デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way Technology lives.

2015年09月

グーグルは、今年4月にProject FiというMVNO事業を発表した。スプリントとT-モバイル(USA)の2つのキャリアの回線と、フリーのWi-Fiサービスを組み合わせて、スマートフォン向けの通話とデータ通信サービスを提供するという。利用できるスマートフォンが、グーグルブランドのNexus 6の一機種に限定されており、まだ実験的な取り組みであるように思えるが、端末と通信とクラウドの3つの領域を水平に統合することによって、スマホエコノミーの中に新たな変化を生み出そうとしているように見える。
google
スマホエコノミーでのグーグルの事業領域

スマホエコノミーの顧客に、これまでになかった新しい体験を提供できる環境が整ってきたのではないだろうか。

スマホエコノミーを読み解く(Wedge Infinity)
アップルの一人勝ちの次に来るものは何か?

7月に93歳で亡くなった評論家で哲学者の鶴見俊輔さんは、自分の理想とする文章の条件として「誠実さ」「明確さ」「わかりやすさ」の3つを挙げている。

誠実さとは、紋切り型の言葉に乗ってスイスイと物を言わないこと。人のつくったある程度気の利いた言いまわしを避けて、みんなの普通の共通語を主に使って、これというところについては、その普通の言葉を自分流に新しく使うこと。それが自分の状況にかなう言葉だという。

明確さというのは、はっきりしていること。そこで使われている言葉を、それはどういう意味か、と問われたら、すぐに説明がつくということ。事実に合っていることが重要で、推論の正しさもそれには含まれる。ほかの人の推理に寄りかかるというのではダメだという。

わかりやすさとは、特定の読者にたいしてわかりやすいということ。その読者とは、自分であってもいい。読者としての自分というのは重要であって、自分の内部の発想にはずみをつけていくものが、いい文章だという。

文章心得帖 (ちくま学芸文庫)
鶴見 俊輔
筑摩書房
2013-11-06


このブログを書き始めてしばらく経ったころに読んだこの本の次の文章が、自分がブログを書くモチベーションをうまく表してくれていると思った。
文章を書くということは他人に対して自分が何かを言うという、ここで始まるものではない。実は自分自身が何事かを思いつき、考える。その支えになるものが文章であって、文章が自分の考え方をつくる。自分の考えを可能にする。だから、自分にはずみをつけてよく考えさせる文章を書くとすれば、それがいい文章です。
鶴見さんの理想とする文章の3つの条件を心がけて書いてきたつもりだったが、訃報をきっかけに過去の記事を読み返すと、書き直さなければと思うところの切りがない。

ポイントは「紋切り型の言葉」だ。「人のつくったある程度気の利いた言いまわし」ばかりが目につく。自分自身が思いついたはずの何かの事を説明しようして、紋切り型の言葉を安易に使ってしまっている。

最近、新しい企画を人に説明する機会がいくつかあった。2つの企画を、それぞれ別々の仲間や外部の人たちに説明をした。「誠実さ」「明確さ」「わかりやすさ」に注意して資料を作成して説明を行ったつもりだが、どうしても紋切り型の言葉を使いたくなる。それを並べるほうが、簡潔になるように思えるのだ。

しかし、その言葉に対する理解は、自分と、聞く相手では異なっているかもしれない。みんなの共通語を使って、誠実に明確にわかりやすく説明できないとしたら、それは自分の考えが可能になっていないということなのだろう。

スティーブ・ジョブズについて書かれたいくつかの本やネット上の記事で、ジョブズの次の言葉が紹介されている。
When you start looking at a problem and it seems really simple, you don't really understand the complexity of the problem. Then you get into the problem, and you see that it's really complicated, and you come up with all these convoluted solutions. That’s sort of the middle, and that's where most people stop... But the really great person will keep on going and find the key, the underlying principle of the problem --- and come up with an elegant, really beautiful solution that works.

ひとつの問題の検討をはじめて、それがとても単純なように思えたなら、君たちはその問題のほんとうの複雑さを理解していない。問題に取り組んで、それが複雑だとわかると、ありとあらゆる難解な解決策を思いつく。それはまだ途中なんだけど、たいていの人間はそこで終わってしまう。ほんとうにすごい人間はそこで終わらずに、その問題の隠された本質を見つけ出して、そしてエレガントで、実に美しい解決策を探し出すんだ。
これはマッキントッシュを開発しているときに、デザイナーに言った言葉だそうだ。ある問題の、その裏に隠された本質を見つけ出すというのは、デザイン思考のアプローチとも共通する。

ジョブズのいうエレガントで美しい解決策とは、シンプルで、「誠実さ」「明解さ」「わかりやすさ」を備えたものだ。しかし、その解決策を実際に形にしようとすると、さらに厄介な問題に気付くことが多い。問題の発見と、そのエレガントな解決策の探索のプロセスを何度も繰り返すことが、限界を突破し、新しいものを創造するということだろう。

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それには、自分のつくるものに対しての批評性を持つことが必要だ。

スタンフォード大学のd.schoolに"Thinking transofromed by making"(つくることで思考が変わる)という言葉が掲示されている。

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「それまでになかった新しいものを創るということ」という記事で画家の山口晃さんの言葉を紹介した。
私が面白い(大切)と思うものを誰もそう思わない。 
そう思えるよう表してやる。それが表現。
NHKの日曜美術館という番組の「画伯!あなたの正体は?ドキュメント・山口晃」という特集で、山口さんがノートにメモしていた言葉だ。その記事に、次のようなことを書いた。
いくつかの葛藤を経て、画家は「自分の描きたいものを描く」という画家としての原点に再帰した。自分の描きたいものとは、「私が面白い大切と思うもの」であり、描くという行為は、それを人々にも同じように思ってもらうための表現手段だ。
画家が面白い大切と思う独特の発想が形になるまでは、当然ながら人々はそれを理解することができない。その発想と人々の理解とのギャップが大きければ大きいほど、きっと画家は穏やかな表情に秘められた野心を掻き立てられている。
これは、新しいプロダクト(製品やサービス)を生み出そうとしている人にも、共通するモチベーションだろう。

シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータの共同創業者のポール・グラハムも、良いアイデアは最初バカげたものに見えると言っている。新しいプロダクトを生み出した人は、他の人が気づいていない問題に気づき、自分がほんとうに欲しいと思うものを自分でつくった。ほとんどの人がそれが価値があると認識していないアイデアこそが最高だと。

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しかし、そのバカげたものに見えるアイデアは、実際にバカげていて人々に使ってもらえないものかもしれない。

スタートアップの文化では、それを確かめるために早くプロダクトをつくって市場に投入しろといわれる。そのプロダクトが市場にまったく受け入れられなければ、それが「実際にバカげている」ものだったことがわかる。ポール・グレアムによると、スタートアップが成功する確率は7%だという。93%の失敗の原因はいろいろだろうが、「実際にバカげている」ものをつくろうとしている場合も多いだろう。

Yコンビネータが投資する対象は、インターネットやモバイルのソフトウェアで実現するサービスが中心だ。なにしろ、早くプロダクトをつくってリリースしろという。もちろん、それは完成品ではなく、人々に実際に使ってもらってフィードバックを得て、改良を繰り返すためのものだ。

たとえ成功する確率が7%だとしても、スタートアップは、「私が面白い(大切)と思うものを、投資家がそう思わない」ならば、プロダクトを市場に出して実際に顧客を獲得し、その価値を証明しなければならないという事情もある。

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早くプロダクトをつくるということには、もうひとつの価値がある。
最初は偶然のように始った絵が1/3ぐらい出来上がると、自分の中に批評性というものが生まれる。描いている(書いている)ものが良いか悪いか、この点は良い、この後半戦はすっかり捨ててやり直さなければいけない、というような態度決定を自分に呼び起す力が、偶然から始まった絵、あるいは偶然からのように始まった小説の草稿にはある。それが僕にとっては一番面白い、小説家であることの驚き悦びに関係しています。 
これも、やはり日曜美術館で、大江健三郎さんがフランシス・ベーコンの絵の前で話した言葉だ。冒頭で紹介した"Thinking transofromed by making"という言葉と一致する。

形にすることによって、自分のアイデアを客観的に批評することが可能になる。自分で実際に使ってみて、その体験の価値を検証することもできる。それは、アイデアを紙に描いただけのものや、動画にしたものでは力が足りない。一部の機能で良いから実際のデータを使って動くものが欲しい。
番組のナレーターが次のように言った。
「独りよがりの思いから生まれた絵が見るものの胸を打つ」
アートに限らず、それまでになかった新しいモノを創り出すということは、「独りよがりの思い」あるいは「独特の発想」から始まる。それを「独りよがり」で終わらせずに、人々の胸を打つ表現という形にするには、自らに生まれる批評性というものが必要だと思う。
(それまでになかった新しいものを創るということ)
実は、いま取り組んでいるプロジェクトで、アプリケーションのプロトタイプをつくって、それを数十人に使ってもらい、フィードバックの分析を終えたところだ。そこから得たことも多かったが、"Thinking transofromed by making"ということをあらためて実感している。

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