは発売から2年が経過しましたが、まだプロダクト・マーケット・フィットを果たしていません。アップルのことですから、もしかするとプロブレム・ソリューション・フィットのプロセスで、人々の健康のために解決すべき大きな問題を発見し、そのためのソリューションを考案してあるのかもしれません。iPodの発売後に音楽のダウンロード販売を開始したり、iTunesをWindowsに対応したりしたように、重要な機能やサービスを追加する準備に手間取っているだけなのでしょうか。
 
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お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです。

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