前々回の「コンセプト・デザインフェーズの5つのステップ」の最後の「リーン・ステップの立案」について少し補足しておく。
「現行の製品とアプリの組み合わせ」は1つの実施例にすぎない。描いた未来の実現のために、どのようなステップを踏んでいくかという戦略立案が、リーン・イノベーションのコンセプト・デザインフェーズの成果物になる。
リーン・イノベーションを「IoT時代の経営戦略」として提案したが、このリーン・ステップの立案がその戦略の骨幹となる。
goal
リーン・イノベーション(2)」で例として説明した「新しいヘッドホン(ハード)とストリーミングサービス」のリーン・ステップは次のようになる。
lean-headphone

この例では、コンセプト・デザインフェースの4番目のステップ「新しい経験価値をデザインする」で、ユーザーの変更の操作や視聴の履歴などを学習し、好みの曲の傾向、そして曲を変更した時の状況を分析して、ヘッドホンにユーザーが聴きたいであろう曲を自動的に配信することによって、ユーザーにこれまでになかった新しい経験価値を感じてもらうというゴールをデザインした。

そのゴールすなわち新しい経験価値を実現するためにもっとも重要な課題は、いかにしてユーザーが聴きたいであろう曲を選ぶかということだろう。それにはドメイン・エキスパートの経験とノウハウが不可欠だ。

2/15のBBCのニュースサイトに、同社のラジオ番組「BBC Radio1」の人気DJ Zane Loweが番組を去って、アップルで働くことになったという記事が載った。
Zane Lowe is leaving Radio 1 after more than a decade at the station.The 41-year-old DJ, who joined the network in 2003, is moving to the US to work at Apple.
また、1/29にはソニーがSoptifyとの提携を発表した。
ソニー・ネットワークエンタテインメントとスポティファイは、戦略的提携を通じて、2015年春から世界41カ国・地域において新しい音楽サービス「プレイステーション ミュージック」の提供を開始いたします。
すでにAppleはBeats(Beats ElectronicsとBeats Music)の買収によって、Dr.DreとJimmy Iovineというドメイン・エキスパートを獲得しているが、さらなる充実の必要性を感じたようだ。
ソニーの動きは、「自社サービスからの撤退 = リストラ」という見方もできるが、ここは前向きに捉えて、Spotifyの経験とノウハウを生かしたグローバルな新しいビジネスモデルに挑戦しようとしていると期待したい。

ドメイン・エキスパートは、「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」ためのアイデアから基本的なアルゴリズムをつくりそれを洗練させていく。そこには、
  • そのためにどのような情報が必要か
  • ユーザーのどのような操作を知る必要があるか
  • それをヘッドホンの新しいUIでどう実現するか
といった 技術的な課題がある。
この例では、リーン・ステップはこういった技術的課題を段階的に解決し、「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」というアルゴリズムを洗練させていくためのステップでもある。

例えばユーザーが曲をスキップしたり、繰り返し聴いたり、ボリュームを上げたりするなどの、どのような操作の情報が、「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」ために必要になるか、そしてその操作をどのように分析してアルゴリズムを変更するか。そのアルゴリズムに従って配信した曲に対して、ユーザーはどのように反応するか、といった繰り返しを行う必要があるかもしれない。その場合、初めからそのためのハードウェア(ヘッドホン)をつくるよりは、スマートホンのアプリケーションのほうが繰り返し(試行錯誤)がしやすい。実際のユーザーに使ってもらって試行錯誤を繰り返す必要があるが、ユーザーと一緒につくっていくという考え方を理解してもらい、ユーザーに当事者として参加してもらうことはマーケティングとしても面白いと思う。

リーン・ステップの戦略的意義はプロダクト(ゴール)によって異なり、それによってどのようなステップを踏むかも変わってくる。下のステップは、これまでにもなんども取り上げたiPodの戦略を当てはめてみたものだ。もちろん、後付けの解釈に過ぎないが。 
lean-ipod

ここでは、「1,000曲をポケットに」入れて持ち歩けることによって、「いつでもどこでもその場で選んだ曲を聴くことができる」という新しい体験を提供するハードウェアを2nd Stepで提供している。それまでになかった新しい経験価値を提供するiPodによって、Appleはジワジワとユーザーを味方につけ、それをレバレッジ(てこ)にして、ゴールのビジネスモデルの最大の難関であったコンテンツ(音楽)・ホルダーを取り込むことに成功した。

リーン・ステップは、技術的課題の解決だけではなく、ゴールのビジネスモデル実現のためのいろいろな課題を解決してゆくための戦略的なステップだ。さらに、段階的に社内において経営層や周辺の理解を獲得していくプロセスでもある。

もうひとつ、リーン・ステップの立案に大きく影響することがある。それは「モノに関連する情報やコンテンツ」の流れだ。
flow

「新しいヘッドホンとストリーミングサービス」の例では、一番上に示したようにコンテンツ(音楽)はクラウドからハードに流れ、ユーザーが操作したという情報はハードからクラウドに流れる。例えばカメラの場合は、真ん中の図のようにコンテンツ(写真)はハードからクラウドに流れる。
IoTによって新たにインターネットに接続されるモノは、一番下の図のようになんらかの情報がクラウドに送られ、その情報によってクラウドから、またはその情報をスマートホンのアプリで見たユーザーがクラウドを経由して、ハードウェアになんらかの指示を送ったりするようなモデルが多くなるだろう。
このモデルによってもゴールの構成が異なり、例えばヘッドホンの例では、最終的にスマートホンのアプリが不要になったり、「モノに関連する情報やコンテンツ」の流れに関与しない間接的な役割になったりする。

ステップが進むと、立案したリーン・ステップやゴールのモデルを変える必要が出てくるかもしれない。あるいは、競合や環境の変化にも注意が必要だ。しかし、安易な軌道修正をして道を誤らないように、コンセプト・デザインフェーズの5つのステップでの成果物を常にリファレンスし、必要であれば、その途中のステップに立ち戻って見直すようにする。

iPodは、iPhoneの音楽アプリに吸収された。ひとつのゴールは、次のイノベーションのスタートだ。次にiPhoneの音楽アプリに取って代わるイノベーションはきっと起こる。

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