グーグル傘下のウェイモ(Waymo)は、米アリゾナ州フェニックスで、「early rider program」と呼ばれる無人タクシーの走行試験を続けている。プログラムに登録した世帯の住民は、日常的に無人タクシーを利用することができる。今年3月からは、万が一に備えたセーフティドライバーが搭乗しない、完全な無人タクシーが運行している。無人タクシーは現実のものとなりつつある。

DeNAと日産自動車は、3月に横浜のみなとみらい地区で、2週間の実証実験を行った。セーフティドライバーが搭乗する自動運転車に、一般モニターを乗せて短いコースを往復した。DeNAは2015年5月に、ロボットの開発・販売を手がけるベンチャー企業のZMPと合弁会社「ロボットタクシー」を設立して、実証実験やデモンストレーションを実施してきた。今年になって、その関係を解消し、新たに日産自動車と「Easy Ride」という無人タクシーのプロジェクトを開始した。

『無人タクシーで日本が失うものとは?(Wedge Infinity)』より抜粋
Easy Rideのコンセプトムービーでは、無人タクシーが外国人観光客と英語で会話して、お勧めのスポットを提案したり、高齢者のドライブや子供の送迎に利用されたりするシーンが描かれている。しかし、無人タクシーが提供しようとしている価値は、このコンセプトムービーで説明されているようなものではないだろう。



競争の軸

デジタルカメラが生まれてから、カメラメーカーは画質の向上や性能の改善や機能の追加を行ってきた。それらは、初めは顧客価値に直結するものであったが、いつの間にか、顧客価値を無視したカメラメーカー間のスペックの競争になってしまっていた。

常に携帯されるスマートフォンのカメラは、目の前の出来事を撮って、すぐに誰かと共有することができるという新しい顧客価値を提供した。「撮って共有する」ことができるカメラは、これまでのデジタルカメラ(特にコンデジ)のユーザーのほとんどを取り込んでしまっただけでなく、それまでカメラを使わなかった人々をも巻き込んで、巨大な市場を創造した。

それまでのカメラメーカー間の競争の軸で、いくら性能や機能を向上させても、「撮って共有する」ことができないデジタルカメラは、「撮って共有する」ためのカメラという新しい軸の競争に参加することすらできない。

今年になって、これまで「2キロ730円」だった首都圏のタクシーの初乗り運賃が、「1.052キロ410円」に値下げされた。シェアリング・エコノミーと自動運転技術の発達で、タクシーが無人化されるかもしれないという、タクシー業界の危機感の表れと見る向きもある。しかし、それでは不十分だ。

これまでタクシー業界は、国土交通省による、運賃とタクシー台数の規制に守られて利益を確保してきた。サービスの質の向上や、利用しやすさ、価格面などでの需要喚起の努力を怠ってきたと言っても構わないだろう。配車アプリにも横並びの対応で、どのアプリ、どのタクシーを利用しても大した差はない。そこには明確な競争の軸が存在していない。

無人タクシーは:
  • これまでのタクシー利用者の利用頻度を上げる
  • 社用や業務用以外の私用の利用者を増やす
  • これまでにタクシーを利用しなかった人が利用する
  • バスなどの代替えとして利用する
  • 自家用車による日常の外出を代替する
ものになり、巨大な市場を創造するだろう。そこに「顧客価値」と「戦略価格」という新たな競争の軸が生まれる。それは、同時に既存の(タクシー産業だけでない)いろいろなビジネスが破壊され、再構築されること(デジタルディスラプションが起こる)を意味する。もちろん、DeNAはとっくに気が付いているはずだ。コンセプトムービーでは、国やタクシー業界への配慮(忖度)から本音を描くことはできないのだろう。

日本での無人タクシーは、安全性や責任の問題などの「理由」で、はじめは非常に限定された条件下でしか認可されないだろう。しかし、ユーザーの理解を得て味方につければ、タクシーの無人化という大きな流れを止めることはできないはずだ。アマゾン(Eコマース)や音楽の配信サービスのように。
安全な移動が可能だという大前提で、便利(どこにでもすぐ来る)で安ければ、顧客が無人タクシーを利用する価値がある。そのため、無人タクシーの会社は大量の自動運転車を所有する必要がある。

さらに、配車システムが需要予測や効率的な配車を行って、すべての車両の稼働(実車)率を最大化しなければならない。「大量の自動運転車」と「高度な配車システム」、この二つが無人タクシーのビジネスを制する鍵となる。
無人タクシーのビジネスにも、ネットワーク外部性がある。「大量の自動運転車」と「高度な配車システム」を備えたサービスにユーザーが集中し、それによって「大量の自動運転車」と「高度な配車システム」がさらに強化されて行く。ユーザーが少ない他のサービスに乗り換える理由がなくなり、勝者総取りになる可能性が高い。

タクシー産業は国の保護を頼りに、横並びの施策だけで、ただ破壊されるのを待つのだろうか。すぐに、新しい競争軸へのシフトを始めるべきだろう。

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川手恭輔(Internet Born & Bred)