デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2016年08月

ソニーのエレキの黒字化は、株主や世間の批判に晒されながら、多くの従業員に大きな痛みを強いたリストラやコスト削減によって成し遂げられた。今更、そこに自由闊達などという無駄を持ち込みたくないというのは経営の本音だろう。それはソニーのアクセラレーション・プログラム(SAP)などの別枠の取り組みでお茶を濁しておいて、既存の製品事業ではコストダウンと効率化に邁進し、製品も高機能や高画質や高音質といった、無難そうで理解しやすい機能改善を続ける。しかしそれだけでは、すでに成長が止まった市場を再び活性化するどころか、黒字を維持して行くことすら難しいだろう。

シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータの共同創業者のポール・グレアムは、良いアイデアは最初バカげたものに見えると言っている。新しいプロダクトを生み出した人は、他の人が気づいていない問題に気づき、自分がほんとうに欲しいと思うものを自分でつくった。ほとんどの人がその価値を認識していないアイデアこそが最高だと。

 ソニーのクラウドファンディング(First Flight)のサイトに掲示されている製品を見ると、バカげたものに見えるものはない。スマホで開けるドアの鍵やバンドに活動量計の付いた腕時計など、すでに似た機能を持つ多くの製品があったり、文字盤の模様が変わる時計や複数の機器の操作ボタンをカスタマイズできるリモコンなど、すぐに飽きてしまいそうなものなど、それらは「他の人が気づいていない問題」を解決しようとするものでもないように思う。
 
Wedge Infinityに寄稿しました

日米のコンスーマ・エレクトロニクスのトップブランドであるソニーとアップルの2016年4〜6月期の業績が相次いで発表された。その発表資料の数字をビジアル化して、市場の状況も見ながら2社のコンスーマ・エレクトロニクス事業の現状を比較してみた。

Wedge Infinityに寄稿しました
種まく人が不在で共通する新旧の巨人
ビジュアルデータでソニーとアップルの今を読む



モノづくりのデザイン思考 (連載 9)

人々の基本的なニーズは不変で、新しく生まれた技術によって、その手段だけが変化して行きます。技術の進化が無限であれば、人々が何かをする手段も無限に変化する可能性があります。

イノベーションを起こすためには、製品やサービスを利用する人々の基本的なニーズを再認識して、そのために提供されている現在の製品やサービス(手段)はどれも未完成で、変えることが可能なものだと信じることが必要です。この考え方で「デザイン思考」を補完して、イノベーションの取り組みに活用することができます。

デザイン思考とその具体的なプロセスは広く学ばれ実践されていますが、IDEOで実施されているプロセスは次のようなものです。
  1. その市場、クライアント、テクノロジー、そして与えられた問題に関して認識されている制約事項を「理解」する
  2. 現実の生活における人々を「観察」し、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す
  3. それまでになかった新しいコンセプトとそれを使うであろう顧客を「視覚化」する 
  4. 「プロトタイプ」を評価し洗練することを何回も素早く繰り返す
  5.  新しいコンセプトを市場に出すために「製品化」する
「理解」は、IDEOのようなコンサルティング会社として、クライアントすなわち製品やサービスを提供する側の状況を理解するということです。コンサルタントとしてクライアントの経営課題に取り組む場合でも、自社の製品やサービスのイノベーションに取り組む場合でも、その会社(自社)の事業の市場や関連するテクノロジーを理解し、そして直面する経営課題に関して認識されている制約事項を理解することなくしては始まりません。もちろん、制約事項に捉われていたのではイノベーションのジレンマに陥ってしまいます。

デザイン思考のプロセスはニーズの発見を起点にしています。現実の生活における人々を「観察」し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す。

しかし問題あるいはニーズは、それを解決する(満たす)答えが現れて初めて顕在化することがあります。それまで潜在ニーズというものは存在しない。iPodやiPhoneのような画期的な製品の場合、答えが提供されてから新たなニーズが生まれたと考えるべきでしょう。
かつては「必要は発明の母」であり、人々が必要と求めるものが先にあり、科学者や企業はそれを察知して発明にいそしむのが常であった。生活や生産からの要求を技術者が追いかけていたのだ。ところが、今や「発明は必要の母」となった。人々は新たに発明されたものを見て、実は必要性があったのだと錯覚して生活に取り入れるようになったからだ。企業が提供する科学・技術に先導され、余分なものでも必要と感じて買いこむというふうに順序が逆転したのである。
科学と人間の不協和音(池内 了)
「人は形にして見せて貰うまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」と言ったスティーブ・ジョブズは、どのようにしてiPodやiPhoneのアイデアを思いついたのでしょう。

D.A.ノーマンは「誰のためのデザイン?」の改訂版で次のように述べています。
インクリメンタルなイノベーションは既存の製品をもとにそれらをよりよくするという取り組みである。それに対しラディカルなイノベーションは何もないところからスタートし、何かを可能にする新しい技術によってドライブされることが多い。HCD(人間中心設計プロセス)のデザイン手法はインクリメンタルなイノベーションに適している。ラディカルなイノベーションを導くことはできない。
ISOで規定されているHCDやデザイン思考のプロセスは、インタラクティブ・システムや、そのほかの製品やサービスのユーザビリティ改善のために考えられたものです。ノーマンはそれらの取り組みをヒル(丘)クライミングと呼び「ヒルクライミングは、登り始めた丘の頂上を発見することができるかもしれないが、最良の丘を上っているとは限らない。別の丘を登るためには、それを可能にする新しい技術が必要だ」と言っています。

イノベーションに取り組む人が「存在しない潜在ニーズ」に気づくためには、まず新しい技術を発見しなければなりません。それには利用可能な技術を見極めて応用する力が必要になります。

すでにiPodやiPhoneの前に、メモリーを内蔵した携帯型の音楽プレーヤーやスマートフォンは存在していたので、ジョブズは、それらを変えることによって、それまでにない新しい経験を提供できると考えたのだと思います。「登り始めた丘を登る」ということは経験の改善を目指す取り組みを指し、そして「別の丘を登る」とは新しい経験を創り出すことを意味しています。ジョブズは、変えるための新しい技術(シーズ)を先に発見していたはずです。

音楽や写真やコミュニケーションやゲームなどのコンテンツや関連する情報がデジタル化されることによって、それらの市場にデジタル・コンバージェンス(産業融合)が起きました。いったんデジタル・コンバージェンスが起きた市場では、さらなる変化を起こしやすくなります。 それはアナログ時代に比べて、メディアの技術革新が頻繁に起こるようになったからです。ウォークマンに取って代わったiPodも、あっというまにアプリケーションの一つとしてiPhoneに吸収されてしまい、さらにストリーミング配信がインターネットを利用した音楽配信サービスの主流になりつつあります。「外出先で音楽を楽しみたい」という人々の基本的なニーズは不変ですが、音楽を記録し保管し伝送するメディアの進化によって、音楽を楽しむための新しい手段が次々に生まれています。

いま、自社の製品やサービスのイノベーションすなわち「別の丘を登る」ために必要な新しい技術として、デジタル化された情報やコンテンツを記録し保管し伝送し表示するメディアの進歩に注目すべきです。製品やサービスに関連する情報やコンテンツの新しい流れを作ることができないか。昨日までは難しかったことが、明日には可能になるかもしれない。それによって、これまでにない新しい経験を提供できないだろうか。製品やサービスに関連するコンテンツや情報の新しい流れをデザインし、その流れに合わせて製品やサービスを再定義する。

IDEOの共同創業者のティム・ブラウンは、デザイン思考とは、何らかのシーズと人々のニーズとを調和させてプロダクトをつくるための方法論だと定義しています。「視覚化」のステップでは、ストーリーボードやビデオなどを使って、まだ存在しない未来の製品やサービスが提供されたときの人々の生活や行動を「視覚化」します。それによって未来の人々の経験を客観的に「観察」し、シーズとニーズが調和しているかを検証することができます。

ご相談やお問い合わせは、contact に @ と ibornb.red をつけたアドレスまでメールでお寄せください。

お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです。

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