デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way Technology lives.

Amazonをブラブラしていてたまたま見つけた本、その値段(195円)にびっくりしてサンプルも読まずに1-Click™で購入してしまった。



他に読みかけのおもしろい本があったのだが、ちょうどiPodについてブログを書こうかなと思っていたのでこっちを読み始めてしまった。iPodについて書こうかと思ったのは、LinkedInでChris Fralicの記事The Butterfly that Started the Apple Tsunamiで、ちょうど10年前にiPod/iTunesがWindows対応をしたということに気づいたからだ。

On October 16th, 2003, Apple launched "the best Windows program ever" - iTunes for Windows.- Back then Apple had a whopping 3.2% and declining US computer market share. The idea of Apple writing software for the PC was heresy inside of Apple.

2003年10月16日にAppleは、”かつてない最高のWindowsのプログラム” iTunes for Windowsを発表した。その当時Appleのコンピュータ市場のシェアは3.2%にすぎず、さらに減少しつつあった。Windowsのソフトウェアを書くという考えはアップルではありえないことだった。

iPod
その時Windowsユーザーだった僕も10年ぶりのApple製品となる第3世代のiPodを購入して以来、iPhone/iPadを買い続けるようになってしまった。その最初のiPodは今でも現役で(もちろんバッテリーはへたってしまい、そのコネクタをサポートするPCもなくなり音楽を更新することができなくなってしまったが)、車のオーディオのCDチェンジャーコネクタに接続されてちょっと古い音楽を鳴らしてくれている。



そう、ジョブズは2007年のマックワールドで"Today Apple is going to reinvent the phone!(今日、Appleは電話を再発明する!)"と言ったが、世界を変える発明はiPodによってなされたと僕は考えている。

Appleは2001年1月9日にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポで初めてiTunesを発表した。iTunesは2000年にジョブズがCEOに復帰した直後にAppleがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、Appleに移籍したその開発者たちが開発したそうだ。このときジョブズは、同時にデジタルハブ構想も発表している。パソコンがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うことによって、デジタル機器が人々のライフスタイルをもっと楽しく便利にするものになるというものだ。
"Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのはその年の10月23日になる。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を同時に発表したのだから、そのときすでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずだ。AppleはiTunesの発表の直後に携帯音楽プレーヤーの市場調査を始め、それからiPodの開発に着手したようだ。
そして2年後の2003年に第3世代のiPodとiTunes Music Storeが発表された。それは単なるiPodという携帯音楽プレーヤーとしてだけではなく、それに音楽というデジタルコンテンツの流通メディアとしてのインターネットと、そのコンテンツをiPodに中継するハブとしてのiTunes/PCとが統合された新しいプラットホームの発明の瞬間だった。ジョブズがSound Jam MPを見たときに、どこまでを見通していたのだろうか?

この「まずiTunesがあった」という事実が非常に興味深い。iTunesというPCのソフトウェアからiPodという新しいデジタル機器が生まれ、そこで消費されるコンテンツを供給するメディアとしてiTunes Music Storeが生まれた。段階的に市場に問いかけるように試行錯誤を繰り返して徐々にイノベーションを起こしてゆく。それと同時にユーザー獲得の施策の積み上げをやってゆく過程で、その新しい価値に気付いたユーザーを味方につけ、その勢いを利用して市場拡張をはかり、最初はコンテンツ提供を渋っていたプロバイダー側もその流れに乗らざるを得ない状況がつくられて、そのシステムのプラットホームとしての要件が満たされていった。そしていったん音楽というひとつのジャンルのコンテンツ市場においてユーザーのコミットメントを得てコンバージェンスに成功すると、そこからの拡張はそれまでより格段に容易になる。TechCrunchの記事のインタビューの中でNolan Bushnellが言っている。

"I actually think iPhone was actually an exchange of iPod ecology."

ジョブズが最初に唱えたデジタルハブ構想は、モバイル通信とクラウドというインフラの発展によってデジタル機器とサービス/コンテンツが直接つながり、パソコンによる中継が不要になったことによってモデルが変わった。iPodやiPhoneが扱うコンテンツも多様化し、iTunes Music StoreはiTunes Storeに発展してiCloudという新しいしくみも現れた。いうまでもなく、Appleの収益のほとんどはiPhone/iPad/iPodというハードウェアからもたらされている。Nolan Bushnellは、「Appleは未だにiPodで止まっている」と言っているが、他のものづくり企業を含めてまだまだ世界を変える(再)発明のチャンスは多く残されている。僕は「まずiTunesがあった」から、ということが1つの糸口だと思っている。

冒頭に紹介した本に次のような記述があった。

JON RUBINSTEIN
We argued with Steve a bunch [about putting iTunes on Windows], and he said no. Finally, Phil Schiller and I said "We’re going to do it." And Steve said, "Fuck you guys, do whatever you want. You’re responsible." And he stormed out of the room. 
 
我々は、WindowsにiTunesを提供することについてスティーブと多くの議論をした。そしてついにフィルと私は「我々はやります。」と言った。スティーブは「くそったれ!好きなようにするがいいさ、責任はとれよ!」といって部屋から飛び出していってしまった。

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最近のTechCrunchの記事から引用させていただく。

Gartnerの最新の調査報告によると、企業はビッグデータに積極的に経費を投じているが、まだ、それで何をするのかに関するプランが明確でないところが多い。調査対象の企業の64%が2013年にすでにビッグデータ関連のソリューションを購入をまたは投資を予定しており、2012年の58%に比べ明らかに増加している。その64%の内訳は、30%がすでにビッグデータ技術に投資、19%が来年の投資を予定、15%が2年以内に投資を予定(計64)、となっている。しかし回答企業720社のうち、実際にビッグデータ技術を展開配備しているところは8%足らずである。
ビッグデータは2013年に340億ドルのIT支出を惹起すると予測されているが、ビッグデータによるソリューションに魅力を感じている企業は多いものの、その多くは具体的な導入戦略について検討中の段階である。

これを読んで1990年代後半からのCRMブームを思い出した。僕も「CRM―顧客はそこにいる (Best solution) 」という本からヒントを得て、1999年ごろから独自のCRMシステムの立ち上げと運用を行ったことがあるがそれは棚に上げておく。この本は誰かに貸したままで手元にないのでリンク先からの引用になるが
 
CRMとは顧客データの分析をもとに顧客を識別し、コールセンターやインターネットなどの新しいチャネルを利用して顧客との関係を深めるという広義のマーケティング手法である。

となっている。
CRMの事業的な目的は、顧客との関係を深めることによってLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)すなわち顧客が生涯にわたって自社にもたらしてくれるであろう利益を最大化することだ。

コンスーマ向けの製品を供給しその販売を流通業などの他者に依存する多くの製造業にとって、顧客との関係を深めるための
顧客との接点(タッチポイント)は、アフターサービスに関係するコールセンターなどのチャネルしかなかった。そのためCRMはCS(顧客満足)活動などと混同されがちで、またどうしても購入した製品の故障などのきっかけによる顧客からの接触を待つだけの受身のものになってしまう。
そこでIT系のコンサルやベンダーの考え出した提案は、購入製品の保証期間の延長などをインセンティブとしたユーザー登録によって顧客情報を獲得し、定期的にEメールを送付することによって企業のポータルページへのアクセスを得ようというものだった。しかしそれらの製造業のCRMの取り組みの多くはあまりうまくいかなかったように思う。店舗やオンラインのコマースサイトを持ち頻繁に顧客との接触のあるサービス業や流通業と異なり、Eメールとポータルサイトという非常に限られたタッチポイントだけでは顧客視点に立った体験シナリオを描くことが難しい。
コンテンツをカスタマイズするだけの情報もシナリオもないまま、しくみだけが1to1という虚しい一方的なダイレクトメール発送システムと製品の宣伝ページのCMSに巨額のIT投資をしただけになってしまったのではないだろうか。
さらにソーシャルメディアの広がりによって、ソーシャルCRMとかソーシャルメディアからのリードを獲得するというマーケティングオートメーションまでをCRMに含めたような提案が出てきている。これまでの購買顧客にフォーカスしたCRMシステムではとうてい対応ができるはずがないからまた作り直しになる。

引用した文は次のように続く
その際、1つの商品や製品から顧客への短期的なアプローチを考えるのではなく、1つの企業体として長期的かつ全社的に顧客中心の視点を持つことが前提となる。
右往左往しながらのCRMシステムへのIT投資やMy Xxxx(ブランド名)などのCRMコスメティックをする前に、この前提に立ち戻って
自社の製品が提供する顧客価値を見直し、「もの」の価値だけでなく、その「もの」を使うことによって顧客が体験する「こと」の価値を高めてゆくという考え方が必要なのではないだろうか。その「こと」の価値を高めてゆこうという取り組みの中で、必然的に顧客とのタッチポイントが生まれその関係性が深まってくるはずだ。プロダクトアウトからマーケットインへの発想の転換が必要だと叫んでも、成熟した企業が急激な自己変革を起こすことは非常に難しい。目先の顧客視点や顧客ニーズによるマーケットインではなく、Webサービスによって顧客のコミットメントを得ている体験価値をベースとした商品企画・開発を行うことによって、持続的イノベーション以上のイノベーションができるのではないかと考えている。

自社が提供する「もの」を使うことによって顧客が体験する「こと」の価値をいかにして高めてゆくかという取り組みの中で顧客との長期的な関係性を築き、そのフィードバックを得て製品のイノベーションを達成してゆく。

コンスーマ向けの製品を供給する製造業ならではの、このようなマーケティング手法があるのではないだろうか。

さて、ビッグデータブームである。TechCrunchからの引用にあるように「
企業はビッグデータに積極的に経費を投じているが、まだ、それで何をするのかに関するプランが明確でないところが多い」のだからまさにブームと呼んでいいだろう。記事からたどった先のGartnerのレポートを見ると、製造業(天然資源を含む)の6割がすでに投資している、あるいは1〜2年以内に投資する予定であると答えている。

gartner

顧客とのタッチポイントを持たない製造業がビッグデータを活用しようとすると、それはソーシャルネットや検索エンジンのプロバイダーが提供するビッグデータを利用することになる。その中身は人々の行動履歴や「つぶやき」などの非構造化データである。当然、その収集(利用)や分析にはITベンダーやコンサルの力が必要になってくる。漠然と「こんなことがしたい」と言いさえすれば、膨大な提案書が配布されたプレゼンテーションに続いて要件定義ワークショップが実施され予算に応じたシステム開発がスタートする。CRMブームの時もそうであったしBIブームのときもそうだったのではないだろう。

時を同じくして日本でも朝日インタラクティブの調査がZDNet Japanに掲載されていた。

無題

製造業が顧客とのタッチポイントを持っていないと書いたが、実は上に太字で書いたような製造業ならではのマーケティング手法によれば、製品そのもの、あるいは顧客の体験価値を高める取り組みが顧客とのタッチポイントとなり、顧客の行動を把握するデータを収集することが可能になるのではないかと思う。

データ(の分析結果)に基づいて企業が意思決定を行うという姿勢はおそらく間違っていないと思う。しかしどのような意思決定のためにどのようなデータが必要なのかということを最初に明確にしておかない限り、ほとんどの取り組みは失敗するか結果が出ないまま投資を続けることになる。必要とするデータはどのようなものかが明確になれば、ビッグデータから必要なデータを抽出して分析すべきか、あるいは別の手段で必要なデータを収集すべきかが見えてくるはずだ。
ビッグデータブームのおかげで、データサイエンティストなる専門職が注目され始めている。その仕事は、それぞれの企業にとってどのようなデータをどのように活用すれば企業の成長が達成されるかという戦略立案から取り組むべきだろう。

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Stop asking “But how will they make money?"とAndrew Chenが言っている。ビジネスとして収益化することは重要だが、それはすでにコモディティ化している。もしオーディエンスがいるなら、あなたはそれを収益化するための数百の選択肢を持っているのだと。要はオーディエンスを増やせばいいのだ。それもすごい数のオーディエンスを。

いま取り組んでいるプロジェクトのビジネスモデルは直接的な収益を狙うフリーミアムのモデルでも、いわゆる広告モデルでもない。他に似たような例が見つからずどう説明してよいかと困っていたのだが「たまたま」いいものを見つけた。Twist ImageのプレジデントMitch Joelが新刊のなかで提唱している"Utilitarianism Marketing"という考え方だ。

Ctrl Alt Delete: Reboot Your Business. Reboot Your Life. Your Future Depends on It.
Ctrl Alt Delete: Reboot Your Business. Reboot Your Life. Your Future Depends on It. [ペーパーバック]

"Utilitarianism Marketing"を直訳すると「功利主義マーケティング」となる。"Utilitarianism(功利主義)"とは自分の利益になることは社会全体にとっても利益になり、逆もまた然りであるという考え方とのことだ。
(この部分訂正しました)

 Utilitarianism marketing is going to be the next great business disrupter.
 What is utilitarianism marketing? It's not about advertising, it's not about massaging, and it's not about immediate conversations. It's about providing a true value and utility: something consumers not only would want to use - constantly and but would derive so much value from it that it would be front-and-center attention in their lives. Do you think your brand has the ability to create that kind of interest and attention in this media-saturated and ads-everywhere world in which we live?

功利主義マーケティングは次にビジネスを大きく変えてしまうものになるだろう。
功利主義マーケティングとはなんだろう?それは広告に関することではなく、メッセージングに関することでも、顧客との直接的な対話に関することでもない。それは真の価値と実利の提供に関することだ。それは消費者がいつも使いたくなるだけでなく、それを使うことによって多くの価値を得ることができる何かであり、それは彼らの生活において大きな注目の的となるだろう。我々が暮らしているこのメディアや広告が溢れた世界において、あなたのブランドはそのような興味をかきたて注目を集めることができるだろうか?

アドボカシー(advocacy: 顧客支援)マーケティングという概念に含まれるようにも考えられるが、より具体的なマーケティング活動を指している。企業はそのプロダクトによって機能的価値を提供するが、そのプロダクトに関連する別の機能的価値をマーケティングとして提供することによって消費者の信頼と評判を獲得しようというものだ。わかり易い例が挙げられている。SitOrSquatというiPhoneアプリは、いま自分が居る周辺の利用できる清潔なトイレを教えてくれる。このサービスが評判となって多くのユーザーを獲得すると、P&Gが自社のトイレットペーパーのブランドCharminのマーケティングに利用すべくグローバルなスポンサーとなった。今ではSitOrSquatのアプリアイコンもCharminのブランドのデザインになっている。そう我々はSitOrSquatをつくっている。

実はこの本に数日前にたまたま遭遇して、そのタイトルとタグライン"Ctrl Alt Delete: Reboot Your Business. Reboot Your Life. Your Future Depends on It."に惹かれて内容をまったく調べずにAmazonで注文をしてしまった(なぜか日本ではKindle版が入手できない)。以前から著者のMitch Joelの"Six Pixels of Separation"という、マーケティングを話題にしてその分野のいろいろな人にインタビューをするPodcastを聴いていた(正確には聞き流していた)ので、彼のマーケティングに関する考え方が書かれているだろうぐらいに考えていた。しかし(まだ前半のReboot Your Businessを読んだだけだが)、これがすごく面白い。これまでに読んだビジネス書のなかで一番面白いし文章にリズムがあってすごく読みやすい。もしかするとこれまでに読んだ小説や物語も含めて一番面白い...少なくとも今の僕には。そして( )でこんなにたくさんの注釈が入った本は初めてだが、それが僕の感覚に合っている。

いきなり大きな話になってしまうが、日本の一般消費者向けの製品(ハードウェア)のビジネスは危機に直面している。アベノミクスによる一時的な円安で輸出産業の利益が改善したとしても、製品自体の魅力や競争力が向上しないかぎり先はそう明るくはない。製品(ハードウェア)やそれが提供するエクスペリエンスの価値をWebサービスやアプリケーションなどのソフトウェアによって拡大するという考え方と、この"Utilitarianism Marketing"(功利主義マーケティング)という考え方は、そのアプローチがプロダクト側からかマーケット側からかの違いだけだろうと思う。それらは顧客価値という接点で融合しビジネスモデルのイノベーションを可能にし、さらに製品のイノベーションを誘引することができるのではないか。あるいはそのような取り組みを行おうとする意識が、イノベーティブな製品を生み出すことを可能にするのではないかと考えている。日本にはその種となる多くの製品とそのビジネスが存在する。そのいろいろな製品分野で"Utilitarianism Marketing"(功利主義マーケティング)を考えることができるはずだ。

さて、後半のReboot Your Lifeにはどんなことが書いてあるのだろう。

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まだだれも気付いていない「潜在的なニーズ」を見つけるといっても、ただ闇雲に探してみたところで簡単に見つかるはずはない。2012/7にHBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)に掲載された"Reversing the Decline in Big Ideas"(ビッグアイデアの減少に歯止めをかける)に次のような記述があった。
 
"The only way out of this innovation gridlock is an expansion in founding team diversity. I believe the missing piece from the DNA in the founding teams of Transformational Companies is now the Domain Expert, who has deep insight into the industry they are trying to disrupt. Without a domain expert attempts at disruption are unimaginative and incremental at best.
There are so many industries ripe for technology startups to disrupt: Education, Health Care, Business, Art and Government just to name a few. But where are the domain experts ready to be paired with a team of rockstar engineers and superstar designers? "

イノベーションの停滞状況から抜け出す唯一の道は、創業者チームの多様性を拡大することだ。私は「変革型企業」の創業者チームのDNAに欠けているものは、彼らが変革を起こそうとしている産業分野に詳しいドメイン・エキスパートであると信じている。ドメイン・エキスパートなしでは変革の企ても想像力に乏しくなり大した成果も期待できない。
教育、ヘルスケア、ビジネス、アート、政府、その他にもテクノロジースタートアップの変革を待っている産業は数多く存在する。しかしロックスター・エンジニアやスーパースター・デザイナーとチームが組めるドメイン・エキスパートはどこにいるのだろうか?

全体の論旨は、新しい企業が既存の市場に変革を起こすためには“Founder Market Fit”(創業者と市場が適合していること)が必要であり、その創業者チームに必要な人材は時代とともに変わってきている。最初はHPやApple、Microsoftなどのように一人か二人のエンジニアと一人のセールスマンがいればよかったが、現在はデザイン思考などで語られているようにデザイナーの時代になった。しかし、それもすでに市場に適合しなくなっているということだ。

まだだれも気付いていない「潜在的なニーズ」を見つけるために、ドメイン・エキスパートとして自分が精通する産業分野があれば、まずはそれに狙いをつけることが最初にやってみる価値のあることだろう。しかし自分が精通する産業分野であることによって、逆にいろいろな先入観に邪魔をされて「潜在的なニーズ」に気付かないという懸念もある。そもそもがドメイン・エキスパートが気付かない「潜在的なニーズ」を探そうというのだから。

自己流だが僕は「実現モデルから抽象モデルを抽出して次の実現モデルを再定義する」という作業を脳内と「ひとりブレスト」で行っている。抽象モデルとは僕の勝手な造語で、ユーザビリティやHCDの分野で使われているメンタルモデル(概念モデル)に似ているようにも思うのだが、どうもこのメンタルモデルというのはいろんな解釈や使われ方があるようでいまいちピンとこない。この自己流の作業は、簡単に言えば「ほんとうにやりたいことは何か?」ということ(抽象モデル)を、実際に今やっている方法(実現モデル)を忘れて考え直してみるというものだ。

人々はニーズを満たすために道具や仕組みを利用して行動をする。しかし、そのニーズはその入手可能な道具や仕組みによって達成できるものに無意識のうちに狭められる形で適合させられている。道具や仕組みの大きなイノベーションがあると、その達成度合が急激に向上するためしばらくの間はニーズが追いつかない。あるいは、その範囲内でいろいろな工夫をしてしまうので、イノベーションにつながるような「潜在的なニーズ」が次の道具や仕組みのイノベーションの前には顕在化しない。

たとえば「どこででも音楽を聴きたい」というニーズに対して、ある時代の実現モデルはソニーのウォークマンだった。それ以前の実現モデルは「携帯ラジオで(放送される)音楽を聞く」というレベルのものしかなかった。「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」という、より要求レベルの高いニーズはウォークマンが出てから顕在化したように思う。最初は好奇の目で見られたウォークマンのスタイルが一般化すると、それがあたりまえのニーズとなった。新しい実現モデルが誕生してからニーズが顕在化する、まさに"Technology First, Needs Last"だ。そういう意味では、「潜在的なニーズ」は見つけるものではなく、実現モデルによって生み出されるものなのかもしれない。

この「携帯ラジオで(放送される)音楽を聴く」という実現モデルから「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」という「潜在的なニーズ」を導き出すために、まず「ほんとにやりたいことは何か?」という抽象モデルを抽出する。1つの実現モデルからは複数の抽象モデルが抽出される場合もあると思うが、この場合は「音楽をどこででも聴く」というものになるだろう。この抽象モデルは「音楽」というオブジェクトと「どこででも聴く」というアクションの2つにわけることができる。もちろん「音楽を聴く」という、より上位の抽象モデルが考えられるが、「携帯ラジオで(放送される)音楽を聴く」という実現モデルにおいて、すでに「聴く」というアクションに対して「どこででも」という価値が付加されているので、新しい実現モデルを考えるための抽象モデルとしては「音楽をどこででも聴く」のほうが適切だろう。

脳内で抽象モデルが抽出できたら、その「音楽」というオブジェクトと「どこででも聴く」というアクションのそれぞれについて、現時点で実現されていないことは何かをできるだけ多く(ひとりブレストでプレーンのモレスキンに書きなぐって)考えてみる。もちろんその時点で実現が難しいもので構わない、逆に難しいものでなければ意味がない。「音楽をどこででも聞く」という抽象モデルの、「音楽」というオブジェクトに「自分の選んだ」という新しい価値を付け加えたものが、新しい実現モデルとなるウォークマンが生み出すべき「潜在的なニーズ」だと考えることができると思う。他にも「もっといい音質で(聴く)」とか「ひとりで(聴く)」とか、別の価値もあるかもしれない。

読み返してみると、何をいまさらあたりまえのことをと自分でも思う。これを下のように図示してみると「携帯ラジオで(放送される)音楽を聴く」という実現モデルから抽出する抽象モデルは、実は「携帯ラジオで(放送される)音楽を聴く」という実現モデルが顕在化させた「潜在的なニーズ」そのものだ。しかし「携帯ラジオは、どこででも音楽を聴きたいという潜在的なニーズを顕在化させた」というようなことをいつも意識しているわけではない。実現モデルを「すでに存在するあたりまえのもの」としてではなく見直すという作業が必要だ。

「(自宅で)自分の選んだレコードで音楽を聴く」という実現モデルからも「自分の選んだ音楽を聴く」という別の抽象モデルを抽出して、そのアクションに「どこででも」という価値を付加することによって同じ「潜在的なニーズ」をつくりだすこともできる。そんなふうに面倒くさく考えなくとも「潜在的なニーズ」を考えることはできるだろう。もちろんパッと思いつくならこんな考え方をする必要がない。しかし、いわゆる「アイデアマン」は無意識のうちに脳内でパルスの速度でこんな感じで考えてるんじゃないかと思う。さらにこのように明確な答えを出しておかなくても、もやもやとしたいくつかの「潜在的なニーズ」を抱えていると、前回に書いたビジネスのデザイナーが備えるべきセレンディピティ;
  • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の意外な答えを発見する能力
を発揮することができるのだと僕は信じている。

ウォークマンが顕在化させた「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズはウォークマンとその周辺のエコシステムによって十分に満たされ、メディアのデジタル化という大きな変化においても「レコードをテープにダビングする」ことが「CDをMDにダビングする」に変化しただけで、デジタルコンバージェンス(産業融合)は起きなかった。磁気テープを生産していた会社がCDやMDを生産し、アナログプレーヤーを作っていた会社がデジタルプレイヤーを作るようになり、音楽をレコードに載せて売っていた会社がCDに載せるようになっただけだった。

人々は相変わらずお店で音楽を購入しMDにダビングして、聴きたい音楽の入ったMDを選んでから出かけた。CDをリビングにディスプレイする家具やMDのキャリングケースなどの周辺ビジネスや、またメディアの容量が少しずつ増加するなどの改善によってCDやMDが増えることによる煩わしさの問題意識が軽減され、「1,000曲をポケットに入れて持ち歩きたい」という「潜在的なニーズ」は顕在化しなかった。

ウォークマンという実現モデルから抽出できる抽象モデルは、ウォークマンが顕在化させた「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズそのものだ。あるいは一つ手前の「どこででも音楽を聴きたい」に戻って考えてもよいかもしれない。そこから「どこででもその場で選んで音楽を聴きたい」という「潜在的なニーズ」を導くことができる。ジョブズがウォークマンに衝撃を受けて、必死になってソニーのものづくりを研究をしたというエピソードが何か所かで紹介されているが、iPodというイノベーションによってほんとうのデジタルコンバージェンスを起こした。ジョブズは大相撲などでよくいわれる恩返しをしたことになる。

model

まだだれも気付いていない「潜在的なニーズ」を見つけることができても、実現モデルをつくって世に問うまでその存在を証明できない。あるいは「潜在的なニーズ」は存在しているとしても、自分のつくる実現モデルでは顕在化させられないかもしれない。そこから先はやってみるしかないが、やり方の指南書はLean Startupをはじめとしてたくさんある。まずは安上がりに、休日の昼間に落ち着けるカフェで冷たいヨーロッパのビールでも飲みながら脳内作業とひとりブレストをやってみてはどうだろうか?

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川手恭輔(Internet Born & Bred)
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D.A.ノーマンのエッセー"Technology First, Needs Last"に遭遇した時に、その全体の論旨には共感できるものの、なんとなくひっかかる感じがした。"Activity-Centered Design"という彼の提案の発展形あるいはそれを補完する概念として「共感できる」どころか、大賛成なのだが...
僕のオフィスの机の上の使わなくなったディスプレイにはこんな言葉をプリントした紙が貼ってある。

デジタルビジネスデザインの進め方
  1. デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する
  2. それによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  3. バリュープロポジションを定義する
  4. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する
これは10年くらい前に(そのころはこれ以外に本や雑誌を読む習慣がなかったので)きっとHBRという雑誌の記事に書いてあったか、もしかすると自分なりの勝手な解釈をして書きとめたのだろうと思う。"Technology First"とは、「デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する」と同じことを指しているのだろうと思う。

なんとなくひっかかったのは、"The inventors will invent, for that is what inventors do" (発明者は発明をするから発明者なのだ)というところ。確かに新しい製品を「発明する」という言い方は間違っていないと思うし、ジョブズの有名な "Apple is going to reinvent the phone"という言葉もある。ただ、技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできないと言っているのだ。まあ短いエッセーのなかでの彼独特の表現だとは思うが。この秋に有名な著書『誰のためのデザイン?』の全面改訂版"The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition"が出版されるようなので、その中でいろいろ物議をかもした"Activity-Centered Design"などと共に詳しく解説されるかもしれない。

僕は新しいビジネスは発明するというよりもデザインするものと表現したほうがよいのではないかと考えている。発明するよりもデザインするほうが方法論として議論することも可能になるとも思う。

ビジネスに携わる人がデザイナーをよく理解する必要などない。彼ら自身がデザイナーになる必要があるのだから。 ロジャー・マーティン

そのデザイナーがまずすべきことは、まだ誰も気づいていない「潜在的なニーズ」、ノーマンのエッセー中では"unspoken hidden needs"を見つけだすことだと思う。それはきっとその時に一般的で採用可能な技術では解決できない問題あるいは満たすことができないニーズであって、すべての人々があたりまえのこととして、あるいは無意識のうちにあきらめていることだ。

あるプロジェクトのキックオフミーティングを行った日の夜、サンフランシスコのレストランで食事をしたときに、メンバーの一人の米国人との会話の中で"serendipity"(セレンディピティ)という言葉が話題になった。英語でも造語であるようで日本語で対応する言葉を見つけられないのだが、ウィキペディアによると「何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉」とのことだ。僕が「新しいビジネスを思いつくにはセレンディピティが必要だ」と言ったときに、彼が「実は私も今日、別の場所で同じことを言ったんだ!」と盛り上がった。
  • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の意外な答えを発見する能力
ビジネスのデザイナーにはこのセレンディピティが不可欠だと思う。さらにその前に、「潜在的なニーズ」というものを常に探索し漠然としてであってもそれを自分が解決すべき課題として意識している必要がある。そうでなくては、新しい技術やインフラを見たときに「これだ!」と思いつくことなく他人事としてしかとらえることができないからだ。すなわちビジネスのデザイナーにとって、セレンディビティは必要な能力で、潜在的なニーズを見つけることは最初の仕事である。その2つによって、ジョブズのように誰も思いつかなかった製品をあたかも「発明」したかのように世に送り出すことができるのだ。だから技術者でなくとも発明はできる、ただし技術を理解する力は必要だが。実はディスプレイに貼った「デジタルビジネスデザインの進め方」には、0番として手書きで「だれも気づいていない潜在的なニーズを探索し解決すべき課題を定義する」と付け加えてある。

" The technology will come first, the products second, and then the needs will slowly appear, as new applications become luxuries, then "needs," and finally, essential."

まず技術が最初に来て、次に製品、そして新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化し、最後にそれが必要不可欠なものになる。

この「新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化する」という部分が非常に興味深い。新しい製品がもたらす新しいアプリケーションすなわちユーザー体験は、なかなか市場に受け入れられない。今までになかったもの、さらに誰も気づかなかった潜在ニーズを満たすもの、先進的であるがゆえに、理解されるまでに時間がかかるのは当然と言えば当然のこと。これはiPodが出現したときのことを考えるとわかりやすい。2001年にiPodが「1,000曲の音楽をポケットに...」と発売されてから爆発的なヒットとなるまでに2年以上かかっている。その間に容量が増えたとかWindowsにも対応したとか、いくつかの改善はあったものの基本的なアプリケーションは変わっていない。「アプリケーションが快適になる」とは、人々が新しいユーザー体験に慣れるには時間がかかるということと、アプリケーションが改善されてユーザー体験が快適になるということの2つの意味があるのだと思う。

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