デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2015年04月

最近、「アップル・ウォッチを買わないのですか?」と、よく聞かれる。仕事でiOSアプリを手がけるようになってから、持ち歩くノートパソコンをWindowsからMacBook Airに変えたこともあり、周囲からはApple好きだと思われているようだ。iPhone 6とiPad Air (WiFi+GSM)も持ち歩いているのだから、それもしょうがないかもしれない。 

プライベートではiPhone 5sを保有している。しかし普段は仕事とプライベートの境が曖昧なので、iOSアプリのリファレンス機として必要なiPhone 6を通常使用し、iPhone 5sは自宅に放置したままになっている。 もし仕事でiOSに関わっていなければ、このiPhone 5sと軽いノートパソコン(もちろんMacBook Airでもいい)だけで十分だと思う。Appleでなければならない理由はなくなる。手ぶらで外出したいときは、ジーンズのポケットに入れて邪魔にならないiPhone 5sがいい(ほんとうはiPhone 3Gの背面がラウンドしたデザインが一番好きだ)。 

日本に導入されてからのiPhone(iPhone 5cを除く)のすべてのモデルを、主に通信スピードが速くなるという理由で半年ごとに買い換え続けてきたが、iPhone 6(とPlus)には触手が動かなかった。その理由をいくつかあげることもできるが、単に欲しくならなかったというのが正直なところだ。自分にとっては"Good enough(もう十分)"なモノになっている。 

すでにスマートフォンが普及した市場においても、その機能は"Good enough"になってしまっている。ここに至るまでにAppleだけが、人々に買い替えを促すことができるブランドを確立することに成功した。Apple Watchとまったく同じものをAppleではなくソニーが発売していたとしたら、これほどポジティブに市場に受け入れられただろうか。 

新しい機能を搭載した高性能な新製品によって過去の製品を陳腐化させて、人々に買い替えを促すというサイクルにおいて、一般消費者向けの製品をつくる日本メーカーは強みを発揮する。しかし、その機能が人々の要求レベルを超えてしまったとき、それに対応する術を持たない。あるいは陳腐化戦略が永遠に続くと信じているようにも思える。 
ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(以下、ソニーモバイル)は、カメラ、オーディオなどのソニーの最先端技術を結集したフラッグシップスマートフォン『Xperia™ Z4(エクスぺリア ゼットフォー)』を今夏以降、国内市場で導入します。本商品は、Xperia Zシリーズの完成形を目指した商品です。 
(2015/04/20 ソニー発表資料)
すでにグローバル市場における競争からは離脱しているのだろうか。 
ハイエンドは国内だけにして、グローバル戦略を練り直しているのだろうか。そうだとすると、あまり時間的な余裕はないように思う。 

最近なにかと話題の中国のXiaomi(シャオミ)が、同社初のグローバルに対応したスマートフォン「Mi 4i」を発表した。 
5インチのフルHD解像度IPSディスプレイに1300万画素の背面カメラと500万画素の前面カメラ、2GBのRAMに16GBのストレージでプロセッサはSnapdragon 615(1.7GHz 8コア)いう十分と思えるスペックで、OSは最新のAndroid 5.0 Lollipopを搭載している。バッテリーの3,120mAhという容量も問題なく、何よりもその価格が驚きだ。「Mi 4i」の最後のiが示すインドで4/30から発売される価格は、なんと1万2999ルピー(約2万5000円)だという。 
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インド市場を意識した戦略的な価格設定だろうが、それにしてもこの価格は衝撃的だ。モバイル・ネットワークの周波数や日本語への対応などを考えると、まだ日本では(まともに)使えないようだが、もし対応されて自分の用途に合わせたSIMを選んで使うことができれば、コスト面で非常に魅力的だ。ぜひ、iPhone 5sから買い換えたいと思う。 

3月に発表され、それまで高まっていた市場の期待を裏切って「ガッカリ端末」とまで言われたVAIOフォンの価格は5万1000円だ(日本通信の専用SIMパッケージ料金3,000円を含む)。プロセッサSnapdragon 410(1.2GHz 4コア)、1280×720画素5インチディスプレイ、2500mAhのバッテリ容量など、ハードウェアのスペックで「Mi 4i」を上回る項目は見当たらない。ハードウェアのスペックが全てではないが、これでは競争にならないだろう。 
「たられば」ばかりになるが、VAIO社が「Mi 4i」と同等のモノを出していたら、ソニーから独立したVAIOブランドに世界中の注目が集まったに違いない。 

いうまでもなく、一般消費者向けの製品やそのメーカーのブランドは製品で形成されていく。ジョブズが復帰して以降のMac、iPad、iPhone、iPadという素晴らしい製品の流れで形成されてきたAppleというブランドの力が、Apple Watchの立ち上がりに大きく寄与しているのだと思う。Apple Watchが長期的に市場の支持を得られるかはわからないが、その成功のいかんがAppleブランドの価値に大きく影響することは間違いないだろう。 

残念ながらVAIOフォンは、そのブランディングの責任者がVAIO社なのか日本通信なのかがはっきりしない。日本通信の社長は東洋経済オンラインのインタービューに答えて次のようなことをおっしゃっている。 
(VAIOフォンの戦略は)ブランディングでスマートフォンを提供するということだ。ブランド戦略をよく知らない方からすれば、「何をバカなことをやっているんだ」と思われてしまったかもしれない。 

スマホはすでにコモディティ化した製品で、もはや差別化はできない。コモディティ化した製品に対して、やれることは3つ。ブランディング。そしてパッケージング。(中略)最後に地獄の戦略と言われるのが、誰でもできる価格戦略、プライシングだ。
この考え方自体は正しいのかもしれない。しかし、この3つをまとめて実行しているのがXiaomiだ。VIAOフォンはパッケージングとプライシングが欠けてしまっている。「誰でもできる価格戦略」というのは「誰でも思いつく価格戦略」の間違いだろう。 

SonyもVAIOもかつては素晴らしいコンスーマー・ブランドだった。そして(私を含めた日本人だけかもしれないが)、そのブランドの復活に期待する人も多いだろう。ブランドの価値を維持し高めていくには、継続的に市場に素晴らしい製品を提供していく必要がある。それに失敗してしまったSonyやVAIOは、ブランドでビジネスをすることは難しくなっている。 

かつてアパレル業界において、ブランド貸しで安易なビジネスをしようとしてブランド力を失ってしまい、その再構築に大変な代償を払ったいくつかの例を思い出す。ブランドを保有するVAIO社は、ブランドを再構築しようとするのであれば戦略を見直す必要があるだろう。 

スマートフォンのAndroid陣営をリードしてきたSamsungの勢いにも陰りが見え始めた。スマートフォンの市場における興味は、iPhoneのブランドによる高価格がいつまで維持できるか、Xiaomiがパッケージングとプライシングによってグローバルなブランドを構築できるか、ということだけになってしまうのだろうか。 

「アップル・ウォッチを買わないのですか?」という質問には、「アンドロイドに変えるかもしれないから」と答えているが、試してみるには高すぎるというのがほんとうのところだ。 

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IoTはすでにハイプではない」で書いたように、一般生活者向けの製品をつくる製造業は、IoTによって自社の製品の価値を高めたりビジネスモデルを変革したりすることができるのではないかと考えてみる価値はある。
2006年にNikeが「Nike+iPod」を発売した時、それがIoTだと騒がれることはなかった。ランニングシューズをインターネットにつなげることによって、Nikeは新しい体験を人々に提供した。

メディア(このブログもその端くれ)やITコンサル/ベンダーらが、「これからはIoTです!」などとバズワード(定義が明確になっていない流行り言葉)を使うのは、読者やクライアントの関心を買うために必要だからだ。そして、人々はそれによって技術のトレンドを知ることができる。
定義が明確になっていないのであれば、Nikeのように実際の製品やサービスによって「これがIoTだよ」と定義してやればよい。

これまでのインターネットは、ホームページやEコマースサイトやSNSなどの「場」に、PCのブラウザやモバイルのアプリケーションなどのポータル(入り口)からアクセスして、そのコンテンツやサービスを利用したり、その場でのコミュニケーションを楽しむというモデルが一般的だった。あるいはEメールやメッセージングなどのように、人と人とをつなぐ仕組みを提供してきた。

 IoTの一つの可能性として、モノとヒトをつなぐということが考えられる。

IoTによってモノがヒトと常時つながる。モノが通信機能を備えてクラウド上のサービスとつながり、それを経由して、人々が常時携帯するようになったスマートフォンのアプリとつながる。モノが収集した情報をヒトに送り、ヒトの指示がモノに送られる。

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しかしクラウドやスマートフォンは、モデリングを行うための現在利用できるプラットホームにすぎない。
クラウド(サービス)はだんだん透明化し、スマートフォンのアプリも形を変えたデバイスになり、情報と指示はもっと直感的で直接的にヒトとモノの間で交換されるようになる。そのとき、どんな新しい価値を提供できるだろうかという、ちょっと先のところから考えてみよう。

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昨年11月に、ハードウェア・スタートアップとそれを取り巻く環境について雑誌で特集を組むために、シリコンバレーとサンフランシスコに取材旅行をした。
これまでウェブ・サービスなどのソフトウェアを武器にしたスタートアップが、多くの変革を世界にもたらしてきた。スマートフォンの爆発的な普及とクラウドや通信技術やセンサーの進歩によって、モノのインターネットが実現可能になり、第二のAppleを目指すハードウェア・スタートアップがシリコンバレーとサンフランシスコに雨後の筍のように生まれている。その状況を取材先のベンチャーキャピタリストが「ハードウェア・ルネッサンスが始まっている」と表現した。(ウェッジ社刊 シリコンバレー流 ものづくり革命より)
1年ほど前にGoogleが、Nestという家庭内のサーモスタット(Nest)とインターネットにつながった火災報知器(Protect)のメーカーを約3,200億円という膨大な金額で買収したことが一つのきっかけとなって、シリコンバレーでハードウェア・スタートアップのブームが盛り上がりはじめた。 高性能な3Dプリンターの普及や中国の深センなどのグローバルな製造インフラが利用可能になったことにも後押しされたようだ。

HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)の3年前の「大きなアイデアが出てこない状況から抜け出すには」という記事をまた引用する。
The only way out of this innovation gridlock is an expansion in founding team diversity. I believe the missing piece from the DNA in the founding teams of Transformational Companies is now the Domain Expert, who has deep insight into the industry they are trying to disrupt. Without a domain expert attempts at disruption are unimaginative and incremental at best.
There are so many industries ripe for technology startups to disrupt: Education, Health Care, Business, Art and Government just to name a few. But where are the domain experts ready to be paired with a team of rockstar engineers and superstar designers? 

イノベーションの停滞状況から抜け出す唯一の道は、創業者チームの多様性を拡大することだ。私は「変革型企業」の創業者チームのDNAに欠けているものは、彼らが変革を起こそうとしている産業分野に詳しいドメイン・エキスパートであると信じている。ドメイン・エキスパートなしでは変革の企ても想像力に乏しくなり大した成果も期待できない。
教育、ヘルスケア、ビジネス、アート、政府、その他にもテクノロジースタートアップの変革を待っている産業は数多く存在する。しかしロックスター・エンジニアやスーパースター・デザイナーとチームが組めるドメイン・エキスパートはどこにいるのだろうか?
ハードウェア・スタートアップも、すでにこのような状況に陥っているように感じる。Nestの成功によって、スマートホームというバズワードが生まれ、ウェアラブルというバズワードがヘルスというドメインへのスタートアップの集中を招いている。

Nestというサーモスタットとインターネットにつながった火災報知器(Protect)というモノのデザインや「できること」、そしてそのユーザーインターフェイスも素晴らしいが、それだけではなく、Nest社の創業者であるトニー・ファデルの描いた未来の姿(大きなアイデア)を、そのモノから垣間見ることができる。IoTありきではなく、サーモスタットと火災報知器によって、顧客にこれまでにない新しい価値を提供するために火災報知器をインターネットにつなげる必要があったのだろう。
NestがGoogleに買収されてしまったのはちょっと残念だと思う。誰にも邪魔されずに、そのまま描いた未来を実現して見せて欲しかった。

取材で訪問したAugustでは、インターネットに玄関の錠をつなげてスマートフォンのアプリ(鍵)で開けることができるという製品を紹介してもらった。いまでは日本でも、ソニーが投資ファンドと組んで話題になったQrioや、フォトシンスというベンチャーがもうすぐ発売するAKERUNなど、すでにスマートロックというカテゴリーで「できること」の競争が始まっているようだ。それぞれの「できること」が描かれた動画をリンクしておく。しかしその動画からは、目指す未来の姿はまだ見えていないように思う。

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最近、このブログからコンタクトをいただいた方と、実際にお会いしてお話しする機会がポツポツと出はじめた。リーン・イノベーションやモノのデジタル・リマスタリングという考え方に興味を持っていただき、その方々のお仕事のお手伝いができるかもしれないというお話しもいくつか進み始めた。大変ありがたいことだと思っている。いろいろなチャレンジをされている方々とお話しするだけでも非常に刺激になり、私自身も新しいことを考えるきっかけになる。ブログをお読みいただき、ご興味を持たれた方は、ご遠慮なく文末のアドレスにメールでご質問やご相談をお寄せいただければと思う。

その中で、たびたびオープンイノベーションの話題がでた。オープンイノベーションとは、企業が保有するアセットを公開し、外部のアイデアや開発力を活用してこれまでにない価値を生み出すことだ。このブログで提案しているモノのデジタル・リマスタリングという取り組みの狙いも、企業がこれまでにない価値を生み出すことだが、内部のアイデアやリソースだけでは困難なことを、外部との連携で達成するということも選択肢として検討すべきだろう。

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モノのデジタル・リマスタリングでは、モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描き、それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する。それにはソフトやサービス側からの発想が必要だ。

以前の記事で、次のように書いた。
IoTの時代は、一般消費者向けの製品を製造する製造業のイノベーションのチャンスだが、それには「アプリの力」が必要になる。
これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファーム・ウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。自社の事業にとっての、スマートフォンのアプリの重要性など想像もつかない。これは、IoT時代を生き抜こうとする製造業にとって致命的な問題だ。
企業が外部の力を活用することで、不得手とするソフトやサービス側からの発想を可能にする。そのために、どのような取り組みをすれば良いのだろうか。

昨年、サンフランシスコでScrum Venturesの宮田さんにお話を伺う機会があった。そのとき「大企業によるアクセラレータ」という動きを教えていただいた(その内容は宮田さんがTechCrunchへの寄稿ををされているのでぜひお読み下さい)。そこに一つのヒントがあるように思う。

Y Combinatorに代表されるアクセラレータのプログラムでは、そのプログラムに参加を許されたスタートアップが、設定された数カ月の期間で自分たちのビジネスを組み上げていく。メンターと呼ばれる先達やいろいろな分野の専門家がチームに参加して、スタートアップが次の段階へ進むための取り組みを支援し加速させる。アクセラレータはベンチャーキャピタルの一形態であり、「大企業によるアクセラレータ」はCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とも呼ばれる。

CVCにはキャピタルゲインを目的にした投資事業というだけでなく、保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットを提供し、新規事業の創出に成功したスタートアップとのパートナーシップによって自身のイノベーションをはかろうとするケースもあるようだ。
  • 企業の既存の製品に関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描き、それを実現する「ハード」「ソフト」「サービス」によって製品を再定義する
という課題で、起業家(を志す人)やスタートアップからのアイデアを募集する。採用したアイデアの「ソフト」や「サービス」の立ち上げを、そのスタートアップに担当してもらい、それを企業がアクセラレータとして支援するというのは面白そうだ。単にハードだけの製品であれば、広くアイデアを募集するだけで済んでしまう。
具体的には、これまで提案してきたリーン・イノベーションの1st Stepと2nd Stepをスタートアップが行う。

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宮田さんは次のように書かれている。
大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。
「スタートアップとの取り組み」と言っても、大企業の経営層にとって、それがどのようなことなのかを想像することは難しいかもしれない。単にアプリやWebサービスの開発や運用を外部に委託するのと何が違うのか。
スタートアップにとってみれば、資金を獲得して事業を立ち上げるプロセスや投資家に対する責任は、ベンチャーキャピタルから投資を受ける場合と変わりがない。「スタートアップとの取り組み」をイメージするために、それがどんなプロセスでどんな規模感になるのかを考えてみよう。

自らのイノベーションのためにスタートアップに投資し連携する企業を、ここでは仮に「投資企業」と呼ぶことにする。
投資企業はアイデアを募集し、採用する優秀なアイデアに賞金や、そのアイデアを練るための当座の資金を提供する。採用された側がスタートアップであれば、すでに進めているサービスやアプリなどのベースがあるかもしれないが、まずスタートアップとしての法人の創設から始めなければならない場合もあるだろう。

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一般のアクセラレータのプログラムと同様に、スタートアップは3ヶ月程度の期間で最初の資金を獲得するための準備をする。アプリやWebサービスのコンセプトを明確にし、その開発日程や顧客獲得の戦略を立案する。デモやテストができる初期のプロトタイプもつくる必要があるだろう。

次の段階では、開発のためのエンジニアやデザイナーなどの人材の雇入れや、Webサーバーなどの利用のための費用が必要になる。そのために投資企業が、スタートアップにシード資金として2,000万円の投資をするとする。
投資企業はスタートアップが作成した計画を評価し、リーン・イノベーションの3rd Step(ゴール)においての、アプリやWebサービスと連携した新しい製品の事業規模を想定し、その時点でのスタートアップの事業貢献の価値から逆算して現時点での企業価値を算出する。仮に8,000万円と評価した場合、2,000万円の投資後の企業価値は1億円となり、投資企業は20%の株式を得ることになる。このような考え方をすることが、企業がアクセラレータを行う場合と、単にソフトやサービスの開発や運用を外部に委託する場合との大きな違いだ。後者の場合は、開発したアプリやWebサービスの成果物の権利は委託元の企業に帰属するだろうが、この(前者の)場合は、投資企業側は20%の株式にともなう権利だけを得る。

開発したアプリやWebサービスを市場に投入し、改善を重ねながらユーザーを獲得していくためには、さらなる資金が必要になる。一般のスタートアップへの投資ラウンドと同様に、その事業の成長に合わせた段階的に資金調達(投資)をすることになるだろう。事業の成長といっても、この場合は売り上げが立つ訳ではない。ユーザーの獲得と定着の状況、アプリやWebサービスの利用頻度などの伸びが成長の評価基準になるのは、アプリやWebサービスの一般のスタートアップによくあるモデルだ。

スタートアップにとってアプリやWebサービスを市場に投入する際に、投資企業のアセットを活用することができるのは大きなメリットだ。ブランディングや既存の製品と連携したプロモーションなどは、認知や初期ユーザーの獲得の強力な武器となる。リーン・イノベーションの1st Stepや2nd Stepに示したような機能的な連携を行うために、既存の製品に変更を加えることなども考えられる。投資企業が保有する特許やコンテンツなどを利用する場合のライセンス契約など、この時点でいくつかの企業間契約が必要になるだろう。

一般のスタートアップの場合、シリーズBの投資ラウンドを経て企業価値をさらに拡大させて、IPO(上場)するか、他の企業にM&A(買収)されるかが当面の目標になる(もちろんIPOは最終目標ではない)。
この例の場合、投資企業の支援を受けたスタートアップが、独自の収益モデルを完成させてIPOすることも考えられるが、投資企業がスタートアップを買収して子会社化するか、コストセンターとして内部に取り込むことが自然な流れだろう。

上の図のシリーズBの時点で、投資企業がスタートアップを買収しようとする場合、5億円の追加投資をする前の企業価値は45億円ということになり、シリーズAの時点でのスタートアップ側の株の持分は64%であるから、それまでに他から投資を受けていなければ45億円の64%の28.8億を払えば、完全子会社化するか買収後解散して内部に取り込むことができる(議決権や拒否権などを考慮して、それまでの投資について双方が株の持分を考えておく必要がある)。スタートアップの創業者グループは、28.8億円の売却益を得ることになる。

投資企業側の利益は、45億円の価値のある企業を28.8億円(とそれまでの有形無形の投資)で手に入れることができるということではない。リーン・イノベーションのゴールに描いた「新しい製品とアプリとWebサービス」によって、顧客にそれまでになかった新しい経験価値を提供する企業へのイノベーションを果たすという本来の目標を達成することができる。 投資企業が自らが投資するスタートアップの企業価値を高く見積もると、同じ投資額での取得株の割合が低くなるということが一見矛盾するようであるが、この取り組みの狙いはスタートアップのパワーを最大限発揮してもらうことであり、そのモチベーションを考えれば理屈は通る。

しかし、1つのスタートアップとの連携が必ずしも成功する訳ではないので、複数の案件を同時にハンドリングしなければならない。そして不得手とするソフトやサービスについてのスタートアップとその提案を評価する目利きが必要になるといった課題もある。最初は、宮田さんの記事にある「アクセラレータの支援企業」の力を借りる必要があるだろう。

投資企業側の人々が、それぞれの得意分野のメンターとしてスタートアップに関わり、企業価値を向上させるための彼らの貪欲な取り組みに触れることが、企業の文化を少しづつ変えていくことにつながるのではないだろうか。
日本の製造業が国内外のスタートアップと連携してイノベーションに取り組む。そんな動きが広がれば、すごく面白くなると思いませんか?

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いきなり自分の話で恐縮だが、私は大勢の人の前で話すのが非常に苦手だ。小学校一年の時の運動会で、開会の挨拶役に抜擢されたが、壇上で一言も発せずに降壇したことがある。それ以来のトラウマがあって、いまだに克服できていない。 
しかし企業内において、自分が考えた新しいことを実現するために人やお金を集めるには、経営幹部を相手にプレゼンテーションをしなければならない。 

素晴らしいプレゼンテーションというと、スティーブ・ジョブズを思い出す人も多いだろう。企業内で自分が考えた新しいことを推進するシリアル・イノベーターを志す人は、彼のプレゼンテーションについて書かれたこの本はぜひ読んでおくことをお勧めする。 



スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションはジョブズ劇場で行われる(過去形にすべきだが)。そこには彼のファンが、彼のプレゼンテーションを見に詰めかける。ショーが始まると、観客は常に笑ったり拍手をするタイミングをうかがっている。"One more thing."などのお決まりの言葉に歓声をあげたくて、今か今かとワクワクしながら待っている。 

一般の企業の中では、入社式や幹部を集めた場で企業のトップが一方的に講話をする以外に、このような恵まれた状況でプレゼンテーションをすることはあまりないだろう。しかし、この本に書かれているジョブズの魅力的なプレゼンの裏にある緻密に計算された戦略と周到な準備は、誰でも見習うべきものだと思う。なかでも、次の一文は非常に重要だ。 
「聞き手はなぜ、このアイデア/情報/製品/サービスに注意を払うべきなのか」と自問すること。会話が終わったとき聞き手に覚えてほしいポイント、それをひとつだけあげるとしたら何だろうか。
聞き手に覚えて欲しいことがひとつであれば、プレゼンは5分もあれば十分だろう。スライドを使うなら起承転結の4ページ。もっとも、それは話すことを起承転結に5分でまとめるようにして、それを話すときに背景として投影しておくという程度のものと考えたほうがいい。話す方も聞く方も、プレゼンは短い方がいい。上の本にも聴衆は10分経つと話を聞かなくなると書いてある。 

米国の西海岸では、スタートアップが投資家相手に自分のプロダクトをPRするピッチイベントと呼ばれる集まりが毎晩のように開催されている。そこでの発表の持ち時間は2分とか長くても5分ほどだ。その時間で投資家の興味を惹くプレゼンをしなければならない。多くの場合はスライドも使えない。当然、アピールするポイントはひとつだけだ。自分のプロダクトが必ず成功するとか儲かるとか説明しても、どうせ誰も信用しない。何が他と違うかということを伝えることが重要だ。本当かどうかは知らないが、投資家をエレベーターのなかで捕まえて乗っている間に説明するエレベーターピッチなどという話もある。それだと高層ビルでも何十秒だろうか。 
もっともピッチイベントの場合は、プレゼンが始まる前に投資家はスタートアップのデモブースをまわって情報収集を済ませていることが多い。 

企業の中で、新しい企画について発表し審議される時間はそれほど短くはないだろう。中期的な事業戦略や製品戦略に従った新製品の企画であれば、いろいろな役割の人が発表を分担し、聞き手の多くが意見を述べたり質問したりするための十分な時間が用意されている。 
しかし、自分が考えた新しいことを実現するために、経営幹部にプレゼンテーションをする場合は、長くても15分ぐらいの時間しか獲得できないだろう。その最初の5分で「覚えておいてほしいひとつのこと」を説明する。例えば、こんな感じだ。 
  • 起:プロダクトが解決しようとする問題 顧客が諦めていることなど
  • 承:そのプロダクトでなければならない理由 他との大きな違いなど
  • 転:そのプロダクトが市場に提供されたときの未来の姿
  • 結:覚えておいて欲しいこと なぜその企業(事業)でやらなければならないのか
これをストーリーにする。プロダクトのスケッチやモックアップなどが用意できれば、承のタイミングで紹介する。それを入れて5分だ。 

市場環境や競合の動向、そして技術のトレンドからポジショニングなどの戦略まで、説明したいことはたくさんあるだろう。シリアル・イノベーターを志すからには、それらについて聞き手の100倍は調査をして理解して考えているだろうから。しかし、そのプレゼンは成果発表でも知識のひけらかしでもなく、そして決して聞き手を圧倒してはいけない。プレゼンが終わったときに、聞き手にとって良い体験であったと思ってもらうことが大切だ。企業内で自分が考えた新しいことをするには、どうやって周囲に賛同してもらい参加してもらうかがポイントとなる。 

大企業の文化で育った経営層には、数字の入ったエクセル・シートがないと不安になる人が多いようだ。その人たちのために、上の「説明したいこと」を含めた事業計画書は用意しておこう。商品企画や開発畑の人は、新規事業のための事業計画書を作成した経験のない人も多いかもしれない。どうせならこの本を読んで参考にするといいと思う。 



企業内で自分で考えた新しいことをやろうというのは、企業内で起業するようなものだ。第3章の「事業計画の作り方」以外の章も、シリアル・イノベーターを志す人にとって刺激になることが多いだろう。プレゼンが不調に終わってしまっても、そのまま起業してしまえばいい(笑)。まあ、そのぐらいの気持ちでプレゼンの準備をしようということだ。 

事業計画書は紙にプリントして、5分のプレゼンが終わってから配布する。そうしないと聞き手が資料を読み始めてしまいプレゼンを聞いてもらえなくなる。プレゼンのときに背景に映すスライドも、聞き手が読むためのものではなく、話す内容を理解しやすくするためのものだ。スライドに書いてある文をそのまま読み上げるプレゼンを見ることがあるが、スライドなど見ないで聞き手に向かって語りかけるようにしよう。 
事業計画は、最初の1〜2ページに要点をまとめておく。そこでの数字は羅列するのではなく、それに意味をもたせた表現にしたい。このリンク先のビジュアルレポートの表現が非常に参考になる。その要点だけを説明して、質問があってから詳細のページを開いて貰えばいい。 

プレゼンは流暢でなくてもいいと思う。しかし、周到に準備をして、なんども口に出して練習を繰り返せば自信と誠意を持って話せるようになる。せっかく自分で考えたことなのだから、セリフを丸暗記して棒読みにするのではなく、自分の言葉で語れるようになるまで練習しよう。ジョブズのように。 

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