デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2017年08月

今年に入ってから「ソニーの復活」が盛んに報じられるようになり、最近では株価も堅調に推移しています。平井社長は5月の経営方針説明会で、現行の中期(3年)経営計画に掲げた営業利益で5000億円以上という数値目標を、その最終年度となる今年度に達成できる見込みだと説明しました。

営業利益5000億円は20年ぶりの利益水準で、5年が経過した平井体制のソニーグループにとっての悲願ですが、果たして、その目標を達成できるでしょうか。そして、それはソニーの復活を意味するのでしょうか。

"I wonder how your engines feel" と歌ったのはサイモンとガーファンクルですが、あなたの製品やサービスのハピネス・エンジンは快調に回っているでしょうか?

洗濯や掃除などの家事、そしてお金の振り込みなどの日常の雑務、そのような、人々が生活していくために必要なことを楽にするための製品やサービスには必要ない。しかし、やらなくてもいいことをやってもらうためには、人々に幸せを感じさせるハピネス・エンジンが回っていなければなりません。

このブログやWedge Infinityのコラムで、いくつか「カメラの再発明」について書いてきました。音楽を聞いたり、おしゃべりをしたり、ゲームをしたりするなどの、他のやらなくてもいい(生活できる)ことと同じように、人々が写真を撮るのは、そこでハピネス・エンジンが回っているからです。

インスタグラムという写真共有サービスは、新しいハピネス・エンジンが明確にデザインされています。

奇妙な形の雲や、大の字になって寝ている猫などとの偶然の出会いが「きっかけ」で、スマートフォンで写真を撮ってインスタグラムにアップします(行動)。その写真に やコメントがついたり、他の人にシェアされたりする(報酬)と幸せな気持ちになります。そして、報酬を求めて行動を繰り返すことによって、インスタグラムという仕組みや、そこで行動することに「愛着」を覚えるようになり、その行動が徐々に習慣化してきます。

すると「インスタ映え」するパンケーキを撮りに(食べに)行ったり、インスタグラムにアップするためにお弁当を作ったりなど、みずから「きっかけ」をつくるまでになります。そしてハピネス・エンジンはストレスなく快調に回り続けます。
happiness1
しかし、デジタルカメラのハピネス・エンジンは、いまにもエンストを起こしてしまいそうです。カメラの再発明とは、デジタルカメラの新しい機能やデザインを考えることではなく、そのハピネス・エンジンをオーバーホール(再定義)することです。
カメラメーカーの業績発表の際には必ずと言っていいほど、その不振の原因をスマートフォンに転嫁する発言がみられます。しかしそれは真実ではないでしょう。
- デジカメ市場はスマホに破壊されたという嘘
例えば、結婚したり初めての子供が生まれたことがきっかけで、家族の写真を撮るために一眼レフなどのデジタルカメラを購入するかもしれません。「きっとスマホよりも良い写真が撮れる」と期待する人は(まだ)いると思います。そのとき、ハピネス・エンジンはどのように回り始めるのでしょう。家族の写真を撮るという行動によって得られる報酬はどのようなものでしょうか。

家族の思い出を記録する、子供に残すために写真を撮る。写真を撮っておくだけで安心できる。あなたも、あなたの製品を使うユーザーもそう考えているかもしれません。しかし、それは「顧客の諦め」です。
顧客の諦めを理解すると、顧客が受け入れていることと本当に必要としていることとの違いに気づく。たとえ顧客が自分が本当に必要としていることが何であるかを知らなくても、あるいはそれをはっきり説明できないとしても。
- あなたの顧客が諦めていること
フィルムカメラの時代、撮った写真をすぐに見ることはできませんでした。撮影したフィルムが写真店で現像されプリントされて戻ってきてから、家族は初めて見る写真を覗き込んで、数日前の出来事を振り返り会話をしました。家族の写真を撮る多くの父親や母親にとって、その家族の会話や笑顔が報酬でした。

カメラがデジタル化されて、インターネットに繋がったスマートフォンに搭載されると、写真の楽しみ方が一変しました。撮った写真は、その場で友人や世界中の見知らぬ人々と共有できるようになりました。しかし、どうやって家族の写真を家族で共有するかを、それぞれが考えて工夫しなければならないという新たな問題が生まれました。そして、家族の写真を撮った父親や母親が報酬を得る場がなくなってしまいました。
sadness
それでも彼らは、運動会などのイベントや家族旅行などがきっかけとなって、報酬を得られない行動を、「家族の思い出を記録する、子供に残すために」という思いで献身的に続けているかもしれません。写真を撮る彼らは、きっと幸せを感じているでしょうが、そこではハピネス・エンジンは回っていません。

ハピネス・エンジンが回っていないと、家族の写真を撮ろうとする気持ち(愛着)が薄れて行きます。その楽しみが子供に伝搬することもなくなります。写真を撮るために家族旅行に行くということはないでしょう。しかし、写真は家族のイベントの楽しさを拡げ、イベントの機会(きっかけ)を増やすことに貢献しているはずです。写真は、家族の幸せのエンジンを回す力にもなります。

インスタグラムのハピネス・エンジンが快調に回っているからといって、インスタグラムのためのデジタルカメラをつくっても意味がありません。インスタグラムの創業者でCEOのケビン・シストロムに、「デジタルカメラからインスタグラムへ写真をアップロードできるようにしないのか?」と質問したことがあります。彼は口をヘの字にして肩をすくめてから、「インスタグラムは写真共有のアプリじゃなくて、新しい体験を提供しているんだ。自分たちがコントロールできないデバイスが入ってきたら、良い体験を提供できなくなってしまう」と答えました。

彼の言う「体験」とは、ハピネス・エンジンと同様のものです。ハピネス・エンジンが快調に回るように「行動」「報酬」「愛着」をデザインして提供しているのです。ハピネス・エンジンは製品やサービスによって違います。「行動」「報酬」「愛着」という要素は共通ですが、その内容や遷移の仕方が異なります。また、同じ製品(デジタルカメラ)を使うケースでも、アプリケーション(用途)が異なる場合、例えば家族の写真と趣味の鉄道写真では、別のハピネス・エンジンが必要になります。
happiness
デジタルカメラ時代の家族の写真のハピネス・エンジンを再定義するには、まず、行動する人が報酬を得られる場,鮃佑┐覆韻譴个覆蠅泙擦鵝撮った写真を見る家族の会話や笑顔が報酬になることは変わりないでしょう。インターネットとスマートフォンの普及によって、人々の生活スタイルが変化しました。そのスタイルに即した仕組みを提供する必要があります。きっと、フィルム時代よりも素晴らしい報酬が得られる場を提供できるはずです。
ゴールでは、新しい製品とアプリとWebサービスで新しい経験価値を提供する。そのアプリとWebサービスの利用は無料(フリー)で、新しい製品が有料(プレミアム)となりフリーミアムを構成する。 しかし、インターネットに繋がった新しい製品を購入してからでないと、その価値を実感し理解することができないとすると普及は難しい。フリーミアム・モデルでは、誰でも利用できるアプリとWebサービスだけで新しい体験を提供しなければならない。
- 製造業のフリーミアムとしてのリーン・イノベーション
行動の報酬はすぐに得られるようにするべきです。時間が経ってから思い出を振り返ったり、成長した子供に渡すときにも報酬を得ることはできるでしょうが、ハピネス・エンジンを回すためには、行動から報酬への遷移△、ストレスなく速やかに行われる仕組みを提供する必要があります。記憶が鮮明なあいだのほうが会話が弾み、それが残す写真の価値を高めることにもなります(そんな仕掛けもあると面白い)。

行動のための、写真を写すためのカメラも、再定義するハピネス・エンジンの一部として、その役割を考え直します。カメラだけの再発明ではありませんが、これまであなたの顧客や、きっとあなた自身も「あたりまえのこと」と諦めていた問題が、AIによって解決できるようになっているかもしれません。
ファインダーを覗きながら子供と会話したり、目の前の風景に感動してカメラを取り出したりしながら、シャッターを切る前に、残したいイメージを創ることが、写真の芸術的あるいは構成的な側面です。そのとき、カメラの設定を考えて操作することは、AIに任せて自動化すべき煩わしい作業です。
- AIがカメラの再発明を可能にする
How do your happiness engines feel?

引用部分の記事へのリンク:
デジカメ市場はスマホに破壊されたという嘘
あなたの顧客が諦めていること
製造業のフリーミアムとしてのリーン・イノベーション
AIがカメラの再発明を可能にする

ご相談やお問い合わせは、contact に @ と ibornb.red をつけたアドレスまでメールでお寄せください。 記事の更新はTwitter (@kyosukek) でお知らせします。

このエントリーをはてなブックマークに追加

このページのトップヘ