Wedge Infinityで連載しているコラムのタイトル『AIはシンギュラリティの夢をみるか?』は、1968年に書かれたフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をもじったものです。もしシンギュラリティの夢をみる、すなわちシンギュラリティが起きることを望むAIがいる(ある)ならば、すでにその時点でシンギュラリティは起きていますね。

この小説は、1982年に大ヒットしたハリソン・フォード主演のSF映画『ブレードランナー』の原作となりました。そのストーリーは2019年の設定でしたが、それまでに映画のようなアンドロイド(レプリカント)は登場しそうにはありません。その続編『ブレードランナー 2049』が10月27日に公開される予定で、ハリソン・フォードが前作と同じ役で出演しているそうです。2049年のシンギュラリティ後の世界が、どのように表現されているかが楽しみです。

人工知能研究の世界的な権威であり、現在はグーグルで技術部門のディレクターを務めるレイ・カーツワイルは、2005年に出版した『ポスト・ヒューマン誕生』で、シンギュラリティ(技術的特異点)を「テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のこと」と定義し、それは2045年に到来すると予言しています。

カーツワイルの考えるシンギュラリティには3つの段階があると思います。
  1. まず、半導体の計算速度が一定期間で倍々に速くなっていくというムーアの法則を前提として、コンピュータがある時点で人間の計算速度を超える
  2. そして、そのコンピュータ上で、人間の知能を超えるAIが誕生する
  3. 人間の知能を超えたAIが...
3の段階になれば、AIは人間の知能を超えているのですから、われわれ人間には想像もできないことが起こっても不思議ではありません。「シンギュラリティとは、われわれの生物としての思考と存在が、みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、その世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超越している」というSFの世界に入ってしまいます。

しかし3は2を前提にしています。そして、1と2との間の大きなギャップを無視して、1から3への論理の飛躍でシンギュラリティが語られることもあります。

カーツワイルは「人間の脳の機能を模倣できるハードウェアが、2020年あたりにはおよそ1000ドルで手に入ると予測するのが妥当だ。人間の脳の機能性を模写するソフトウェアはその10年後には出てくるだろう」と予測しています。しかし、「人間の脳の機能を模倣できるハードウェア」も「人間の脳の機能性を模写するソフトウェア」も、模倣・模写すべき「人間の脳の機能」が解明されていないのですから、その実現の道は見えていません。人間の知能を超えると言っても、そもそも「知能」とは何かという共通の認識すらありません。

人間の脳は神経細胞(ニューロン)による巨大なネットワークになっていて、その神経細胞の数は1000億から2000億個に及ぶと言われています。ニューラルネットワークは、このネットワークを数式で表したソフトウェアです。しかし、それは人間の脳を模倣したものではなく、あくまでも神経細胞の挙動にヒントを得てモデル化したものに過ぎません。

カーツワイルが言うように「2030年 には、ひとつの村に住む人間の脳(約1000人分)が、1000ドル分のコンピューティングに相当するようになる。2050年には、1000ドル分のコンピューティングが、地球上のすべての人間の脳の処理能力を超える」としても、力づく、コンピューティング・パワーだけで「人間の知能を超えるAI」をつくることはできません。

「わたしはシンギュラリティは必ずやってくると信じている人間であります」。SoftBank World 2017でこう述べた孫社長は、昨年のSoftBank Worldで、シンギュラリティについて次のように語っていました。 
人工知能のキーワードはディープラーニングであり、ディープラーニングのキーワードはビッグデータであると。つまり、データを大量に瞬時に吸い寄せて分析し、そしてみずから学習して思考するということになるのが超知性であります。この超知性の誕生がシンギュラリティであり、シンギュラリティの3つのキーワードというのがAIであり、スマートロボットであり、IoTになるわけであります。
今年の基調講演のスピーチでも、この基調は変わっていませんでした。孫社長一流の論理展開で、アーム(IoT向けのチップ)やボストン・ダイナミクス(ロボット)やワンウェブ(衛星通信)などへの投資の意義を説明しました。しかし、まだビジネスのパラダイムとしてシンギュラリティを語る段階ではないと思います。

ソフトバンク孫社長が語った野望に潜む脅威(Wedge Infinityへ)