デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way Technology lives.

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アップルが発表したばかりのHomePodや、アマゾンのEchoやグーグルのHomeというマイク付きのスピーカーが、米国で大きな話題になっています。スマートスピーカーと呼ばれるこれらの製品は、クラウド上のそれぞれの「音声アシスタント」と呼ばれるAIとつながっています。「AI搭載スピーカー」などと呼ばれることもあるようですが、スマートスピーカーは人間の音声を音声アシスタントに送り、音声アシスタントからの応答の音声を再生しているだけです。

音声アシスタントは、ポスト・スマホの新たなプラットフォームになると目されています。パソコンの時代でもスマートフォンの時代でもそうであったように、AIの時代にもプラットフォームを押さえたものが、新しいエコシステムの利権を握ることになるでしょう。その前哨戦が、スマートスピーカーで始まっています。

アマゾン

スマートスピーカーで先行するアマゾンから見てみましょう。スマートスピーカーは、2015年に170万台、2016年に650万台が出荷され、米国のインターネットに繋がった家庭の8%にスマートスピーカーがあり、その9割はアマゾンのEchoシリーズだそうです。 

amazon

アマゾンの音声アシスタントAlexaは、スマートスピーカーから送られてきたユーザーの音声をAIによって認識し、例えば「ピザを注文して」とか「明日の天気は?」といった命令や質問を理解し、あらかじめ決められた形式(Intent)に変換して対象のサービスに送ります。その命令や質問を処理したサービスは、テキストなどの形式の応答をAlexaに返します(図のAPIの部分)。AlexaとAPI(Alexa Skills Kit)で連携する他社のサービスはAlexa Skills(スキル)と呼ばれ、その数はすでに1万2000を超えています。家の中の照明を点けたり、車の中からガレージを開けたりするなど、音声でIoTをコントロールすることもできるようになります。
AVSASK
アマゾンは、自社のスマートスピーカー(Echoシリーズ)だけからではなく、ユーザーが他社の製品からもAlexaに音声でリクエストを送れるようにするための、SDKと呼ばれる開発環境(Alexa Voice Service)を無償で提供しています。すでにフォードとフォルクスワーゲンが、運転中にアマゾンのAlexaと会話できるようにすることを計画しています。

また、iPhoneやAndroidのスマートフォン向けに、(紛らわしいですが)Alexaというアプリを提供しています。スマートスピーカーがなくても、スマートフォンでAlexaと会話することができます。

グーグル

グーグルもアマゾンと同様にSDKとAPIを無償で公開して、ユーザーが音声アシスタントGoogle Assistantと会話するための他社のデバイスを増やし、利用できる他社のサービスを増やすオープン戦略を採っています。アマゾンもグーグルも、スマートスピーカーなどの製品で利益を上げることは考えていないでしょう。自社のプラットフォームのユーザーを増やして活性化させ、それぞれの本業のEコマースや広告からの収益を拡大できれば良いのですから。
google
グーグルのアマゾンとの違いは、図で赤線で示したように、Android OSからGoogle Assistantを呼び出すことができることです。Androidスマートフォンのホームボタンを長押しするか、「オッケー、グーグル」と呼びかけることによって、これまではGoogle Nowの検索画面が表示されていましたが、まもなくGoogle Assistantとチャット(会話)する画面が表示されるようになります。iPhone向けにもAlexa(アプリ)のように、Google Assistantがアプリとして提供されていますが、使い勝手はAndroidスマートフォンに大きく劣ります。

いずれも、音声での会話がデフォルトですが、キーボードを表示させてテキストで会話することもできます。その場合は、答えも音声ではなくテキストで表示されます。また、グーグルのチャットアプリAlloの中でも、チャットボットとしてのAndroid Assistantとテキストで会話することができます。
ai

アップル

さて、Appleはどうでしょうか。HomePodが発売されていない現在の状況で同様の図を描いてみると、ご覧のようにスカスカです。
apple
アップルは一年前にSiriのAPIを公開しました。しかし、それはiOS上のアプリが、Siriと連携するためのものです。
Siriの実体はクラウドのコンピュータで稼働する音声認識と自然言語処理を行うソフトウェアだ。ユーザーの音声による指示を認識して、その内容を理解し、iPhoneにインストールされているアプリの中から、該当するものを探して指示の内容を伝える。「Hey, Siri. 何ができるの?」と聞くと、対応するアプリのアイコンと、どのように話しかければ良いかの例が表示される。

Siriで指示を与えることができるアプリは、アップル製のもの以外ではFacebookとTwitterだけだったが、最新のiOS10で、SiriKitという開発者がSiriを利用するための環境が提供された。「VoIP電話」「メッセージ」「写真」「Apple Pay」「ワークアウト」「乗車券の予約」「CarPlay」「レストランの予約」という8つのカテゴリの、対応する3rdパーティーのアプリにSiriで指示することができるようになる。

カテゴリーごとにSiriで指示できる機能が決められていて、例えば「メッセージ」では「メッセージを送る」「メッセージを探す」「メッセージの属性を設定する」の3つの機能があり、それぞれに必要なパラメータが規定されている。それを満たすためにSiriは、例に示したような形式に従って指示することをユーザーに求める。現時点では、Siriがユーザーを理解してくれるのではなく、ユーザーがSiriを理解して使いこなす必要がある。

アップルはグーグルのAI攻勢にどう対抗するのか?
(2016年10月 Wedge Infinity)
家電をコントロールするためのHomeKitや、運転中にiPhoneを使用するためのCarPlayでも、Siriからアプリを呼び出すことができますが、それらもiPhone(iOS)上での連携になります。また、アップルのチャットアプリiMessengeには、チャットボットはありません。

HomePodを描き入れてみても、あまり代わり映えしませんね。
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HomePodにはiPhoneのようなアプリはありませんから、SiriができることはiPhoneよりもさらに少なくなります。他社のサービスが、クラウドでSiriと連携するためのAPIもまだ公開されていません。年末の発売までに、他社サービスとの連携が行われるのでしょうか。

スマートスピーカーの米国での現在の販売価格は、アマゾンのEchoが179.99ドル、その廉価版のEcho Dotは39.99ドル、グーグルのHomeは109ドルと値下げが続いています。アップルのHomePodは349ドルで発売される計画です。

アップルがSDKを公開して、ユーザーが他社の製品を使ってSiriと会話することを許すことはないと思います。アップルは、徹底してクローズド戦略を採ってきました。それは、提供する製品やサービスのユーザー体験をコントロールするためだと言われてきました。しかし、ちょっと高音質で、音声で操作できるApple Music専用のスピーカーが、新たらしいユーザー体験を生み出す「ホームミュージックの再発明(ティム・クックCEO)」なのでしょうか。

クラウドの音声アシスタントに接続するデバイスが増え、利用できるサービスが増えると、スマートフォンの価値がクラウドに奪われてしまいます。高機能(高価)なスマートフォンでなくても、マイクとスピーカーを備えてインターネットにつながっている様々なものからサービスを利用できるようになります。いまのアップルには、自らそのような、iPhoneの価値を破壊することはできないというジレンマがあるのではないでしょうか。

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前回(シーズ起点のデザイン思考の始め方)、シーズ起点で考えた革新的な技術によって実現が可能になる画期的なアイデアから「釘を探すハンマー(ニーズを顕在化できない製品)」をつくってしまわないために、機能領域から顧客領域に遡上して、そのアイデアが解決しようとしている問題やニーズを明確に定義する必要があると書きました。今回はiPodを例にして、そのプロセスをたどってみます。

デジタルという技術革新があった         

アップルは2001年1月にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポでiTunesを発表しました。このときジョブズは同時にデジタルハブという構想も披露し、「Macは浸透しつつあるデジタルライフスタイルにおけるデジタルハブとなって、いろいろなデジタルデバイスに素晴らしい価値を与えるだろう」と言いました。音楽に関していえば、この時点ではまだiPodは存在しておらず、CDから音楽をMacにコピーしてiTunesで管理し、曲を編集したプレイリストをCD-Rに焼き付けてCDウォークマンで楽しむという提案でした。
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その頃、人々は外で音楽を聴くためには、購入したCDの中から自分が選んだ数枚を持っていかなければなりませんでした(アメリカではMDは普及しませんでした)。音楽がデジタル化されても、そのメディアがレコードやテープからCDやMDに変わっただけで、ウォークマンがCDウォークマンやMDウォークマンになっても、その顧客の体験に大きな変化をもたらすことはありませんでした。デジタルが「イノベーションを起こすためには、ラディカル(不連続)な技術革新が必要だ」というノーマンの言葉にあるラディカルな技術革新であったにも関わらず、音楽ビジネスの分野にはまだイノベーションは起きていませんでした。

すでに1999年にはラスベガスのコンピュータ関連の展示会で、ソニーがメモリースティックウォークマンを発表しており、それ以前にもシリコンメモリーを使った携帯型音楽プレーヤーが発売されていました。しかし使用するメモリーの容量では1〜2枚のCDの音楽を格納することしかできず、CDに加えて新しいメディアの管理という余計な作業も増える結果になっていました。特にメモリースティックウォークマンで使用するMagicGateメモリースティックは価格も高く、ほんの数枚のメモリースティックを使い回さなければならないという状況でした。

技術シーズからの発想

「ポケットに1,000曲」というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのは2001年の10月になります。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を発表したとき、すでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずです。
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Design Crazy: Good Looks, Hot Tempers, and True Genius at Apple [Kindle版]に、発売後のiPodの販売が伸び悩んでいるときに、周囲がiTunesをWindowsにも展開すべきだとジョブズに進言したときの興味深いエピソードが紹介されています。
我々は、WindowsにiTunesを提供することについてスティーブと多くの議論をしたが、最終的にフィルと私は「(あなたが反対しても)我々はやりますよ」と言った。スティーブは「くそったれ!好きなようにするがいいさ、責任はとれよ!」といって部屋から飛び出していってしまった。
iTunesは、ジョブズが2000年にCEOに復帰した直後にアップルがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、アップルに移籍したその開発者たちが開発したそうです。きっとジョブズはSound Jam MPを見たとき、「これはMacの価値を向上させるために使えそうだ」と思ったのでしょう。赤字を垂れ流していたアップルのCEOに復帰したばかりのジョブズにとって、Macの価値を最大化して販売を伸ばすことが最大の課題だったはずです。それは製造業のイノベーション戦略マトリックスに示した、,凌靴靴さ蚕僉淵妊献織襦砲砲茲辰得宿覆鬟ぅ離戞璽轡腑鵑垢襦Macを単なるコンピュータではなくデジタルライフスタイルにおけるデジタルハブにするという戦略です。
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(製造業のイノベーション戦略マトリックス)

顧客領域に遡上する

では顧客領域に遡上して「観察」を行い、「CDから音楽をMacにコピーしてiTunesで管理し、プレイリストに編集した曲をCD-Rに焼き付けてCDウォークマンで楽しむ」というシーズ(Sound Jam MP)起点のアイデアが解決しようとしている問題やニーズを考えてみましょう。実際にジョブズまたはアップルの誰かが、いつiPodという製品のアイデアを思いついたのかはわかりませんが「顧客領域への遡上」する意義を説明するために、iTunesというアイデアを発想した時点ではまだそこに至っていないと仮定します。
  • 現実の生活における人々を「観察」し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す
ウォークマンなどの携帯型音楽プレーヤーのユーザーの、変わることのない基本的なニーズは「どこででも音楽を聴きたい」というものでしょう。ウォークマンの出現の以前の「製品やサービス」は、放送される音楽を携帯ラジオで聞くというレベルのものでした。そしてウォークマンは、どこででも「自分の選んだ」音楽を聴きたいという潜在ニーズを顕在化しました。しかしその後、音楽がデジタル化されてウォークマンがCDウォークマンやMDウォークマンになり、メディアの可搬性、ダビングの速度や質が向上するなどの改善はありましたが、ユーザーの体験に大きな変化をもたらすことはありませんでした。
 
iTunesが解決しようとする、現在提供されている製品(CDウォークマン)のユーザーが抱えている問題は「たくさんあるCDを管理できない」というものでしょう。音楽をコンピュータで管理することによって、それを解決しようというアイデアです。iTunesでは曲ごとのメタデータから自動的に作成したデータベースによって、ユーザーはアーティスト名やジャンルなどから曲を探して選んだ曲でプレイリストを編集することができます。しかし、それはユーザーの体験に大きな変化をもたらすものになるのでしょうか。 

ユーザーの基本的なニーズが「どこででも音楽を聴きたい」というものであるならば、音楽を聴くときの体験が重要です。iTunesによって、その前に必要な作業を改善することはできるでしょうが、「持ってきたCD」で音楽を聴くという体験には大きな変化はなさそうです。依然として「持ってこなかったCD」の音楽を聴くことはできません。保有しているすべての音楽をコンピュータで管理することによって、持って出かける曲を選ぶという作業が変化します。その作業を行うユーザーになりきって「観察」すると、そこに新たな問題が見えてきます。
  • iTunesのユーザーを「観察」し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、iTunesでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す
音楽が一覧で見えるようになり、検索したり整理したりすることが容易になると、持って出かける音楽の選択肢が格段に増えることになります。そのプレイリストを作成してCD-Rに焼き付ける作業が増えるだけでなく、「持ってこなかった曲」を意識(後悔)することも多くなるでしょう。これまでは、そんな音楽を所有していることすら忘れていたのですから。iTunesで音楽の一覧を見て曲を選ぶ行為と、その曲を携帯型音楽プレーヤーで聴くという行為との時間差が問題なのです。すべての音楽を持ち歩いて「聴く曲をその場で選びたい」という潜在ニーズが見えてきます。 

機能領域で考えるべきこと

現在提供されている製品のユーザーが抱えている問題は、「たくさんあるCDを管理できない」ことだという仮説を持って顧客領域に遡上しましたが、そこで「聴く曲をその場で選びたい」という潜在ニーズを発見しました。それはiTunesという「コンピュータで音楽を管理する」というアイデアが存在したからこそ発見できました。

さらに、音楽を聴くときの体験が価値だとすれば、その前に行うことはすべて「なくてもいい作業」だと考えることができます。CDを買いに行くこと、それをMacにコピーすること、プレイリストを作成すること、CD-Rに焼き付けること、そしてCD-Rを持ち歩くことなど、それらのすべてが作業です。購入する音楽を選ぶことすら、なくてもいい作業なのかもしれません。「どこででも音楽を聴きたい」という基本的なニーズには、それらの作業をなくして欲しいという潜在ニーズが隠れているのです。もちろん、それは顕在化するまで存在しないニーズです。

それらの顧客領域からのインプットから、機能領域では「コンピュータで音楽を管理する」という最初のアイデアに次の2つを追加することになります。
  • 携帯型音楽プレーヤーにすべての曲を入れて持ち歩く
  • インターネットで音楽を販売する
ここで、持っているCDのすべての音楽を携帯型音楽プレーヤーに入れることができると、「膨大な数の曲の中から探して選ばなければならない」という新たな問題が発生することに気づくでしょう。それは次の実体領域(設計フェーズ)への要求仕様になります。実体領域では、その時点での技術やコストの制約から持ち運べる音楽は1,000曲になりましたが、スクロールホイールという技術を応用して指一本で曲を選ぶという操作を提供しました。
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"Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."
 
さらに、CD数枚分とかではなく1,000曲の音楽を持ち運ぶことができるとしたら、まったく新しいユーザー体験を提供できるのではないかと考えた人がいたようです。そして「ユーザーが曲を探して選ぶ」のではなく、iPod
が選んだ曲を流せばいいという発想の転換がありました。まったくランダムなシャッフルモードから、ユーザーが気に入った一曲に関連性のある曲をiPod 選ぶジーニアスというプレイリストまで。シャッフルモードで聞いていて、普段なら選ぶことがなかったはずの曲が、その時の環境や気持ちなどで印象が全く違うものになっていたことはないでしょうか。CDを買って一度しか聞かなかったようなアルバムの記憶にない一曲がかかって、そこからそのアーティストの曲の探索を始めたことがなかったでしょうか。 これは、まさにこれまでになかった新しい体験でした。

イノベーションは黒魔術か?

最初にお断りしたように今回は、シーズ起点で考えた画期的なアイデアが解決しようとしている問題やニーズを明確に定義するプロセスをiPodを例として説明しました。それは、おそらくiPodを発想したジョブズやアップルの誰かの実際の思考プロセスとは異なるでしょう。しかし彼らは、シーズとニーズとを調和させるために多くの時間と努力を注いだはずです。
イノベーションは決して黒魔術などではありません。

インターネットでの音楽の販売は、技術的問題ではなく既存のバリューチェインにおける既得権を守ろうという抵抗勢力との戦いに時間がかかりましたが、アップルは2003年4月にiTunes Music Storeをオープンしました。そして、その10月にようやくWindowsへのiTunesの提供を開始しMacの呪縛から解放されたiPodのブレイクが始まりました。
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結果的にiPodの販売は2008年の5483万台にまで成長し、その後のiPhoneにつながるアップルの驚異的なイノベーションの先駆けになりました。アップルコンピュータだった社名からコンピュータという言葉を消した(2007年1月)ことに象徴されるように、製造業のイノベーション戦略マトリックスの△了業のイノベーションに成功しました。

ジョブズのメッセージは数多く紹介されていますが、iPodを発表したときのフレーズは特に印象的でした。
"a part of everyone's life" 
アップルがなぜiPodで音楽の市場に挑戦するのか、それは音楽が「人々の人生の一部だから」だという文脈でした。人々は(ジョブズも)皆、音楽が大好きだという言葉どおりの意味もあるでしょうが、それ以上にアップルという企業が挑戦する価値があるほど「大きな市場」だということを言ったのだと思います。


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お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです
図やイラストはPowerPointで作成しました 

アップルが昨年末に発売を開始したAirPodsは、iPodとiPhoneの次の、そしてジョブズ後のアップルにとって初めての「発明」になる可能性を秘めている。

iPodsは音楽プレイヤーを再発明し、iPhoneは電話を再発明した。iPodにはクリックホイール、iPhoneにはタッチパネルという、それぞれの再発明を可能にしたユーザーインターフェースの革新技術があった。AirPodsはiPhoneを再発明できるが、それにはSiriというユーザーインターフェースを賢くする必要がある。


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インターネットにつながったiPhoneは、デジタルカメラやiPodや携帯ゲーム機など、多くの「インターネットにつながっていないモノ」をアプリとして呑み込んできた。しかし、もはやその形態では新しい価値を生み出せなくなってしまっている。

次のApple Watchの課題を考えると、このiPhoneというジョブズの呪縛から抜け出すヒントが見えてくる。

Wedge Infinityに寄稿しました

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日米のコンスーマ・エレクトロニクスのトップブランドであるソニーとアップルの2016年4〜6月期の業績が相次いで発表された。その発表資料の数字をビジアル化して、市場の状況も見ながら2社のコンスーマ・エレクトロニクス事業の現状を比較してみた。

Wedge Infinityに寄稿しました
種まく人が不在で共通する新旧の巨人
ビジュアルデータでソニーとアップルの今を読む



「2016年はIoTのためのMVNOが加速するか」という記事で予告した月刊Wedge2016年1月号の記事は、次のように結んだ。
うがった見方をすれば 、アップルの狙いはeSIMを提供することによって、3rdパーティのiPhoneやiPadのアプリだけでなく、ハードウェアまでもそのエコシステムに組み込もうとしているのではないかと考えることもできる。いろいろなモノにアップルのeSIMが組み込まれてインターネットにつながる。
人々はiPhoneやiPadを使って、モノからの情報を受け取ったりモノに指示を与えたりする。アップルは、そんな世界を創ろうとしているのではないだろうか。このまま日本のモバイル通信がガラパゴス状態から抜け出せないと、IoT時代のエコシステムもアップルに抑えられてしまいかねない。
7月16日のフィナンシャルタイムスは、「アップルとサムスンは、eSIMカードを製品化するために、移動通信の業界団体(GSMA)に参加する話し合いを最終段階に向けて進めている」と報じた。それをうがって見てみたのは、「モノのインターネットの通信は金にならない」からだ。
スマホ向けの格安SIMを提供するMVNOが、(例えば)NTTドコモに支払うXi(LTE)サービスの2014年度の接続料は、10Mbpsという帯域について月額945,059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに94,505円増加する。もちろんMVNOにとっては、10Mbpsという帯域ではビジネスにならない。その数倍、数十倍の帯域を調達して、多くの顧客を獲得しなければならない。

それに対しIoT端末は、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また、通信の時間をうまく分散できれば、それほどの帯域は必要ない。

例えば、128kbpsの低速で、1回の通信で50文字(半角)のテキストデータ、例えばGPSによる位置情報などをクラウドに送信するIoT端末を考えてみる。単純に10Mbpsを128kbpsで割れば、同時に78台のIoT端末が128kbpsで接続可能だ。128kbpsで50文字(400ビット)を送信する時間は1/320秒なので、1秒を320台で分割すれば合計25000台のIoT端末が通信することができる。

さらに乱暴な計算を続けると、それぞれの端末が1分間に1回の頻度で通信する必要があるケースであれば、10Mbpsの帯域で150万台のIoT端末に通信サービスが提供できることになる。
このような(乱暴な計算の)例の場合、100万円程度で調達した通信を150万台のIoT端末向けに販売するならば、その調達価格は1台あたり月額1円にも満たない。MVNO事業には通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。

これまでのMVNOの形態で、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。
アップルがIoT向けのMVNOに乗り出す?

しかしアップルには、その「金にならないモノのインターネットの通信」に参入する戦略的な意味がある。
ジョブズといえども、iPhoneに匹敵するような大成功をもたらす革新的な製品を、また「発明」することは容易なことではなかっただろう。クックが、スマートフォンの市場を拡大して、iPhoneのシェアをさらに増やすことを最も優先すべきだと考えるのは自然なことだ。iPhoneで得られる経験価値をさらに向上させ、iPhoneでなければならない理由をつくる。

WWDCで発表されて大きな話題を呼んだ定額の音楽ストリーミング配信サービス(Apple Music)も、その戦略の一環だと考えることができる。App StoreやiTunes Storeなどで販売される音楽やアプリなどの売り上げは全体の1割にも満たない。しかし、それらのサービスなくしてはiPhoneのビジネスが成り立たないことは明白だ。Apple Musicから得られる利益も、Appleにとって重要なものではないだろう。元々、Appleとしては利益を度外視しているのではないかと思われるほどの、競合他社に圧倒的な差をつけるための価格設定を狙っていたようだ。

Apple Watchも、そのような視点からAppleにおける、その戦略的な位置づけを考えることができるのではないだろうか。Apple Watchを購入すると「iPhoneでなければならない理由」ができ、その顧客はAndroidへの乗り換えを躊躇する。Apple MusicやApple Watchが、少しずつ人々の生活を変えればいい。それによってiPhoneが、さらに人々の生活になくてはならないものになっていく。
すでにアップルは昨年10月から、ユーザが購入後に携帯通信キャリアとデータプランを選ぶことができる独自のApple SIMが付属したiPadを販売しているが、アップルがモバイル通信サービスを提供しているわけではない。しかしアップルが(例によって半ば強引に)世界各地の携帯キャリアと接続し、MVNOとして「モノのインターネットの通信」を、「インターネットにつながったモノ」をつくろうとする企業に提供することは十分に考えられる。

一般消費者向けの「インターネットにつながったモノ」のビジネスモデルにおいて、その通信をどのように提供するかということは大きな課題だ。モノを購入した後で、携帯キャリアやMVNOからSIMを購入して月々の利用契約をしなければならないとしたら非常に面倒だろう。

「インターネットにつながったモノ」を購入する。そのモノと連携するiPhoneのアプリをApp Storeからダウンロードする。そのサービスを利用するには、アプリの利用料金を支払う必要があるが、それにはモノの通信料金が含まれている。ユーザは通信料金を払うのではなく、モノとサービスを利用することで得られる「新しい体験」に対価を支払う。いろいろなモノにアップルのeSIMが組み込まれてインターネットにつながる。それがiPhoneで得られる経験価値をさらに向上させ、iPhoneでなければならない理由をつくる。

米テスラ・モーターズの電気自動車「モデルS」はインターネットにつながっており、スマートフォンのアプリを使って離れた場所から管理・操作することができる。航続可能な距離や充電状況を確認したり、充電完了の通知を受け取ったり、遠隔操作でルーフの開閉や空調のコントロールをしたり、駐車した場所をGPSによって確認したりすることができる。日本ではNTTドコモのSIMが搭載されているが、テスラのオーナーはドコモにもテスラにも通信料金を支払う必要はない。1,000万円もするモノであれば、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないIoT端末の通信料金のコストを、端末本体の価格に算入してしまうことが可能になる。

米国で販売されているサムスンのスマートウォッチGalaxy Gear S2には、eSIMが内蔵(エンベッド)されたモデルがある。その3G/4Gに対応したモデルは、AT&T、Verizon、T-Mobileのいずれかのキャリアから購入し、同時にモバイル通信プランを契約する必要がある。例えばAT&Tで購入する場合は、複数の端末で5Gバイトのデータ通信と無制限の音声通話が利用できるモバイル・シェアというプランが月額50ドルになる。これはスマートフォンとGalaxy Gear S2で一つの契約を共有することなどを想定している。別々に購入したスマートフォンとGalaxy Gear S2をペアリングすれば、スマートフォンを持っていないときでも、Galaxy Gear S2で電話をかけたり、メッセージやeメールを送ったり、スマートフォンへの着信通知を受け取ったりすることができる。T-Mobleで購入する場合は、2年縛りで月額15ドルのモバイル通信料金と15ドルのGalaxy Gear S2の割賦料金というプランがあるが、スマートフォンの契約があればモバイル通信の追加料金は5ドルになる。

一般消費者向けのIoT製品の勝負はこれから

日本の製造業から、一般消費者向けのイノベーティブな製品が生み出されなくなって久しい。スマホエコノミーにおいても、その存在感は希薄になってしまった。
スマホエコノミーのスマートフォンの部品のレイヤーには、村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサー)、日本電産(振動モーター)、アルプス電気(オートフォーカスと手振れ補正用アクチュエーター)などの、高い技術力を持った日本のメーカーがいる。皮肉なことに、スマートフォン事業が低迷するソニーも、イメージセンサーを他のセットメーカーに提供する事業は好調だ。
しかし、テスラにしてもサムスンにしても「インターネットにつながったモノ」で可能になることは、まだ「新しい体験」と言えるほどのことではない。"nice to have"かもしれないが"must have"なものではないだろう(まあ、なくても良いものだと思う)。テスラの場合は、その通信料金をユーザが意識することがないので「おまけ」と考えることもできるが、サムスンの場合はビジネスモデルを含めてまだまだ試行錯誤の段階だろう。一般消費者向けのIoT製品の勝負はこれからだ。日本の製造業にとっても反転攻勢に出る大きなチャンスと言える。

2014年10月にパナソニックは、企業向けのMVNOに参入すると発表した。同社は2007年にhi-hoというプロバイダー事業から撤退したが、2013年にスマートフォン向けのWonderlinkというブランドの格安SIMの通信ビジネスに再参入した。これはMVNOではあるが、「通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備」を保有するMVNEと呼ばれる他社(富士通とIIJ)のソリューションを利用したものだ。新しい企業向けのMVNO事業は、これらの設備を自社で保有して「お客様の用途に合わせたフレキシブルな無線通信サービスプラン提供を実現し、当社の無線対応機器および保守・運用サービスと組み合わせ、ハードから通信回線・運用まで一気通貫のワンストップソリューションとして企業向けに提案」するという。

言うまでもなく、パナソニックは多くの一般消費者向けの製品をつくる日本を代表する製造業だ。「金にならないモノのインターネットの通信」を事業として考えるよりも、せっかくの自前のMVNOを武器として活用し、自社の製品をIoT化することによって「新しい体験」の価値を創造することにチャレンジして欲しいと思う。
製造業のイノベーション戦略を考えるには、製品と市場という軸を、それぞれの上位概念である技術とドメインという軸で表すとわかりやすい。,魯▲鵐哨佞水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。
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この,「インターネットにつながったモノ」であり、それに必要な「新技術」とは、モノをインターネットにつなげるためのモバイル通信や、モノと通信するクラウド上のサービスや、そのサービスを経由してモノから情報を受け取ったり指示を与えるためのスマートフォンのアプリに関する技術だ。
これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファーム・ウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。自社の事業にとっての、スマートフォンのアプリの重要性など想像もつかない。これは、IoT時代を生き抜こうとする製造業にとって致命的な問題だ。
パナソニックの企業向けMVNOは、パナソニックAVCネットワークスという別会社の事業のようだが、製品事業部との壁は他企業との壁よりも厚いのかもしれない。その壁を壊すことが、「アプリの力」以上に必要なことだろう。

「2016年はIoTのためのMVNOが加速するか」という問いについては、「モノのインターネットのための通信は金にならない」ので「これまでのMVNOの形態で、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい」だろうと答える。しかし、一般消費者向けの製品をつくる製造業において、「インターネットにつながったモノ」をつくるためのバリューネットワークとしてのMVNOを水平統合するという戦略は検討する価値があるのではないだろうか。

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7/15にAppleがIBMと企業向けアプリケーションで提携するという発表があった。

AppleとIBM、企業のモバイルを一変させるグローバルなパートナーシップを締結

スティーブ・ジョブズのiPod/iPhone/iPadによるコンシューマー・エレクトロニクス市場の破壊的イノベーションの時代が終わり、アップルは「普通のすばらしい会社」へ進み始めた。
そして7/22にはアップルの第3四半期の業績が発表された。それによると前年同期に対してiPhoneの販売台数は3120万台から3520万台に増加し、iPadは1460万台から1330万台に減少したが、全体的にはまずまずの業績のように思える。
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iPadの販売数は頭打ちになったようだが、IBMとの提携によるビジネス市場への進出によって、もうひと伸びが期待できるだろう。

ティム・クックはコンシューマー・エレクトロニクス市場において「これまでになかったまったく新しい価値」を生み出すことをあきらめたようだ。そんなことは、はじめから考えていなかったのかもしれない。今秋には新しいiPhoneや腕につける健康管理の時計のようなものを発表するだろう。あるいは買収したBeats MusicをiTunes Radioと統合した新しい音楽ストリーミングサービスを始めるかもしれない。アップルなりのデザインやまとめ方で、ちょっとクールな味付けがあるかもしれないが、それらはすでに手垢のついたモノやサービスだ。それらは彼が出すと約束している世界一の製品なのだろうか。

ティム・クックは非常に有能な経営者であり、ジョナサン・アイブも稀にみる優秀なデザイナーだ。二人ともどんな企業においてもすばらしい力を発揮できるだろう。しかし、アップルに次の破壊的なイノベーションをもたらすことはできないように思う。いや、すでに攻める側から攻められる立場に立ったアップルの経営陣や投資家にとって、不確実で大きなリスクのある破壊的なイノベーションの取り組みは必要でないのかもしれない。ジョブズのまき散らした種のうち、芽を出して大きく育った木に水や肥料を与えて、毎年できるだけ多くのリンゴを収穫するほうが安全で確実だ。ジョブズもそのために最適なティム・クックを後継者に指名したのだろう。自分のようなことは自分にしかできないという自尊心がそうさせたのかもしれない。ティム・クックを指名した時点で、アップルにおいて持続的なイノベーションのための最適化が始まった。

しかしどんなに手入れをしても木には寿命がくる。無理な収穫をすれば木は弱るし、台風などで一夜にして倒れてしまうかもしれない。今日のデジタル時代では、そのスピードやリスクは以前とは比べ物にならない。ジョブズが生きている間に芽が出なかったテレビや時計に、いくら水をやっても無駄だと思うし、小さな芽が出たとしてもそれを大きな木に育てるには、経営のノウハウやデーターではなく、偏執的な執念と子供のような感性が必要になる。

ビジネス市場へ参入し、そこからこれまでのような事業成長を獲得するには、中途半端な取り組みで済ますわけにはいかない。コンシューマー市場における継続的なイノベーションのシナリオを着実に実践する一方で、まったく文化の異なるIBMとのタフな取り組みに多くのリソースを投入することになるだろう。これはジョブズには絶対できない(我慢できない)ことだったと思う。アップルがティム・クックという優秀な管理能力を持った経営者の会社になったということの表れだろう。
IBMとの提携は、アップルのファンが抱いていたもやもやとした幻想をきれいに取り払ってしまったのではないだろうか。IBMとの提携がiPhone/iPadの浸透を前提としたものであるならば、Appleは現行事業を否定する破壊的なイノベーションを起こすことは難しくなる。

iPodは音楽プレイヤーと音楽コンテンツの流通市場を破壊し、iPhoneは携帯電話メーカーとキャリアのビジネスモデルを破壊し、さらにゲームやアプリケーションソフトウェアなどのコンテンツ市場にも大きな変革をもたらした。iPadはそれらをさらに加速し、ノートパソコンの市場にも大きなダメージを与えた。ジョブズが生きていたとしたら、次に破壊するものはあったのだろうか。
アップルはすでにコンシューマ・エレクトロニクス市場のトップに立っている。市場に破壊的なイノベーションを起こそうとすれば、少なからず自らの事業を破壊することを覚悟しなければならない。iPhoneによってiPodの事業は衰退した。iPhoneはiPodを飲み込み、パソコン、カメラ、ビデオカメラ、ゲーム機、テレビ、書籍や新聞のリーダーなどありとあらゆるモノを手の中の小さなデバイスに魔法のランプのように飲み込んでしまった。もう飲み込むものは無いようにも思える。しかし、そこから破壊的なイノベーションは始まる。
人々の基本的なニーズは不変で、技術によってその手段が変化してゆく。音楽を聴いたり、ランニングをしたり、写真を撮ったりする目的は人によってそれぞれ異なるだろうが、ひとりの人に注目すると、新しい技術によって提供された製品やサービスによってその方法が変わっても、その基本的なニーズは不変だということだ。技術の進化が無限であれば、人々が何かをする手段も無限に変化する可能性がある。(以前の記事から)
iPodの基本的な部分や機能、そのコンセプトやビジネスモデルは10年以上変わっていない。 iTunesがiPhoneの中の1つのアプリケーションになっても、さらにiOSの中に「音楽」として組み込まれiTunesというアプリケーションが見えなくなっても、クラウドから音楽を購入してダウンロードしてiPhoneで選んで聴くという流れは変わっていない。上述したような音楽ストリーミングサービスを始めるかもしれないが、それもすでに手垢のついてしまったものであり、「これまでになかったまったく新しい価値」を生み出すことにはならないだろう。
音楽を購入してダウンロードして聴くという体験と、定額の料金を支払いストリーミングで自由に好きな音楽を聴くという体験には大きな違いがある。しかしiPhoneのアプリで曲を選択してヘッドホンで聴くという古いスタイルでは、その違いを「これまでになかったまったく新しい(体験)価値」に転換することはできない。

例えば、手の中の魔法のランプから新しい画期的なデバイスを取り出して「iPodを再発明する」ことだ。その価値が市場に理解されるのに2〜3年かかるかもしれない。偏執的な執念と子供のような感性で顧客の思いを積み上げてゆくそのプロセスが、アップルのコンシューマーブランドをさらに強固なものにしていくはずだ。しかし、ティム・クックはSiriやMapの最初のつまずきで少し保守的になっているかもしれない。

少し前に、読もうと思っていた本の日本語翻訳(沈みゆく帝国)が発売された。しかしKindle版の価格(2000円)が単行本の価格と変わらなかったので、結局オリジナルのKindle版を購入して読んだ。

Haunted Empire: Apple After Steve Jobs
Yukari Iwatani Kane
HarperBusiness
2014-03-18


緻密で膨大な取材に基づいて書かれており、サムスンとの特許係争や中国での生産の問題、そしてアップルの人間関係など読み応えがあって非常に面白かった。その内容を否定する意見もあるようだが、取材元なども明確に示されていて僕はけっこう鵜呑みにしている。ティム・クックがわざわざ「ナンセンスだ」とコメントして話題になったが、逆に痛いところを突かれたという印象を与えてしまったようだ。
この本に書かれていることは、他の多くの大企業においてはさほど驚くことではないかもしれない。アップルもそれらの多くの大企業とおなじ「普通のすばらしい会社」になりつつあるのだろう。しかし、今の経営体制では「これまでになかったまったく新しい価値」を生み出すことは難しいだろう。
ジョブズとティム・クックは完璧な補完関係にあった。ティム・クックは自分がジョブズになれないことは一番よく知っているだろうし、なりたいとも思っていないかもしれない。もし万が一、ジョブズの代わりになり得る人材が居たとしても、ティム・クックがそれを認めて受け入れるとは思えない。ティム・クックはジョブズを補完できたが、ジョブズはティム・クックを補完することはできない。

この本を読んで、昨年10月にAmazon.comで195円で購入した本を思い出した。



これを途中まで読んで「Appleは未だにiPodで止まっている」を書いた。一時期Amazon.comから消えていたが、表紙が新しくなり508円になって再登場していた。きっと購入したものはβ版だったのだろう。 1980年からジョブズやアップルに関わっていた多くの人々の短いコメントが時系列に並んでいる。"Haunted Empire"を読んで、もう一度この本を(最後まで)読み返してみようと思った。

Haunted Empire(沈みゆく帝国)では、まるでシスの帝国のように語られてしまったアップルだが、帝国に破壊的なイノベーションをしかけるジェダイのスタートアップは現れるだろうか。

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