最近のTechCrunchの記事から引用させていただく。

Gartnerの最新の調査報告によると、企業はビッグデータに積極的に経費を投じているが、まだ、それで何をするのかに関するプランが明確でないところが多い。調査対象の企業の64%が2013年にすでにビッグデータ関連のソリューションを購入をまたは投資を予定しており、2012年の58%に比べ明らかに増加している。その64%の内訳は、30%がすでにビッグデータ技術に投資、19%が来年の投資を予定、15%が2年以内に投資を予定(計64)、となっている。しかし回答企業720社のうち、実際にビッグデータ技術を展開配備しているところは8%足らずである。
ビッグデータは2013年に340億ドルのIT支出を惹起すると予測されているが、ビッグデータによるソリューションに魅力を感じている企業は多いものの、その多くは具体的な導入戦略について検討中の段階である。

これを読んで1990年代後半からのCRMブームを思い出した。僕も「CRM―顧客はそこにいる (Best solution) 」という本からヒントを得て、1999年ごろから独自のCRMシステムの立ち上げと運用を行ったことがあるがそれは棚に上げておく。この本は誰かに貸したままで手元にないのでリンク先からの引用になるが
 
CRMとは顧客データの分析をもとに顧客を識別し、コールセンターやインターネットなどの新しいチャネルを利用して顧客との関係を深めるという広義のマーケティング手法である。

となっている。
CRMの事業的な目的は、顧客との関係を深めることによってLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)すなわち顧客が生涯にわたって自社にもたらしてくれるであろう利益を最大化することだ。

コンスーマ向けの製品を供給しその販売を流通業などの他者に依存する多くの製造業にとって、顧客との関係を深めるための
顧客との接点(タッチポイント)は、アフターサービスに関係するコールセンターなどのチャネルしかなかった。そのためCRMはCS(顧客満足)活動などと混同されがちで、またどうしても購入した製品の故障などのきっかけによる顧客からの接触を待つだけの受身のものになってしまう。
そこでIT系のコンサルやベンダーの考え出した提案は、購入製品の保証期間の延長などをインセンティブとしたユーザー登録によって顧客情報を獲得し、定期的にEメールを送付することによって企業のポータルページへのアクセスを得ようというものだった。しかしそれらの製造業のCRMの取り組みの多くはあまりうまくいかなかったように思う。店舗やオンラインのコマースサイトを持ち頻繁に顧客との接触のあるサービス業や流通業と異なり、Eメールとポータルサイトという非常に限られたタッチポイントだけでは顧客視点に立った体験シナリオを描くことが難しい。
コンテンツをカスタマイズするだけの情報もシナリオもないまま、しくみだけが1to1という虚しい一方的なダイレクトメール発送システムと製品の宣伝ページのCMSに巨額のIT投資をしただけになってしまったのではないだろうか。
さらにソーシャルメディアの広がりによって、ソーシャルCRMとかソーシャルメディアからのリードを獲得するというマーケティングオートメーションまでをCRMに含めたような提案が出てきている。これまでの購買顧客にフォーカスしたCRMシステムではとうてい対応ができるはずがないからまた作り直しになる。

引用した文は次のように続く
その際、1つの商品や製品から顧客への短期的なアプローチを考えるのではなく、1つの企業体として長期的かつ全社的に顧客中心の視点を持つことが前提となる。
右往左往しながらのCRMシステムへのIT投資やMy Xxxx(ブランド名)などのCRMコスメティックをする前に、この前提に立ち戻って
自社の製品が提供する顧客価値を見直し、「もの」の価値だけでなく、その「もの」を使うことによって顧客が体験する「こと」の価値を高めてゆくという考え方が必要なのではないだろうか。その「こと」の価値を高めてゆこうという取り組みの中で、必然的に顧客とのタッチポイントが生まれその関係性が深まってくるはずだ。プロダクトアウトからマーケットインへの発想の転換が必要だと叫んでも、成熟した企業が急激な自己変革を起こすことは非常に難しい。目先の顧客視点や顧客ニーズによるマーケットインではなく、Webサービスによって顧客のコミットメントを得ている体験価値をベースとした商品企画・開発を行うことによって、持続的イノベーション以上のイノベーションができるのではないかと考えている。

自社が提供する「もの」を使うことによって顧客が体験する「こと」の価値をいかにして高めてゆくかという取り組みの中で顧客との長期的な関係性を築き、そのフィードバックを得て製品のイノベーションを達成してゆく。

コンスーマ向けの製品を供給する製造業ならではの、このようなマーケティング手法があるのではないだろうか。

さて、ビッグデータブームである。TechCrunchからの引用にあるように「
企業はビッグデータに積極的に経費を投じているが、まだ、それで何をするのかに関するプランが明確でないところが多い」のだからまさにブームと呼んでいいだろう。記事からたどった先のGartnerのレポートを見ると、製造業(天然資源を含む)の6割がすでに投資している、あるいは1〜2年以内に投資する予定であると答えている。

gartner

顧客とのタッチポイントを持たない製造業がビッグデータを活用しようとすると、それはソーシャルネットや検索エンジンのプロバイダーが提供するビッグデータを利用することになる。その中身は人々の行動履歴や「つぶやき」などの非構造化データである。当然、その収集(利用)や分析にはITベンダーやコンサルの力が必要になってくる。漠然と「こんなことがしたい」と言いさえすれば、膨大な提案書が配布されたプレゼンテーションに続いて要件定義ワークショップが実施され予算に応じたシステム開発がスタートする。CRMブームの時もそうであったしBIブームのときもそうだったのではないだろう。

時を同じくして日本でも朝日インタラクティブの調査がZDNet Japanに掲載されていた。

無題

製造業が顧客とのタッチポイントを持っていないと書いたが、実は上に太字で書いたような製造業ならではのマーケティング手法によれば、製品そのもの、あるいは顧客の体験価値を高める取り組みが顧客とのタッチポイントとなり、顧客の行動を把握するデータを収集することが可能になるのではないかと思う。

データ(の分析結果)に基づいて企業が意思決定を行うという姿勢はおそらく間違っていないと思う。しかしどのような意思決定のためにどのようなデータが必要なのかということを最初に明確にしておかない限り、ほとんどの取り組みは失敗するか結果が出ないまま投資を続けることになる。必要とするデータはどのようなものかが明確になれば、ビッグデータから必要なデータを抽出して分析すべきか、あるいは別の手段で必要なデータを収集すべきかが見えてくるはずだ。
ビッグデータブームのおかげで、データサイエンティストなる専門職が注目され始めている。その仕事は、それぞれの企業にとってどのようなデータをどのように活用すれば企業の成長が達成されるかという戦略立案から取り組むべきだろう。

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