デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way Technology lives.

2015年07月

デジタル・ディスラプション

コンテンツや情報の媒体(メディア)がアナログからデジタルに変化するとき、デジタルシフトに遅れをとった企業が衰退し、新たなプレイヤーがその市場に参入してくる状況をデジタル・コンバージェンス(産業融合)という。そのとき、その市場に破壊的なイノベーションが起こることが多く、それはデジタル・ディスラプション(創造のための破壊)と呼ばれる。

そしていったんデジタル・ディスラプションが起きた市場は、さらなる変化を起こしやすくなる。 我々はカメラや携帯音楽プレーヤーの例でそれを目の当たりにしてきた。フィルムカメラの時代は100年以上続いたが、デジタルカメラの成長は10年で止まった。ウォークマンを置き換えたiPodも、あっというまにiPhoneのアプリケーションに吸収されてしまった。カメラもiPodもゲームも、iPhoneのようなスマートフォンがあれば不要になってしまったように思える。

しかし、イノベーションはそんなときに誰かが起こす。「カメラもiPodもゲームも、iPhoneのようなスマートフォンがあれば不要だ」と誰もが信じて疑わなくなったとき、誰かが「あなたの顧客の諦めていること」に気づいて、それまでになかったまったく新しい価値を提供する。きっとそこには新しいハードウェアがある。

ここまでは「ハードウェアの逆襲」でも書いたことだ。その最後は「きっとそこにはモノのインターネットによって再定義された新しいハードウェアがある。」となっている。しかし、モノのインターネットは、新しいハードウェアを生み出すための強力な手段ではあるが、それにこだわりすぎると答えを見つけられなくなる危険性もある。

ハードウェアでなければならない理由が明確なものが生き残った

カメラも携帯音楽プレーヤーも携帯ゲーム機も電子書籍リーダーも、これまではハードであることがあたり前であったものがスマートフォンのソフトウェアになってしまった。そして、(スマートフォンのソフトウェアではなく)ハードウェアでなければならない理由が明確なものが生き残った。

例えばGoProは、ビデオカメラの市場が世界的に縮小を続け、 2014年には1,000万台を切ってしまったといわれている中で一人勝ちの様相を呈し、2014年は対前年35%増の520万台弱を出荷している。売り上げの伸びは41%で、2014年の粗利率も45%に達している。日本のカメラメーカーも、アクションカムと呼ばれるこのカテゴリーの製品で後を追おうとしているが、なかなか追いつくことができない。

gopro

ちなみに、ソニーの2015年度の業績見通しで、業務用と民生用のデジタル(静止画)カメラとビデオカメラのすべてを含んだイメージング&プロダクツ・ソリューション事業の売上高は6,900億円となっている。2014年のGoProの売り上げは約1,700億円で、その1/4に過ぎないが、営業利益には大きな差がなくなった。

それまでのビデオカメラが、特に利用シーンを特定しない汎用機であったのに対し、GoProは激しいスポーツシーンでの利用に特化した。ビデオカメラが、スマートフォンのソフトウェアやデジタルカメラの一機能に代替されて、そのハードウェアとしての存在意義がなくなってしまっても、GoProはそれらでは代替されることはなかった。GoProはハードウェアでなければならない理由が明確だった。

デジタル一眼レフカメラもハードウェアでなければならない理由はある。しかしカメラメーカーは、その価値を製品やマーケティングに反映して、市場に明確に伝えることができていない。その隙に、Appleは「iPhone6で撮影」というテレビCFやポスターによるキャンペーンによって、そのハードウェアでなければならない理由を無きものにしようとしている。

人々が腕時計をする理由は、もちろん時刻を知るためと、そしてアクセサリーとしての価値の二つだ。時刻は常時携帯するスマートフォンで知ることができるようになり、時計にアクセサリーとしての価値を感じない多くの若者は時計をしなくなった。そういえば、中学一年の英語の教科書の最初の方に"What time is it now by your watch?"というのがあったが、いまでもそのフレーズはあるのだろうか。

Appleは、Apple Watchがハードウェアである理由を、それがアクセサリーであることと定義したのだろうか。タグホイヤーをはずしてApple Watchを着けるようにした人はどれだけいるだろうか。スウォッチの代わりとして、クールなガジェットを購入した人は多いかもしれない。しかし、Apple Watchがハードウェアである理由はまだ明確になっていない。

ハードウェアの力

カメラも携帯音楽プレーヤーも携帯ゲーム機も電子書籍リーダーも、これまではハードであることがあたり前であったものがスマートフォンのソフトウェアになってしまった。しかし、それらを使っている人々が諦めていることがきっとある。そしてそれは、新しいハードウェアでなければ解決できないかもしれない。それをハードウェアでなければならない理由を明確にして、スマートフォンから新しいハードウェアとして切り出す。

それをHardwarize(ハードウェアライズ)と呼ぶことにする。この造語には、ハードウェアが持っている力を再認識しようという意味を込めている。

最初のデジタル・ディスラプションによって、音楽はCDという物理的なメディアで購入するものではなく、インターネットで購入してパソコンやスマートフォンにダウンロードするものになった。そして、音楽は購入して所有するものではなくなりつつある。Apple Musicが開始されたことによって、そのデジタル・ディスラプションは加速されるだろう。

リーン・イノベーション(2)」で次のようなイメージの新しいハードウェアを提案した。これは、スマートフォンの音楽(ストリーミング受信)アプリをハードウェアライズした例だ。
goal
もはや音楽を保存する必要はない。膨大な量の音楽を管理して検索して選択するためのユーザーインターフェースも必要なくなる。代わりに、ストリーミング・サービスが提供する番組やキュレーションやレコメンドやカスタマイズ機能とのコミュニケーション・インターフェースが必要になる。それはきっと、今年のGoogle I/Oで発表されたSoliプロジェクトのような指先のちょっとしたジェスチャーと、デバイスからの音のフィードバックで実現できるだろう。

デバイスの形状はヘッドホンのようになっているが、顧客ごとの利用シーンに合わせたいろいろな提案が考えられる。自分たちでデザインした新しいハードウェアと画期的なユーザーインターフェースに、コンテンツやサービスを掛け合せた時に最高のユーザー体験を提供できる。それがハードウェアをつくる魅力だ。

蛇足:スマートフォンをハードウェアのエミュレーターとしてつかう

これまで実現できなかった多くのことが、スマーフォフォンのソフトウェアで可能になる。それを利用して、新しいハードウェアのプロトタイプとテストを行うことができる。常時インターネットに接続し、なんでも表示できる液晶スクリーンとGPSや各種のセンサーを備えたプラットホームを活用して、いろいろなアプリケーションを試すことができる。
これまでウェブサービスが中心であったスタートアップの対象が、ハードウェアの分野にも広がり始めた。その一つの理由は、 3Dプリンターなどによる新しい試作プロセスや、中国の深センなどのグローバルな製造インフラが、起業まもないスタートアップでも利用できるようになったことだ。
そしてもう一つの理由として、通信技術やセンサー技術の進化によってモノのインターネット(IoT)が実現可能になったことがあげられるだろう。あらゆるモノ(ハードウェア)はインターネットにつながって、モノに関係する情報やコンテンツをクラウドと交換する。そして人々が常に携帯しているスクリーンを備えたスマートフォンで、モノや情報をコントロールすることができるようになる。 それによって、これまでになかった新しい価値を顧客に提供し、既存のハードウェアを置き換えることができるのではないかというチャンスが見えてきたのだ。(ハードウェアの逆襲より)
ハードウェア・スタートアップの環境が整ったとはいえ、スタートアップにとって、ハードウェアのアイデアを製品に仕上げることは大仕事だ。ソフトウェアの場合はプロトタイプの繰り返しや、製品化した後の修正は比較的容易だが、ハードウェアの場合はその時間とコストは比較にならない。

それをハードウェアのプロトタイプではなく、スマートフォンのアプリケーション・ソフトウェアによってエミュレートしてテストすることができる。もちろん、この方法はすべてのハードウェアで使えるというわけではない。そして、あくまでも内部でのテストに使うためで、そのアプリケーションをApp Storeなどで配布することはできない。

例えば、特別な状況下で使うコミュニケーション・デバイスなどを想定している。物理的な形を実現するのは無理だが、その機能とユーザーインターフェースをプロトタイプして、実際に使用して、そのユーザー体験を改善していくことができるだろう。iPhoneやiPadあるいはApple Watchから、最終的なデバイスのイメージに近い大きさのものを選ぶこともできる。

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デジタル・ディスラプションの時代に経営者が読むべき2冊

次のスティーブ・ジョブズを探せ(Wedge Infinity)

コンテンツや情報がアナログからデジタルに変化し、コンピュータやインターネットで扱うことができるようになって、多くのビジネスで破壊的イノベーションが起きた。このデジタル・ディスラプション(創造のための破壊)の時代において、日本企業が生き残るためには自らを破壊してでも変革するイノベーションが必要だ。
しかし、深刻な経営不振に陥っている日本企業では、過去の成功体験を忘れられない経営者が守りの態勢を固めていることが多く、創造のための破壊はさらに困難になっている。繰り返されるリストラによって、すでにイノベーティブな人材は流出してしまっているかもしれない。変革のためのアイデアと熱意を持った人材を招き入れて力を発揮させるには、まず経営者の考え方や企業側の体質を大きく変える必要がある。


株主総会でエレキのソニーの復活を望む株主の質問に平井社長は、ソニーのエレキ事業のポートフォリオは、今まで培ってきた商品や技術を完全なものにしていくという軸と、新規事業へのチャレンジという軸で考えると答えた。前者はあたりまえのことだが、それだけを繰り返してきた結果が現在のソニーのエレキの惨状ではないか。株主が聞きたかったのは後者のイノベーションについてだったろうが、それにはSAP(ソニー・シード・アクセラレーション・プログラム)という新規事業プログラムをあげただけだった。

昨年の4月にスタートしたSAPにしても、今年の7月1日にオープンしたFirst Flightにしても、なにやらシリコンバレーを中心とする米国で流行っているものを集めて、ソニーという箱庭のなかでスタートアップごっこをしているように感じてしまう。

もし、それらの取り組みが、ソニーの既存事業に破壊的イノベーションを起こすことを狙いとしているならばおもしろいと思うのだが。

ソニー・エレキ復活のシナリオはあるか?(Wedge Infinity)

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