デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2016年05月

モノづくりのデザイン思考 (連載 5)

製品のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、単一の製品や技術のみで差別化をはかり、そのアドバンテージを長期間にわたって維持して行くことが難しくなりました。製品を提供する企業は、その製品自体の価値だけでなく、製品を使う過程で顧客が感じる価値にも着目した事業戦略や商品戦略を考えるべきだと言われてきました。そのためには、製品のデザインに経験のデザインを含める必要があります。

製品のデザインに経験のデザインを含めるとはどのようなことでしょうか。まず、経験を提供する企業の例として紹介されることが多いスターバックスを見てみましょう。

世界中のどこにあっても一目でスターバックスとわかるが、それぞれがローカライズされている店に入ると、制服を着たフレンドリーな店員が明るく挨拶をしてくれる。トールラテを注文し、マジックペンで自分の名前が書かれたカップを受け取ってちょっと小さめの椅子に腰をかけ、パソコンを開いて仕事をして過ごす。特にラテの味がスターバックでなければならないということはない。

あるいは毎朝、スーツを着て沢山の書類を抱えてスマートフォンで電話をしながらグランデを注文し、そのままあわただしく店を出てゆく。ラテを飲み干して緑のマークのついたカップを捨てるまでの経験もスターバックスが提供する価値だ。ラテの味が同じであるなら別のコーヒーショップで買ってもいいはずだが、スーツ姿のビジネス(ウー)マンは、自分のライフスタイルにはスターバックスが提供する経験が「欠かせないもの」だと考えている。

スターバックスは、それまでなかった新しい経験をデザインしています。スターバックスに限らず、サービス業ではコンバージョンやリテンションなどのマーケティング施策として、顧客により良い経験を提供する必要があります。しかしスターバックスの場合は、経験そのものが商品であると言ってもいいでしょう。スターバックスのラテは、ブランディング戦略によって差別化がはかられてはいるものの、どう見てもミルクとコーヒーだけのコモディティ商品です。顧客はより意識的に、そのデザインされた経験に対価を払っています。
 
スターバックスのようなサービス業(小売業)は、店舗という顧客接点を持ち、その「空間」と顧客がそこで費やす「時間」という閉領域での顧客の経験をデザインします。Webのホームページというチャネルも、経験を提供する「空間」の延長として考える(デザインする)ことができます。

これまで一般消費者向けの製品をつくる製造業は、造った製品を流通業に販売するだけで、その製品を購入した顧客との接点はほとんど持っていませんでしたが、インターネットによって製造業も顧客との接点を持つことができるようになりました。しかし製造業の経験のデザインとは、顧客接点での経験をデザインすることではありません。

コンテンツや情報がデジタル化され、それを記録したり保存したり伝達したりするメディア(媒体)が変化したことによって、破壊的なイノベーションが起きた市場があります。iPodをきっかけに、音楽とその関連市場は大きく変化してきました。デジタルカメラによってフィルム産業は完全に破壊されてしまいました。これらの製品やサービスは、音楽や写真という「コンテンツ」の流れを変えることによって、それまでにない新しい経験を人々に提供したのです。

Nike+は破壊的なイノベーションを起こすことはありませんでしたが、ランニングシューズ(に仕込まれたセンサー)から、ランニングの時間や走行距離や消費カロリーやペースなどの「情報」がインターネットに送られ、それらをランニング仲間や世界中の見知らぬランナーたちと共有してランニングのモチベーションを高めることができるという、それまでにない新しい経験を人々に提供しました。
技術は人々が何かをする手段を変えるが、その基本的なニーズは不変だ - D.A.ノーマン
人々の基本的なニーズは不変で、技術によってその手段が変化してゆく。音楽を聴いたり、写真を撮ったり、ランニングをしたりする目的は人によってそれぞれ異なるでしょうが、ひとりの人に注目すると、新しい技術によって提供された製品やサービスによってその方法が変わっても、その基本的なニーズは不変だということです。技術の進化が無限であれば、人々が何かをする手段も無限に変化する可能性があるはずです。

デジタル化されたコンテンツや情報を記録したり保存したり伝達したりするメディアの技術の進化のスピードは速く、人々が何かをする新しい手段とともに新しい経験が次々と提供されてきました。iPhoneの音楽アプリはiPodを飲み込み、そしてストリーミング配信サービスがそれに取って代わろうとしています。

サービス業では「空間」と「時間」の閉領域での経験をデザインしますが、製造業では顧客が製品を使うところから「空間」と「時間」を大きく拡張して、製品に関連するコンテンツや情報の新しい流れをつくることによって新しい経験をデザインします。

携帯音楽プレーヤーで音楽を聴く顧客は、その音楽をどのように知って、なぜそれを聴こうと思ったのでしょうか。その音楽はどのように入手するのでしょうか。そしてその音楽を聴いた後の「空間」と「時間」で、新しい経験を提供することはできないでしょうか。音楽というコンテンツとそれに関連する情報以外に、活用できる情報が隠れていないでしょうか。カメラで写真を撮る顧客は、なぜその写真を撮ろうと思ったのでしょうか。そしてその目的は達成できたでしょうか。

製品のデザインに経験のデザインを含めるということは、製品に関連するコンテンツや情報の新しい流れをつくるためのサービスをインターネットを使って提供するということだけでなく、その流れに合わせて製品自体も再定義するということを意味しています。

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お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです。 

最近、大きな注目を集めているチャットボットだが、現時点ではコマースやマーケティング関連での活用の話題が多い。しかし、その分野ばかりでチャットボットが増えると、メッセンジャーでプライベートなコミュニケーションを楽しんでいるユーザーにそっぽを向かれてしまうだろう。

まだ誰も気づいていないかもしれないが、チャットボットは一般消費者向け製品のモノのインターネット(IoT)の答えになる。

Wedge Infinityに寄稿しました
チャットボットでモノがしゃべりだす

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チャットボットとIoTによって、スマホエコノミーのパラダイムが大きく変わる。それは、高い技術力を持ちながら一般消費者向けの最終製品ではなく、その部品を供給するという立場に甘んじてきた日本の製造業にとっても復活のチャンスになる。

しかし、これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 チャットボットなどというソフトウェアは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファームウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。

それでは、せっかくのチャンスも新たなピンチになってしまう。

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