デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

2018年03月

ものづくり企業が製品を開発して商品化するまでのプロセスには、それぞれ「魔の川」「死の谷」と呼ばれる二つの難関がある。

魔の川は、基礎的な検討や製品のプランニングを経て開発を始めるところに横たわり、死の谷は、開発を終えて、生産を見据えて大きな投資が必要になるエンジニアリングのフェーズに進む行く手を阻む。

ものづくりのベンチャーには魔の川は存在しない。かき集めた少額の資金と、自分と数人の仲間の手弁当で、誰の承認を仰ぐ必要もなく野心的なアイデアの製品開発を始めることができる。しかし、死の谷はハードウェアスタートアップにも、より深く立ちはだかる。

死の谷を超えて進もうとするものづくりのベンチャーを支援する、Makers Boot Campというプログラムがある。

京都を“ものづくりベンチャー”の都に(Wedge Infinityへ)


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スティーブ・ジョブズは「アップルは電話を再発明する」と言って最初のiPhoneを紹介したが、いま、コンパクトデジタルカメラ、ウェアラブル(活動量計)、携帯音楽プレーヤー、テレビ、そして電子レンジなどが、次の再発明にオススメのハードウェアだ。中でも、活動量計はスタートアップにオススメだ。

再発明にオススメの理由はそれぞれに異なるが、共通していることは、人々の基本的なニーズを満たしてきた、あるいは満たそうとするものだからということだ。それぞれ、写真を撮る、健康を管理する、音楽を聴く、放送される番組をみる、料理をするための手段だが、それらが満たそうとする人々の基本的なニーズを考えてみて欲しい。

なんども書くが…人々の基本的なニーズは不変だが、技術によって、それを満たすための手段が変化してきた。技術の進化が無限であれば、人々が何かをする手段も無限に変化する可能性がある。現在、提供されている手段はどれも未完成で、新しい技術によって変えることが可能なものだ。うまくいけば、世界を変えられるかもしれない。

上にあげたハードウェアは(活動量計を除いて)どれも、すでに機能や性能を向上させるだけでは、提供価値を拡大することが難しくなってしまっている。だから再発明が必要で、再発明する意味がある。

コンパクトデジタルカメラ

スマートフォンのカメラで写真を撮ることが、多くの人にとって日常的なことになった一方で、コンパクトデジタルカメラは絶滅危惧種になってしまった。コンパクトデジタルカメラがスマートフォンのカメラに取って代わられたと言うより、スマートフォンのカメラが提供する新しい価値によって、コンパクトデジタルカメラの提供価値が霧散してしまったと言うべきだろう。

「写真を撮る」ことについては、それぞれに一長一短があるが、両者の大きな違いは、ユーザーが「写真を撮る」ときに、「撮ってどうするのか」が明確になっているか否かだろう。SNSにアップするためにスマートフォンのカメラで写真を撮るということが大流行している。一方で、コンパクトデジタルカメラで、例えば旅行や家族の写真を撮るとき、「とりあえず撮っておく」ということが多いと思う。そして、そのまま何もしないで放っておく。それなら、どんなカメラでも構わない。

旅行や家族を撮った写真をどうするか。それは人によって様々だろう。それは、これといった提案がなされていないということだ。Googleフォトに保管しているかもしれないが、それは「放っておく」ことと変わりがない。Googleフォトはソリューションだが、アプリケーションになっていない。

コンパクトデジタルカメラの再発明は、まずターゲットを定めて、「撮ってどうするのか」についてのアプリケーションを提供する。コンパクトデジタルカメラで撮る理由をつくる。それには、ウェブのサービスやスマートフォンのアプリが必要だが、カメラメーカーが開発し提供することは難しいかもしれない。

活動量計


腕に着ける活動量計という新しい製品ジャンルを開拓したスタートアップのひとつのジョウボーン(Jawborn)は、昨年の夏に会社を精算した。そして、もうひとつの開拓者であるフィットビット(Fitbit)も、リストラをしても赤字という状況だ。いずれも、スタートアップゲノムレポート(2011年)が指摘した、スタートアップ が失敗する一番の原因、時期尚早な規模拡大によって苦境に陥ってしまった。
解決しようとする問題と解決策(製品)が合致しているかを検証しないまま製品を作り、プロダクト・マーケット・フィットの前に販売に投資し、たくさんの「なくても良い」機能を追加する。
活動量計は、記録を追求するシリアスなアスリートが使うものではない。そしてApple Watchのような「なんでもできる」スマートウォッチでもない。ひたすら、活動量を「正確に」記録するもののはずだ。しかし、その機能を極めずに、あるいはそれによってユーザーが得ることができる価値を明確にしないまま、活動量計には不要な「スマートウォッチの機能」を追加し始めた。ターゲットがブレてしまった。

寝ているときも泳いでいるときも活動量を計測するには、充電や防水の課題を解決しなければならない。常に着けていても気にならない、あるいは快適に感じるデザインでなければならない。ディスプレイや「スマートウォッチの機能」は、大きさと重さを増やし、電力を消費するという代償を伴う。ミスフィット(Misfit)のSHINEというシンプルな初期のモデルは、機能的には不十分だが、活動量計というコンセプトを忠実に具体化しようとしていた。

ウォーキングやジョギング、水泳やテニス、室内でのマシンやフリーウェイトでのトレーニング、エアロバイクやカーディオマシンやスタジオでのエアロビクス、ヨガやマットでのエクササイズなど、それらをすべて正確に記録できる活動量計はない。せっかくの努力が正確に記録されていなければ、ユーザーは失望し、活動量計を常に着けている意味を感じなくなる。

活動量計の再発明がスタートアップにオススメの理由は、ハードウェアが小規模であること。そして、活動量を「正確に」記録するという機能を極めることと、ユーザーが得られる価値を明確にすることが手付かずで残されていること。それは、機械学習のためのラベル付きのデーターの提供など、ユーザーの参加によって可能になるはずだ。

活動量計はロレックスの代わりに着けるものではなく、ガジェット好きのためのものでもない。ユーザーの思いを積み上げながら、健康的なライフスタイルを象徴するようなクールなブランドに育てる。

その他

すでに、携帯音楽プレーヤーやテレビの再発明についてはここで書いた。月刊Wedgeの1月号で、シャープが昨年10月から開始した料理キット宅配サービス「ヘルシオデリ」を引き合いに、電子レンジの再定義を説明した。いずれもサービス起点で新しい価値を提供して、そのサービスのために必要なハードウェアを再定義するという考え方だ。

コンパクトデジタルカメラやテレビの再発明に必要な、ウェブのサービスやスマートフォンのアプリの開発も、ぜひスタートアップにオススメしたい。ハードウェアスタートアップはハードだ。ソフトウェアから始める手もある。

Wedge (ウェッジ) 2018年 1月号 [雑誌]
Wedge編集部 株式会社ウェッジ
2017-12-20

特集 ものづくりの未来
PART 2 日本の製造業に欠けていた新しい価値の創造 日本の製造業に欠けていた新しい価値の創造 川手恭輔



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