「See'sってキャンディを知ってるかい?」スタンフォード大学のフォーキャスター(未来予測学者)のポール・サフォー教授はちょっと古いフォードのSUVを運転しながら言った。
雑誌Wedgeの1月号の特集の取材で訪れたシリコンバレーの週末を、同行したカメラマンの小平尚典さんに紹介してもらった教授と過ごすことができたのは貴重な体験だった。

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スタンフォード大学のd.schoolや自動運転を研究しているラボなどを案内してもらった後、教授の車の助手席に乗ってランチに向かった。「美味しい料理がいいかい?それとも食事はテリブルだ(酷い)けどスタートアップの歴史が感じられるところがいいかい?」と尋ねられて、テリブルな食事の方を選んだ。今回の旅の目的は「シリコンバレーのスタートアップのモノづくりのムーブメントを探る」ことなのだからしょうがない。大学のキャンバスの北西に沿って走るサンド・ヒル・ロード沿いにはベンチャーキャピタリストのオフィスが並んでいる。スタンフォードで学んだ学生が、このあたりのベンチャーキャピタルを担当の教授に紹介されて起業することは、ビル・ヒューレットとデイブ・パッカードの頃からさほど珍しいことではない。

IMG_0113グーグルやヤフーの創業時から投資して成功した有名なセコイアキャピタルがあるサンド・ヒル・サークルをぐるっと回って、ウッドサイドのBack'sというアメリカン・レストランに入った。ここはまるでアメリカの歴史博物館のように、壁や天井いっぱいにいろいろなコレクションが展示されている。そして、その一角にグーグルやヤフーが起業を話し合ったというテーブルがある。

前半の取材で、多くのハードウェア・スタートアップに共通することは、既存のハードウェアがインターネットに接続されたらどんな価値が生まれるだろうかという発想だという印象を受けた。いわゆる「モノのインターネット(IoT)」だ。彼らは、「グリルオーブンがインターネットにつながったら?」「ヘルスメーターがインターネットにつながったら?」「玄関の鍵がインターネットにつながったら?」という視点から、あらゆるハードウェアの価値を再定義しようとしている。ハードウェアがクラウドやスマートフォンとつながり、情報をやりとりできるようになれば、スタンドアロンのハードウェアだけでは提供できなかった新しい経験を提供することができるようになる。ハードウェア・スタートアップのファウンダー達は異口同音にそんなことを口にした。

レストランに向かう車の中でそう話すと、教授は頷きながら「See'sってキャンディを知ってるかい?」と言った。「知ってるけど...」と戸惑っていると、「See'sはキャンディーなんだけど、周りをチョコレートで覆っている。チョコレートがハードウェアで、キャンディはソフトウェアみたいなものだ。見た目は同じようなチョコレートだけど、中のキャンディの種類がたくさんあって、食べてみると同じハードウェアでいろんな体験をすることができるだろ?」と答えてくれた。

サンフランシスコのデザイン会社Punchcut(パンチカットとは活字を彫るという意味らしい)は、創業時からデザイン思考のプロセスを取り入れ、クライアントの抱える問題の本質を理解するところから取り組んでいる。クライアントが持っている価値を引き出し、それを製品に反映することが自分たちの仕事だという。取材でインタビューした共同経営者のケン・オルワイラーとジャレット・ベンソンは、IoTの時代においては、すべてがサービス化すると考える必要があるという。テクノロジーの会社はどうしてもテクノロジーばかり考えてしまう。ハードウェアがインターネットにつながり、クラウドやスマートフォンのアプリケーションと連携することによって、どのようなサービスを生み出すことができるかという視点で考えるべきだ。そして、個別のインタフェースデザインだけでなく、全体を通してユーザーが感じるコネクテッド・エクスペリエンスをデザインすることが重要だという。

IMG_0115夕方、教授はゴールデンゲートブリッジのたもとのフォートメイソンにあるThe Intervalというバル(酒場)に連れて行ってくれた。教授は The Long Now Foundation(ロングナウ協会)のボードメンバーで、このバルにはその活動を紹介する展示がある。教授は「1万年時計プロジェクト」について説明してくれた。

人間の感覚で100年とか 1000年とかの単位で物事を考えるのではなく、人類が始まってからの1万年という単位で歴史を振り返り、そして次の1万年に責任を持つべきだ。その象徴としてニューハンプシャー IMG_0116州のワシントン山というところに1万年の時を刻む巨大な時計を作っている。 1995年から始まって、アマゾンのジェフ・ペゾスも参加している。バルにはそのミニチュアも展示されていた。

このバルもまたスタートアップとして開店したばかりだ。責任者のジェニファーは、バルで酒を飲むという経験をゼロからデザインし直したのだという。面白いのは、クラウドファンディングでウィスキーのボトルキープを予約することができることだ。週末で店の中はごった返していて、ゆっくり話を聞けなかったのが残念だ。

ジェニファーに勧められたウィスキーの利き酒セットを飲みながら、久しぶりの西海岸の空気を思い切り吸い込むことができた。

この記事はUX Tokyo Advent Calendar 2014の12/5のために書きましたが、流れ的には(過去の記事ですが)「UI/UXデザインという表現について(肯定論)」のほうが合っていたかもしれません。よろしければついでにお読みください。川手恭輔