前回にひき続いて...になるが

D.A.ノーマンのエッセイ"Technology First, Needs Last"に遭遇した時に、その全体の論旨には共感できるものの、なんとなくひっかかる感じがした。"Activity-Centered Design"という彼の提案の発展形あるいはそれを補完する概念として「共感できる」どころか、大賛成なのだが...

というこのブログの原点ともいえる"Technology First, Needs Last"という言葉について、「ノーマンは『技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできない』と言っているのではなかった。 」と書いたが、さらに僕なりの解釈を書いてみようと思う。すでにノーマンを引用するまでもなく、自分の中ではイノベーションについてのイメージが明確になりつつあるが、それも「誰のためのデザイン?」の改訂版の中の次の一文でインスパイアされたものだ。

Technology changes the way we do things, but fundamental needs remain unchanged.

技術は人々が何かをする手段を変えるが、その基本的なニーズは不変だ。 

稚拙な日本語訳だが、この本の中で一番ガツンときた文章だった。
何回かこのブログでiPodによるミュージックプレイヤーのイノベーションを例にして、潜在ニーズの見つけ方について僕のアイデアを説明した。もちろん、そのアイデアは間違っているかもしれない、あるいは万能でない1つの方法論に過ぎないかもしれないが、それはそれとして。

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この「不変である人々の基本的なニーズ」という言葉。一見、「最初に新しい技術による革新があって、ニーズは後からついてくる」という言葉と矛盾するようだが。ミュージックプレイヤーを例にすると「音楽を聴く、楽しむ」ということが人々の基本的なニーズと考えることができる。そして技術の進化で可能になった新しい製品によって「どこでも音楽を聴きたい」「どこでも自分の選んだ音楽を聴きたい」「どこでもその場で選んだ音楽を聴きたい」といったニーズが製品という実現モデルで次第に顕在化した。「音楽を聴く、楽しむ」という基本的なニーズは変わっていないが、技術によってそれぞれの新しいニーズが後からついてきたといえると思う。もちろん、いったんその製品を手にすると人々は「こういうのが欲しかったんだ。」とか「どうしていままでなかったんだろう。」などと言う。それが顕在化した潜在ニーズだ。

カメラメーカーは、写真産業においてカメラメーカーが提供するバリュー自体を再定義し、それに基づいたバリューネットワークを再構築すべきだ。

この本はT.レビットの没後に、それまで彼がハーバードビジネスレビューに寄稿した論文を"Theodore Levitt on Marketing"としてアンソロジーとしてまとめたもので、日本では2007年11月に有賀裕子氏の訳で「T.レビット マーケティング論」として発売された。

T.レビット マーケティング論
セオドア・レビット
ダイヤモンド社
2007-11-02


他の書籍は人に貸して行方不明になったりしているが、僕がソフトウェアエンジニアから(インターネット)マーケティングを志すきっかけになった論文を集めたこの本はちゃんと机の上にある。
その最初の章の「マーケティング近視眼」の先頭に次のような記述がある。

鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。それらの需要は依然として増え続けている。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体がそうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客を他へ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

「マーケティング近視眼」は2001年11号のダイアモンド社のハーバードビジネスレビューに掲載された論文だが1960年にマッキンゼー賞を受賞している。
「鉄道」と「輸送事業」という二つの言葉を言い換えるだけで、いろいろな事業の衰退を形容することができる。写真の需要は依然として増え続けている。スマートフォンのカメラに顧客を奪われたわけではない。カメラメーカー(事業)が生き残り発展するには、自社の事業をカメラ事業ではなく写真事業として、その提供するバリュー自体を再定義し、それに基づいたバリューネットワークを再構築しなければならない。

いったん鉄道事業のためのバリューネットワークを忘れて、「輸送」という顧客の基本ニーズに立ち戻り、そこからその時点で利用可能な技術やインフラを前提に、その「輸送」というドメインにおける新たなバリューを定義する。そしてそのためのバリューネットワークを再構築する。それが事業のイノベーションだ。鉄道事業の例の場合、経営者はジレンマを感じていたのだろうか。iPodにミュージックプレイヤーの事業を奪われた企業の経営者は「自分は工場を持っていたからiPodを(作りたかったけど)作れなかった。」と言っていた。
日本では若い人の自動車離れが報道されている。自動車は目的なのだろうか。それが手段だとすると目的は何だろうか。再定義したバリューの実現モデルは果たして「自動運転自動車」なんだろうか。

もちろんそれも、デザイン思考で行こう!

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