デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2016年02月

最初に、これは私の勝手な想像だということをお断りしておく。

しかしソラコムは、久しぶりに想像力を掻き立てられるスタートアップだ。IoT(モノのインターネット)のためのモバイル通信サービスを提供するソラコムは、このブログで何度も引用しているマックス・マーマーのスタートアップのブームに対する手厳しい指摘にはあてはまらない。
起業のコストが劇的に下がり、まったく新しい層の起業家が会社を創ろうとしている。「取るに足らない会社」を始めようとする創業者は、10億ドル規模の会社を作ろうと目論む起業家とは違う。そのような創業者は世界を変えたいとは思っていない。彼らは家族を養ったり、車を買ったり、自由を得たりするために必要なお金を稼ぎたいだけなのだ。彼らは、情報経済社会における中小企業の経営者に過ぎない。ただテクノロジーのおかげで、これまでの店舗経営より効率的で収益性が高くなっただけだ。彼らはレストランや美容院を始める代わりに、多くのレストランや美容院で使えるクーポンアプリを作る。

ソラコムの創業者は世界を変えたいと思っている(はずだ)。

ソラコムはAWS(Amazon Web Services, Inc.)のエバンジェリストだった玉川 憲CEOが、2014年11月に設立した(2015年4月にソラコムに商号変更)。玉川CEOは設立まもない段階で異例ともいえる7億円もの資金を調達した理由を、(マックス・マーマーの言うような)中小企業をつくりたいのではなく、大きなリスクを負ってでもIoTの本格的プラットホームをつくる時間を稼ぐために必要だからだと話した。

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NTTドコモなどの携帯キャリア(MNO)のネットワークに接続してデータ通信の帯域を買い、携帯キャリアから貸与されたSIMによって独自の通信サービスを提供する事業者をMVNO(仮想移動通信事業者)という。
MNO

MVNO事業

IoTの端末はスマートフォンに比べて通信するデータ量が非常に小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また端末が通信するタイミングをうまく分散できれば、それほどの帯域も必要なくなる。その分、データ通信の売上高も少なくなるだろう。MVNOの事業にはパケット交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。これまでのような価格以外に付加価値のないスマホ向けの格安SIMを提供するMVNOの形態で、IoTのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。

ソラコムはMVNO事業のデータセンターに必要なパケット交換、帯域制御、会員管理や課金などの機能を、自社で開発したソフトウェアで実現して、2015年9月30日にIoT向けのモバイル通信サービスの提供を開始した。
ソラコム

そのソフトウェアは、MNO(NTTドコモ)のデータ通信ネットワークと接続されたAWSのクラウドサービス上で動く。それによって初期投資や維持費を大幅に削減できただけでなく、ソラコムからSIMを購入して自社製品に組み込む事業者が、そのSIMを自由にコントロールすることができるサービスを提供することが可能になった。

実はソラコムのデータ通信の利用料金自体は、他の格安SIMと比べて、それほど安いとはいえない。例えば、高速データ通信では、ソラコムは上り(端末からの送信)が1Mバイトあたり0.2円〜0.3円、下りが0.2円〜1円であるのに対し、同じようにNTTドコモの回線を利用する楽天モバイルのSIMは、上り下りに関係なく1Mバイトあたり0.23円〜0.29円とさほどの違いはない。低速データ通信の場合は、ソラコム(128kbps)は、1Mバイトあたり上り0.2円〜0.22円で下り0.2円〜0.7円と、高速の場合とあまり差がないのに対し、楽天モバイル(200kbps)は、月額525円で無制限のデータ通信が利用できる。

しかしソラコムの場合、利用料金がすべてのSIMの合計のデータ通信量で計算されるので、IoT事業者は実際に使った分だけを支払えば良い。また、IoT事業者はソラコムのサービスを利用して、SIMの状態やデータ通信量を監視し、SIMごとのデータ通信速度の変更、使用開始/休止といった操作をすることによって、データ通信にかかる費用を最小限に抑えるための努力をすることができる。

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さて、ここからが私の想像(期待)になる。ソラコムの本当の凄さは、サービスをグローバルに拡大するときに発揮されるはずだ。

現在普及しているSIMカードは、1つの携帯キャリアと通信するための情報(通信プロファイル)が書き込まれており、それを変更することはできない。そのため海外向けのIoT製品は、スマートフォンのようにSIMを交換できるようにするか、現地で利用できる携帯キャリアからSIMを購入し、仕向け地ごとに在庫・管理して組み込む必要がある。前者の場合は部品点数の増加、製品の形状の制約や耐久性・防水性についての問題があり、後者については生産の効率性や出荷テストが難しい、生産後に製品の仕向け地が変更できないといった問題が生じる。
現在普及しているSIM

このSIMカードの情報を後から書き換えることができるeSIMと呼ばれる技術が、GSMAという通信キャリアの業界団体で検討され、用途を限定した技術仕様書が策定されている。

eSIMは複数の携帯キャリアの情報を保持することができ、後から追加で書込むことも可能になっている。その1つを有効にして、その携帯キャリアのネットワークを使って通信を行う。それによって単一のeSIMで海外向けの製品の製造および在庫の管理ができるようになり、生産および管理の効率が格段に向上する。
eSIM

NTTドコモは2014年6月から法人向けにeSIMの提供を始めている。NTTドコモはJasper Technologies社のプラットフォームを採用しており、製品にNTTドコモのeSIMを組み込んで海外に輸出するIoT事業者は、このプラットフォームを利用して現地のキャリアへの変更を行い、その回線の開通と停止、利用状況の管理やトラブル診断を行うことができる。

しかし、実際には2015年10月からブラジルの携帯キャリアVivo(Telefonica Brasil S.A.)の利用ができるようになっただけだ。AT&Tをはじめとして、海外の多くの携帯キャリアもJapserのプラットフォームを採用しているので、仕組みとしては大きな問題はないはずだ。NTTドコモのeSIMで利用できる海外の携帯キャリアが増えないのは、まだグローバルに利用できるeSIMのニーズがないということもあるだろうが、携帯キャリア間で通信料金やサポートなどについての調整が難航しているからではないだろうか。

一方で、このeSIMのビジネスモデルは携帯キャリア間の通信プロファイルの交換であり、そこにMVNOが参加することは難しい。 しかし、ソラコムはMVNOのビジネスモデルの延長でeSIMと同様のサービスを実現することができるはずだ。
soracom global
想像図

海外でMVNOとして現地の携帯キャリアのネットワークと接続する場合、ソラコムはAWS上のソフトウェアをコピーするだけでよく、非常に低コストで実現することが可能だろう。IoT事業者は地域に関係なくSIMを一元的に管理して、回線の開通と停止や利用状況の管理をすることができる。

ソラコムがeSIMと同様の機能を持った書き換え可能な独自のSIMを発行するには、携帯電話番号、端末の所在地、顧客の契約状況などの情報を管理するデータベース(HLR/HSS)の独自運用が前提となるが、日本では携帯キャリがHLR/HSSをMVNOに開放していない。

しかし総務省は、HLR/HSSをMVNOが保有するための加入者管理連携機能について、3月に予定されている改正電気通信事業法の施行に向けて準備中のガイドラインの中で「開放を促進すべき機能」に位置付け、事業者間協議の更なる促進を図るとしている。欧州では携帯キャリアのネットワークの開放が進んでいるので展開も容易だろう。すでにソラコムは、米国のキャリアとの接続についての検討を進めているという。

HLR/HSSは音声サービスのための回線交換網にも接続され、他の携帯キャリアの端末からの着信時などに重要な役割を果たす。その設備の導入には、やはり数億円から数十億円の投資が必要だと言われている。しかしデータ通信のパケット交換網だけに割り切れば、ソフトウェアでHLR/HSSを実現することはソラコムにとってさほど難しいことではないだろう。 

ソラコムは「IoTのためのグローバルなモバイル通信サービスを提供できる唯一のMVNO」という可能性を持っている。ぜひ、日本発のグルーバルなモノのインターネット製品のプラットホームとして、アップルやグーグルのMVNOに対抗できるものになってもらいたいと思う。
 

図ではソラコムが配布している公式アイコンセットを使わせていただいた。
記事の更新は
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7月17日追記
7月13日、ソラコムは
「日本で製造を行い海外に出荷する製品に、あらかじめ SIM を組み込み、利用開始時に Web コンソールから通信開始、製品利用終了時は同様にリモートから SIM を解約」できる「SORACOM Global PoCキット」の受付を開始した。それがどのような仕組みなのかは明らかにされていないが、一気に「120を超える国と地域でサービスが利用できる」ようになったということは、一つ一つの海外キャリアと上述のような接続をしたのではなく、何らかの仲介サービスを利用しているのではないかと思う。ぜひ、そのあたりの話を聞いてみたい。
 
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(続)米国の模倣でないオープンイノベーションを!

前回の要旨は次のようなものだ。 
日本の製造業のハードウェアの力と、スタートアップのソフトウェアの力を合わせてビッグアイデアにチャレンジすることができれば「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」ことができるはずだ。しかし、「ものづくり」という成功体験から離れることができない日本の製造業は、かなり保守的になっていて、そこに米国式のオープンイノベーションを持ち込んでも、なかなか受け入れられないように思う。米国の模倣でない、日本独自のオープンイノベーションの方法を考える必要がある。
米国では大企業がスタートアップを支援するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)と呼ばれる取り組みが増えているという。それは単なる投資事業ではなく、大企業が保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットを提供し、新規事業の創出に成功したスタートアップとのパートナーシップによって自身のイノベーションをはかろうとするものだ。

製造業のイノベーション戦略を技術とドメインという軸で表わしたマトリックスで見ると、保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットをスタートアップに提供して新規事業を創出しようとする米国のCVCの取り組みは、△僚乎翅審儼燭寮鑪と言えるだろう。
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イノベーションのマトリックス

しかし、製造業にとってのアセットである「重要な技術」をスタートアップに提供することは難しいだろう。死蔵している技術・知的財産や、持て余し気味のバリューチェインを(再)利用した新規ビジネスのアイデアを社外に求めるだけではイノベーションを起こせるはずはない。限定的な技術の開示では、社内の人に比べてスタートアップが大きなハンデを負うことになり、そこに画期的なアイデアの創出を期待するのは無理な話だ。新しい事業や製品のアイデアを生み出す難しさは、スタートアップとて同じだ。

一般消費者向けの製品の競争のパラダイムは、生産の力からソフトウェアの力にシフトした。しかし、これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどのソフトウェアは非常に不得手な分野だ。

イノベーションのマトリックスの,蓮△垢任乏容世靴討い觀弍鳥餮擦筌丱螢紂璽優奪肇錙璽の多くを活用してプロダクトのイノベーションをはかる水平型の多角化だ。冒頭の「日本の製造業のハードウェアの力と、スタートアップのソフトウェアの力を合わせてビッグアイデアにチャレンジする」とは、多くのスタートアップが得意とするソフトウェアを「新しい技術」として取り込み、プロダクトのイノベーションを目指そうというものだ。

技術(シーズ)からいきなりアイデアを捻り出そうとするのではなく、 まず、その企業が提供してきた製品を使う人々の体験に着目し、その人々が抱えている潜在的なニーズ(無意識のうちに諦めている問題)を見つけだすところから始める。これは米国のIDEOなどデザイン会社がコンサルティングに取り入れているデザイン思考と同様のアプローチだ。しかし、コンサルタントとクライアント(企業)という構図でも、企業がスタートアップを支援するというのでもなく、企業とスタートアップが共同で取り組むことが必要だと思う。

そのドメインに長く関わってきている企業の人は多くの貴重な経験と情報を持っているが、先入観やハードウェアからの発想の限界から、彼らが気づいていない潜在的なニーズが必ずある。それを発見し、それが満たされた時のユーザの新しい体験をデザインし、ハードウェア(製品)とソフトウェア(Webサービスやスマートフォンのアプリケーション)で分担して実現する。スタートアップはソフトウェアに限らず「新しいユーザ体験」をデザインすることを得意としている(はずだ)。
iPodやiPhoneの例を見ても、ビッグアイデアのプロダクト・マーケット・フィットには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいだろう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加えて「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返す必要がある。そして徐々に、その価値が人々に理解されていく。
これは製造業にとって馴染みのない取り組みだ。また、スタートアップにとってもハードウェアで「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すことは体力的に難しい。これも、企業とスタートアップが共同で取り組むことによって可能になるはずだ。

オープンイノベーションの目的は、単に新規事業を生み出すことではなく、企業活動のプロセスやマインドを変革することだろう。それには新規事業創出の組織やプロジェクトなどをつくるだけでお茶を濁すのではなく、経営のトップの強いコミットメントと覚悟によって根幹の事業のミッションとして推進しなければ成果は期待できない。

もちろん、IDEOのように大企業の経営トップに直接アプローチすることは、スタートアップにとって容易なことではない。スタートアップは、あらかじめ見込み先の企業のドメインを研究し、潜在ニーズについてのいくつかの仮説を立て、たたき台として企業に訴求できる新しいユーザ体験を描いておく。その上で、企業がスタートアップに出会う場が必要になる。すでに、スタートアップのショーケースやミートアップと呼ばれるイベントが開かれているが、企業側から見たとき接点を見つけることが難しい。スタートアップ側から大きく近寄ることが必要だと思う。

米国の投資顧問会社で働く広瀬隆雄氏は自身のブログで、WSJの記事を引用して、シリコンバレー(のスタートアップ)が不況の入り口に立っていると指摘している。
現在は、ごく一握りの有名なスタートアップ企業を除き、ベンチャーの資金が受けにくくなっています。
 
その一因はテックIPOの悲惨なパフォーマンスにあります。2014年以降にIPOされたテクノロジー企業は全部で48社ありますが、そのうち35社がIPO価格を下回っています。
 
その関係で、とうとうIPOウインドウが閉じてしまい、シリコンバレーは長い冬を耐えしのぐ、冬籠りモードに入りました。

日本でもスタートアップを取り巻く環境が大きく変わるかもしれない。これまでのスタートアップの活動を否定するつもりはないが、このような形で大企業に変革を起こし、ビッグアイデアにチャレンジすることも面白いのではないだろうか。

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海外の商品より売れる日本の商品をつくる

「GDPは何の略語か?」という質問にアイドルグループのメンバーが流暢な英語で正解したので、思わずテレビに目が行ってしまい仕事の手が止まった。2/19(金)に放送されたNHKのシブ5時というニュース番組の録画が再生されていた。

・10円で輸入された種芋
・農家が芋を育てて30円で菓子メーカーに売る
・菓子メーカーはポテトチップスをつくって80円で流通に売る
・流通はポテトチップスを100円で売る

さて、GDPにカウントされるのはいくらか?

流通の生産(100円 - 80円) +菓子メーカーの生産 (80円 - 30円) +農家の生産 (30円 - 10円) = 90円

これもアイドルグループが正解。オォー!

そして「安倍首相が表明したGDP600兆円を達成するにはどうしたら良いか?」という質問への回答が次のようなものだった。
  1. 関税をあげる
  2. 海外の商品より売れる日本の商品をつくる
  3. 工場を増やす
  4. 観光に力をいれる
  5. Sexy Zoneが売れる!!
  6. 自給率をあげる
  7. 外国人労働者をふやす!
オォォォー!全部が正解ではないが、すごい!

GDPの計算でキャスターがおかしな数字を答えていたので、仕込みではないと素直に受け取ることにする。Sexy Zoneというアイドルグループだ。高校の授業で習ったのだろうか。彼らが何歳ぐらいなのかは知らないが、大学受験の勉強をしているなら知っているのも当たり前なのかもしれない。

しかし、彼らでも「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」ことができていないということに気づていている。「彼らでも」という表現は、日本経済などに関心がなさそうに思える若者たちでも、という意味で、それほど「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」ことができていないことが、誰でもが認識している明白な事実だということだ。

日本の製造業とスタートアップの現状

リーマンショックとその後の円高で、一般消費者向けの製品をつくる日本の製造業は、それまでの勢いを完全に失ってしまった。金融緩和政策によって誘導された円安によって表面的には業績が回復したように見えるが、実はその間に、アイドルグループがGDPを上げるために必要なこととして挙げた「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」力が完全に失われていた。多くの製造業は、生産のコストダウンや海外シフトに気を取られ、競争のパラダイムが生産の力からソフトウェアの力に急速に移りつつあることに気がつかなかった。
これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファーム・ウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。自社の事業にとっての、スマートフォンのアプリの重要性など想像もつかない。これは、IoT時代を生き抜こうとする製造業にとって致命的な問題だ。
液晶のシャープもカメラ用センサーのソニーも、アップルのiPhoneの売り上げに頼って一時的に業績が回復したに過ぎない。iPhoneがクシャミをするだけで、日本の電子部品メーカーは風邪を引いてしまう。技術だけに頼った部品やハードウェア製品の消耗戦に勝ち続けることも非常に難しいだろう。

以下は、スタートアップについてのマックス・マーマーの手厳しい意見だが、筆者も日本のスタートアップの多くに同様の印象を抱いている。 
起業のコストが劇的に下がり、まったく新しい層の起業家が会社を創ろうとしている。「取るに足らない会社」を始めようとする創業者は、10億ドル規模の会社を作ろうと目論む起業家とは違う。そのような創業者は世界を変えたいとは思っていない。彼らは家族を養ったり、車を買ったり、自由を得たりするために必要なお金を稼ぎたいだけなのだ。彼らは、情報経済社会における中小企業の経営者に過ぎない。ただテクノロジーのおかげで、これまでの店舗経営より効率的で収益性が高くなっただけだ。彼らはレストランや美容院を始める代わりに、多くのレストランや美容院で使えるクーポンアプリを作る。 
一年ほど前に月刊Wedgeの「シリコンバレーがかえる ものづくりの常識」という特集のために、シリコンバレーでハードウェアのスタートアップを取材した。
シリコンバレーといえば、Google、Facebookに代表されるIT企業やソフトウェアが思い浮かぶ。しかし、いま第2のAppleの誕生を予感させる「ハードウェア・ルネッサンス」ともいえる動きがはじまっている。 
しかしハードウェア・スタートアップには、ソフトウェア・スタートアップにはない難しさがある。
iPodやiPhoneの例を見ても、ビッグアイデアのプロダクト・マーケット・フィットには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいだろう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加えて「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返す必要がある。そして徐々に、その価値が人々に理解されていく。
ハードウェア・スタートアップにとって、3DプリンターやEMSを利用できるようになったとはいえ、「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すには、会社設立時に集めた数百万円程度のシードマネーだけででは不十分だ。 最初の製品が売れなければ、次のサイクルのための製品を作るための資金を獲得することも難しくなる。
日本の製造業のためのオープンイノベーション

米国では大企業がスタートアップを支援するコーポレート・ベンチャーキャピタルと呼ばれる取り組みが増えているという。それは単なる投資事業ではなく、大企業が保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットを提供し、新規事業の創出に成功したスタートアップとのパートナーシップによって自身のイノベーションをはかろうとするものだ。

日本でも、オープンイノベーションを推進しようとする活動が始まっているが、その多くは米国で行われている取り組みの形を真似たものに見える。

戦後の米国と日本の製造業はお互いに大きな影響を与え合ってきたが、決して同じ道を歩んできたわけではない。米国では戦後の資本主義経済の浮き沈みのなかで、人材の流動性や多くのベンチャーキャピタルが生まれてきた。米国という明確な目標があって、その目標に追いつき追い越すことに成功した日本の製造業は、かなり保守的になっていて「ものづくり」という成功体験から離れることができない。そこに米国式のオープンイノベーションを持ち込んでも、なかなか受け入れられないように思う。

これまで一般消費者向けの製品をつくってきた日本の製造業は、ビックアイデアへのチャレンジを諦めて、デバイス事業やBtoBのビジネスへのシフトしようとしている。さらには製造業からの退却をも模索しているようにも見える企業もある。しかし日本の製造業のハードウェアの力と、スタートアップのソフトウェアの力を合わせてビッグアイデアにチャレンジすることができれば、競争のパラダイムがソフトウェアの力にシフトした世界で「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」ことができるはずだ。

それには米国の模倣でない、日本独自のオープンイノベーションの方法を考える必要がある。

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「さくらのIoT Platform」の発想は「モノがつぶやけばいいのに…」という会話がきっかけで生まれたという。ツィッター上の人々の膨大なつぶやきを解析することによって、様々な事業者にとって価値のある情報を得ることができるようになったように、IoT時代には「モノのつぶやき」が価値を生むのではないかという。
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「さくらのIoT Platform」とは何なのか。その技術面とビジネスモデルの特徴と、目指すビジョンについて考えてみた。

モノがつぶやく さくらインターネットのIoT(Wedge Infinity)

ツィッターで人々が何をつぶやくかは予測できないが、モノがつぶやくことはあらかじめ決められている。データサイエンティストではなく、どのようなデータをどう活かして新たな体験をデザインしていくのかということを考えてデータ自体をデザインするデータデザイナーという役割が必要になると思う。

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2月19日(金)に開催される「THE BRIDGE Fes 2016」というスタートアップのイベントへのお誘いをいただいた。

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終日に渡って、著名なスピーカーによるセッションが開催されるが、「DEMO PIT 100」という「企業の出会いを提供するピッチ/デモ・プログラム」で「バカげたもの」を探してみようと思っている。
アイデアや戦力を求める企業とスタートアップのマッチングを推進します。ピッチ会場ではいつも聴衆の側にいる企業に登壇してもらい、未来のパートナーに呼びかけてもらいます。ミーティング会場には最大100社のスタートアップ企業がデモピットに出展。スタートアップとの出会いの場を提供します。
シリコンバレーの650社以上のスタートアップへのインタービューを基に、2011年5月にスタートアップ企業がどうすれば成功するかを詳しく分析したスタートアップ・ゲノム・レポートを発表したマックス・マーマーは、2012年7月にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した"Reversing the Decline in Big Ideas"(ビッグアイデアの減少に歯止めをかける )で次のように言っている。
起業のコストが劇的に下がり、まったく新しい層の起業家が会社を創ろうとしている。「取るに足らない会社」を始めようとする創業者は、10億ドル規模の会社を作ろうと目論む起業家とは違う。そのような創業者は世界を変えたいとは思っていない。彼らは家族を養ったり、車を買ったり、自由を得たりするために必要なお金を稼ぎたいだけなのだ。彼らは、情報経済社会における中小企業の経営者に過ぎない。ただテクノロジーのおかげで、これまでの店舗経営より効率的で収益性が高くなっただけだ。彼らはレストランや美容院を始める代わりに、多くのレストランや美容院で使えるクーポンアプリを作る。
しかし、ビックアイデアの減少はスタートアップに限ったことではない。Wedge Infinityに寄稿した記事「スマホの呪縛に陥ったパナソニックのデジカメ」で次のように書いた。
パナソニックが訴求しているDMC-CM10のモバイル通信で可能になることは、撮影した写真をカメラで編集して、クラウドへ保存したりSNSにアップロードするというものだ。これではスマートフォンの後追いでしかない。せっかく自社のモバイル通信サービスをバンドルできるのに、デジタルカメラの通信機能を顧客価値に転化できていないのは残念だ。
デジタル化されたコンテンツや情報を記録したり保存したり伝達したりするメディア(媒体)が、パソコンやデバイスの物理的メモリーからネットワーク(クラウド)に移りつつあるとき、自社でMVNOというモバイル通信事業を持っているパナソニックは「デジカメの再発明」というビッグアイデアにチャレンジするに有利な立場にある。

しかしパナソニックに限らず、一般消費者向けの製品をつくる日本の製造業の多くは、ビックアイデアへのチャレンジを諦めて、デバイス事業やBtoBのビジネスや、さらには製造業からの退却をも模索している。それはイノベーションのジレンマが原因ではなく、単純に「アイデアを生む人材」がいなくなってしまっただけのように思う。

シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータの共同創業者のポール・グラハムは、良いアイデアは最初バカげたものに見えると言っている。ほとんどの人がそれが価値があると認識していないアイデアこそが最高だと。

もちろん、バカげたものが良いアイデアだとは限らない。そうでない場合の方がはるかに多いだろう。スタートアップが「情報経済社会における中小企業経営者」を目指したとしても、周りからとやかく言われる筋合いもない。しかし、バカげたものにチャレンジしてこそのスタートアップだろう。

「DEMO PIT 100」にはハードウェアのスタートアップはあまり見当たらないが、アプリやサービスでも「バカげたもの」を見つけたら紹介しようと思う。

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パナソニックが1月19日に発表した「DMC-CM10」というモバイル通信機能を持ったデジタルカメラは、残念なことに1年前に発表された「DMC-CM1」と同じものだった。しかし、1年前の古いスペックの製品だから残念だというのではない。

スマホの呪縛に陥ったパナソニックのデジカメ (Wedge Infinity)

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BtoBに大きく舵を切るパナソニックで、コンスーマ向けのデジタルカメラ事業は風前の灯し火なのかもしれない。しかし、だからこそジレンマを感じずに市場に破壊的イノベーションを仕掛けることができるとも言える。せっかくIoTのためのモバイル通信事業を持っているのだし。

次の記事も是非お読みください。#とくにパナソニックの方(笑)

天国からのプレゼン


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