デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

タグ:ジレンマ

パナソニックは4月19日のプレス向けの研究開発戦略説明会で、「さらなるイノベーション推進に向けて、今後の成長エンジンとなる新事業モデルの仮説を自ら構築し、リソースを集めて挑戦する仕組みと体制を本社主導で整備する」との発表を行いました。そこで、4月1日に新設されたビジネスイノベーション本部は、次のようなミッションを持つとの説明がありました。
  • 「モノ売り」から脱却し、サービス中心の事業創出を推進
  • 既存に対する破壊的技術になり得る、IoT技術に基づく事業創出を推進
  • 加えて、人工知能(AI)技術などの破壊的技術で事業創出を推進・支援 
また、3月25日の日本経済新聞は「パナソニックは不採算の6事業を対象に一段のリストラに踏み切る」と報じました。デジタルカメラなど、3つの事業部を解体して人員を減らすことなどが計画されています。これまでにもプラズマテレビやプラズマパネルから撤退し、鉛蓄電池などの事業を売却するなどのリストラを断行してきましたが、今回が赤字事業の最終処理だとのことでした。

大規模なリストラによって経営の健全化は進んでいるようですが、まだ新たな収益源の育成に向けた戦略は見えません。5年以内に人工知能(AI)領域の技術者を1,000人規模にまで増強してサービス中心の新しい事業を創出するという「意思」が示され、ビジネスイノベーション本部という「箱」はつくられましたが、それは「戦略」にはなっていません。しかし、新たな本部の副本部長に就任した元SAPジャパンの馬場渉氏が説明会で話した「ユーザーエクスペリエンスとデザインシンキングをパナソニック全社に適用する」という言葉には注目させられました。  
 
AIとデザイン思考でパナソニックは蘇るか?(Wedge Infinity)


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既存の企業(特に製造業)のイノベーションに関して、多くの人々は悲観的だ。その理由については「イノベーションのジレンマ」をはじめとしてすでに多くの分析がなされている。例えば、成功した企業がさらなる成長のために最適化した組織が、病原菌が侵入した時の白血球のように、イノベーションを拒絶し死滅させるといった分析だ。
iPodに携帯ミュージックプレイヤーの事業のトップの座を奪われたソニーの元社長は当時を振り返って「自分は工場を持っていたからiPodを(作りたかったけど)作れなかった」とまさにジレンマを語っていたが、はたしてiPodというイノベーションの答えを見いだすことはできていたのだろうか。iPodのほんとうの価値を思いついていたのだろうか。僕も含めて、答えを見てからならばなんとでも言える。

企業の成長戦略についてはアンゾフの成長マトリックスで俯瞰することができる。

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このマトリックスではイノベーションという観点での分類はされていないように見えるが、アンゾフは多角化についてさらに水平型、垂直型、集中型、集成型という4つの分類をしている。このうちの水平型と集中型はイノベーションの戦略として、成長戦略に組み込むことができるのではないかと思う。製造業のイノベーション戦略を考えるには、製品と市場という軸を、それぞれの上位概念である技術とドメインという軸で表すとわかりやすい。すなわちイノベーションのマトリックスだ。

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,魯▲鵐哨佞水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。写真というドメインにおいてカメラメーカーが新しいデジタル技術を導入し、フィルムカメラからデジタルカメラへのプロダクトイノベーションに成功した事例がある。
△麓社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって、別のドメインに参入するというアンゾフの集中型多角化だ。Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケースがあてはまる。
しかし、もしソニーがiPodを創っていたとしたら,離僖拭璽鵑離ぅ離戞璽轡腑鵑棒功したことになる。そのプロセスを「iPodの創り方」という記事で考えてみた。

自社にない新しい技術を獲得して新しいドメインへ参入する、いわゆるコングロマリット化戦略は経営のより上位レベルでM&Aなどのオプションを含めて検討されるものであり、上記の2つのイノベーション戦略と同じ次元で考えられるものではない。

T.レビット マーケティング論(有賀裕子訳)
の「マーケティング近視眼」の先頭に次のような記述がある。「マーケティング近視眼」は2001年11号のダイアモンド社のハーバードビジネスレビューに掲載されたが、1960年にマッキンゼー賞を受賞しているという古い論文だ。人々はずいぶん長い間、イノベーションというテーマと格闘している。
鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。それらの需要は依然として増え続けている。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体がそうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客を他へ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。
いったん鉄道事業のためのバリューネットワークを忘れて、「輸送」という顧客の基本ニーズに立ち戻り、そこからその時点で利用可能な技術やインフラを前提に、その「輸送」というドメインにおける新たなバリューを定義する。そしてそのためのバリューネットワークを再構築する。これはイノベーションのマトリックスの,鮃圓Δ燭瓩旅佑方であり、「iPodの創り方」で紹介した「モノのデジタルリマスタリング」という方法論の元にもなっている。
「鉄道」と「輸送事業」という二つの言葉を言い換えるだけで、いろいろな事業の衰退を形容することができる。「鉄道」を「携帯ミュージックプレイヤー」や「デジタルカメラ」や「ビデオカメラ」などに置き換えた場合、それぞれの「輸送事業」に対応する言葉は何だろう。
なぜイノベーションは稀にしか実現しないのだろうか。最もよく耳にする応え、そして私の見たところ最も罪深い答えは、人々が組織に隷属させられ、創造性を身につけられずにいるというものだ。その主張によれば、産業界が創造性をみなぎらせ、進取の精神に満ちた人材を多数採用してアイディアを披露するチャンスを与えれば、アメリカ企業の問題は全て解決するという。
・・・(中略)・・・
アイディアを次々と生み出す人々は、たいてい組織をどのように動かせばアイディアをかたちにできるかを知らない。とりわけ前例のない画期的なアイディアを実行する方法を知らず、多くの場合、「アイディアは放っておいてもイノベーションに繋がる」とう理解しがたい考え方に染まっているようだ。このような偏見では、着想とイノベーションは同義語になる。この種の考え方にとりわけ強く毒されているのが、ブレーンストーミングの信奉者で、自分たちの流儀こそが企業を救うと信じて疑わない。
これもマーケティング論の中の「アイデアマンの大罪」という章に書かれている文章だが、日本の企業(製造業)の場合はさらに深刻だ。多くの場合、そういった「アイデアを次々と生み出す人」は、組織から浮いた存在になっていて事業の中心から外れている。もちろん、そのアイデア自体が採るに足らないものであることが多い(ほとんどである)のかもしれないが、どちらにしても「画期的なアイデア」は周囲には理解できず、協調性や和を重んじる日本企業の中では相手にしたくない危険な匂いがする。画期的なアイデアとは、それが現実のものとなり人々にその価値が理解できてから画期的であったことが判明するのだから厄介だ。

日本の大企業(製造業)の「イノベーション」や「新規事業」という言葉のついた組織の人とお会いすることがときどきある。企業の期待を背負って創設された組織だと思うのだが、それらの方々の前職をお聞きすると、既存の事業の企画や販売や開発に携わっていたという方が多い。そして経営陣はそういった言葉のついた組織をつくるだけで変革が起きると期待しているように見える。任されたほうも組織の名前以外に明確な方向性を伝えられていないので、まずは何をしましょうかというところから始めるしかない。コンサルタントと高い契約をして、現状分析やアイデア出しのブレーンストーミングによって提案書を作成したりコンセプトのビデオを作ったりする取り組みを2〜3回繰り返したところで、経営陣が飽きてしまって組織が消滅する。

2012/7にHBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)に掲載された"Reversing the Decline in Big Ideas"(ビッグアイデアの減少に歯止めをかける)に次のような記述があった。
 
"The only way out of this innovation gridlock is an expansion in founding team diversity. I believe the missing piece from the DNA in the founding teams of Transformational Companies is now the Domain Expert, who has deep insight into the industry they are trying to disrupt. Without a domain expert attempts at disruption are unimaginative and incremental at best.
There are so many industries ripe for technology startups to disrupt: Education, Health Care, Business, Art and Government just to name a few. But where are the domain experts ready to be paired with a team of rockstar engineers and superstar designers? "

イノベーションの停滞状況から抜け出す唯一の道は、創業者チームの多様性を拡大することだ。私は「変革型企業」の創業者チームのDNAに欠けているものは、彼らが変革を起こそうとしている産業分野に詳しいドメイン・エキスパートであると信じている。ドメイン・エキスパートなしでは変革の企ても想像力に乏しくなり大した成果も期待できない。
教育、ヘルスケア、ビジネス、アート、政府、その他にもテクノロジースタートアップの変革を待っている産業は数多く存在する。しかしロックスター・エンジニアやスーパースター・デザイナーとチームが組めるドメイン・エキスパートはどこにいるのだろうか?

全体の論旨は、新しい企業が既存の市場に変革を起こすためには“Founder Market Fit”(創業者と市場が適合していること)が必要であり、その創業者チームに必要な人材は時代とともに変わってきている。最初はHPやApple、Microsoftなどのように一人か二人のエンジニアと一人のセールスマンがいればよかったが、現在はデザイン思考などで語られているようにデザイナーの時代になった。しかし、それもすでに市場に適合しなくなっているということだ。これは起業して間もない「新しい企業」について書かれているのだが、既存の企業におけるイノベーションの取り組みにおいてもあてはまる。変革を起こそうとしている産業分野に詳しいドメインエキスパートとはどのような人のことをいうのだろうか。

GoProを創ったニック・ウッドマンはデジタルカメラやデジタルビデオカメラの産業におけるエキスパートではない。彼はサーフィンが大好きな起業家だった。GoProの前身となった会社を起こす前に、400万ドルの資金を得てオンラインゲームの会社を起業して失敗している。その後、レンズ付き(使い捨て)カメラを防水ケースに入れて腕に固定しサーフィン中に写真を撮影できるようにするためのバンドを作って売り始め、次に専用のフィルムカメラを作り、それからサーフィンのためのデジタルカメラを創った。バンドからデジタルカメラまでに5年かかっている。彼はサーフィンを撮影するということに、異常なまでの熱意と執念をもっていた。変革を起こそうとしているドメインのユーザー側のエキスパートだった。
もしサーフィン好きで起業家精神に溢れたニック・ウッドマンがソニーにいたらGoProを創れただろうか。

coverジョブズを発掘したAtariの共同ファウンダーであるノーラン・ブッシュネルが書いた"Finding the Next Steve Jobs"(次のスティーブジョブズを探せ)には、企業がそういった人物を探すための心構えが書いてある。変革のためのアイデアと熱意を持った人物を招き入れて力を発揮させるには経営者の考え方や企業側の体質を変える必要があると。(注:この本の邦訳が2014年5月に出版されたが邦題は「ぼくがジョブズに教えたこと」となっている)

冒頭に書いたように大企業(特に製造業)においてイノベーションを起こすのは非常に難しい。環境を整えてニック・ウッドマンを招き入れたとしても、周囲が彼についていけるとは限らない。しかし大企業が保有する経営資源を選択し活用することができる自由が与えられればいろいろなことにチャレンジできる。その多くは失敗に終わるだろう。ジョブズもウッドマンも失敗を経験している。それが浪費なのかイノベーションへの糧になっているのかを見極めるのは経営者の眼力だ。
イノベーションのマトリックスの始点に飽和・限界と書いたが、それが起こってから茹でガエルのようにイノベーションに取り組んだのでは遅い。アンゾフのマトリックスの市場浸透、製品開発、市場開拓の3つの成長戦略には必ず飽和・限界があることを認識する必要がある。

ノーラン・ブッシュネルはTechCrunchの記事のインタビューの中で次のように言っている。
"I actually think iPhone was actually an exchange of iPod ecology."
Appleは未だにiPodで止まっていると。
Appleでさえイノベーションへの挑戦を続けないと茹でガエルになってしまう。

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クリステンセンは、イノベーションを引き起こした技術革新が連続的であるか否かによってインクリメンタルとラディカルに分類するそれまでのイノベーション分類に対し、既存の有力企業(の事業)が存続可能か否かという視点で、そのイノベーションに対応して存続可能なものを持続的イノベーション "Sustaining Innovation"、対応が困難で存続が不可能なものを破壊的イノベーション "Destructive Innovation" とする独自の分類をしている。それらは2つの技術革新とは独立して考えるべきで、次のようなマトリックスで表すことができるとしている。
innovation matrix

イノベーションはこの4つの象限に分類されるとし、「イノベーションのジレンマ」で次のようなことを言っている。

「持続的イノベーション」に最適化された組織では「破壊的イノベーション」を起こすことができず、やがて他者によって起こされた「破壊的イノベーション」によって事業が衰退してしまう。

CCDなどのセンサーという発明によって、カメラがデジタルになるというラディカルな技術のイノベーションが写真産業に起こった。フィルム時代の写真産業の有力なプレイヤーのうち、カメラメーカーの多くは製品のデジタル化に成功したが、フィルムの製造販売や現像とプリントサービス(DPE)を生業にするプレイヤー(フィルムメーカー)にとっては破壊的イノベーションになってしまった。
なぜフィルム時代に最適化された組織すなわちバリューネットワークを構築していたカメラメーカーが、このラディカルなイノベーションに対応し存続することができたのだろうか。カメラメーカーはクリステンセンの第2象限の実例を示したようにも見えるが、カメラメーカーとフィルムメーカーの明暗はクリステンセンの指摘する「最適化された組織の問題」を単純にあてはめただけでは説明がつかない。
 
CCDを利用したデジタルカメラは1995年ごろにカメラメーカーでないカシオから(QV10が)発売されていた(実はその前の年にAppleがQuickTakeというMac専用のデジタルカメラを発売したことを知っている人は少ないかもしれない)。最初はコンピュータへの画像入力デバイスというニッチな存在でしかなく、それがカメラとしてフィルムをベースにした写真産業のエコシステムを破壊し始めるのは2000年になってからだ。画像の記録媒体と記憶媒体がフィルムとDPEから、センサーとシリコンメモリーに変化するという不連続(ラディカル)な技術のイノベーションが起きてから、製品やビジネスモデルのイノベーションが始まるまで5年以上かかっている。センサーなどのデバイスのコストダウンや性能の向上にそれだけの時間が必要だった。その間にカメラメーカーはラディカルな技術イノベーションに対応することができた。逆に電機メーカーなどの異業種からの新規参入組も、レンズやオートフォーカスなどのカメラに必要な技術を取り込むための時間が必要だった。そしてカメラメーカーは2000年に新規参入組と同じスタートラインに立つことができた。
カメラメーカーが自らイノベーションを起こしたのではなく、他者によって仕掛けられたイノベーションに、そのバリューネットワークを対応させることができたといえると思う。

フィルム時代の写真産業は、まさにフィルムを中心とした巨大なエコシステムを形成していた。フィルムメーカーはその中心にいて、川下のDPEサービスを含めて市場の70%以上の利益を独占していた。そのフィルムそのものがバリューを失ってしまったのだから、フィルムメーカーはフィルムメーカーとして生き残ることはできない。フィルム関連事業が破壊されても企業として存続するには、保有する技術やその他の経営資源をつかって新規事業領域に活路を見出すほかに道はなかった。
これはカメラメーカーとフィルムメーカーのバリューネットワークの違いによるものだ。バリューネットワークとは、その企業(事業)が提供するバリューと、それを可能にするために最適化されたプロセスとリソースのネットワークをいう。両者の違いはそのバリューだ。カメラメーカーが提供するバリューは「写真を撮る」すなわちレンズによって画像を結像させてフィルムに記録することであり、フィルムメーカーの提供するバリューは、そのフィルムを提供し画像が記録されたフィルムを現像しプリントして「写真」として完成させるということだ。カメラメーカーにとっては「フィルムに記録する」を「センサーに記録しメモリーに記憶させる」に変える対応ができれば、事業が提供している「写真を撮る」という基本的なバリューを保つことができる。もちろん取り組むべき技術の壁は非常に大きかったが、上述のように5年という猶予もありバリューネットワークの一部を変更することで事業の存続が可能だった。さらにバリューネットワークを強化することによって、フィルムメーカーに代わって写真産業の中心となって事業規模を数倍に拡大することに成功した。
一方でフィルムメーカーは、そのバリューネットワークの起点となるフィルムそのものが消失するという事態に、フィルム事業のバリューネットワークが破壊されてしまった。もしフィルムメーカーがフィルム関連事業しか持たず、そのバリューネットワークに固執してしまい。別の新しいバリューネットワークを構築するという取り組みを怠っていたならば、その企業自体の存続も不可能だっただろう。
 
いったんデジタルコンバージェンスが起きると、その市場は流動的になり参入障壁も低くなるため、それ以前のように安定したバリューネットワークを構築し維持することが難しくなる。逆にバリューネットワークをフレキシブルなものにして技術やインフラの進歩・変化や顧客のニーズの変化に対応できるようにする必要がある。それはその市場において技術やインフラのイノベーションが継続的に起きるようになるからだ。
しかし、コンバージェンス後の市場における競争優位を勝ち取るためには、競合他社に先駆けて強固なバリューネットワークを構築しなければならないのも事実だ。次のイノベーションの前に目の前の競争に敗れてしまう訳にはいかない。実際に、いったんはイノベーションに成功したにもかかわらず、デジタル時代に適合したバリューネットワークを構築することができずに撤退や事業売却するカメラーメーカー(や新規に参入した電機メーカー)が相次いだ。
クリステンセンのイノベーションのジレンマは、安定した強固なバリューネットワークを持つ企業に生じるものであったが、デジタル時代においては、経営者はそもそも安定した強固なバリューネットワークというものを構築すべきか否かという判断を迫られている。フィルムのエコシステムは100年以上にわたって多くの企業に利益をもたらしたが、フィルムメーカーに代わって写真産業の頂点に立ったカメラーメーカーの業績は10年そこそこで陰りが見え始めている。

前述のようにカメラメーカーが提供するバリューは「写真を撮る」というものだ。その「写真を撮る」というバリューを別の形で提供しようとする者が現れた。スマートフォン(のカメラ)だ。 その原点は2000年にソフトバンクモバイル(開始当時はJ-フォン)から発売されたカメラ付携帯電話だ。 やはり10年という長い時間がかかったがカメラ付携帯がスマートフォンという形に変わり、技術のインクリメンタルなイノベーションによって画質も向上しカメラメーカーの提供する「写真を撮る」というバリューを脅かすに至った。しかし、そのアドバンテージのひとつは、クラウドというラディカルなイノベーションとソーシャルネットワークサービスの出現によって、これまでの記録と記憶(保存)媒体に加え、新たに共有という媒体がスマートフォンのカメラのバリューネットワークに組み込まれたことだ。これが写真を撮ることから始まるまったく新しい体験として人々のコミットメントを獲得した。さらにもうひとつのアドバンテージは、スマートフォンのカメラはいつでも傍にあるということだ。人々はカメラを意識して携帯していなくても、スマートフォンは常時携帯している。その結果、スマートフォンのカメラは写真を撮りたいと思ったときにいつでも傍にあるという価値を提供している。

フィルム時代、人々はフィルムを購入しそれをカメラに入れて撮影した後はDEPサービスを利用して「写真」を完成させていた。そしてデジタル化された写真においてもカメラメーカーは「写真を撮った後」に関与することなく「写真を撮る」というバリューの提供を独占し、そのバリューネットワークを「写真を撮る」というバリューに特化させて事業を存続し拡大してきた。 次はカメラメーカーが自らイノベーションをしなければならない。もちろん、写真産業の外に活路を求めてまったく別のバリューネットワークを構築するというのではなく、写真産業においてカメラメーカーが提供するバリュー自体を再定義し、それに基づいたバリューネットワークを再構築することを意味している。

そもそも「デザイン思考」とは何なのか?簡単に言えば、“人々の生活や価値観を深く洞察し、ユーザーが何を潜在的に求めているのかを感知しながら、プロトタイピングを通じて、新しいユーザー体験を提供するイノベーション・プロセス”である。

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川手恭輔(Internet Born & Bred)
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