デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

タグ:マトリックス

自社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって別のドメインに参入するというイノベーション戦略は、自社のコアコンピタンスを生かした多角化や新規事業の創出を検討する取り組みのシナリオとなることが多い。企業のコアコンピタンスとしては、技術や物流ネットワーク、生産方式など、さまざまなものが考えられる。そのような取り組みは、必ずといっていいほどSWOT分析から始まる。そして技術の棚卸しやヒアリングなどに多大な時間とリソースを費やして、非常に正確なSWOT分析図が完成する。その図を前にして、イノベーションのために集められたメンバーがため息をつき、そしてそのため息で地球が温暖化する。

完成したSWOTはひとまず横に置いておいて、前回の宿題のイノベーションのマトリックス図の△砲弔い
その事例として挙げた「Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケース」で考えてみたい。

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Appleはなぜ「音楽」を選んだのだろう。コンピューターと音楽というドメインは、音楽がまだアナログであった頃にはまったく関連がなかった。

ウォークマンが顕在化させた「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズはウォークマンとその周辺のエコシステムによって十分に満たされ、メディアのデジタル化という大きな変化においても「レコードをテープにダビングする」ことが「CDをMDにダビングする」に変化しただけで、デジタルコンバージェンス(産業融合)は起きなかった。(過去記事から)

そしてMP3などのコンピューターで扱うことができるデジタル音声ファイルフォーマットが出現し、その2つのドメインに関連性が生まれた。
単純に考えれば、もし、すでに「音楽」というドメインにいた企業がiPodを創ったとしたら,離僖拭璽鵑砲覆辰燭呂困澄N昭圓琉磴い呂垢任忙っているものと補完すべきものが逆になっているだけだ。Appleは「自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連した」iPodという製品によって「音楽」という新しいドメインに参入したが、すでに「音楽」というドメインにいた企業の場合は「コンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアに関連する技術を導入して」iPodを創ったということになる。
なぜそれがAppleにできて「音楽」というドメインにいた企業にできなかったのか。もちろんイノベーションのジレンマという問題もあっただろうが、そもそもiPodのようなアイデアを思いついてジレンマを感じるまでに至っていたのだろうか。iPodにミュージックプレイヤー事業の盟主の座を奪われた企業の経営者は「自分は工場を持っていたからiPodを(作りたかったけど)作れなかった。」と言っていたが、彼のいうiPodとは果たしてどのようなものだったのだろうか。

iPod以前にもMP3のミュージックプレイヤーはいくつも存在していた。しかし、それらは「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というCD/MDのウォークマンですでに満たされているニーズを単にデジタル技術で置き換えたに過ぎなかった。「どこででもその場で選んだ音楽を聴きたい」という潜在ニーズ(仮説)を顕在化させようというものではなかった。もちろん、Appleがそのような戦略設定でiPodを創りだしたかはわからない。あくまでも後付けで僕が考えた理屈だが、そんなに外れてはいないように思う。

Hill climbing. This method is the secret to incremental innovation. This is at the heart of the human-centered design process. Does hill climbing always work? Although it guarantees that the design will reach the top of the hill, what if the design is not on the best possible hill? Hill climbing cannot find higher hills: it can only find the peak of the hill it started from. Want to try a different hill? Try radical innovation, although that is likely to find a worse hill as a better one.

ヒルクライミング。これはインクリメンタルなイノベーションの秘訣であり、HCDのデザインプロセスの中心に位置付けられている。ヒルクライミングはどんな場合でも有効だろうか。そのデザインによって、その丘(ヒル)の頂上に到達することが保証されているとしても、最良の丘を上っているとは限らない。ヒルクライミングではより高い丘を発見することはできない。登り始めた丘の頂上を発見することができるだけだ。他の丘に登ってみたいならラディカルなイノベーションを試してみるといい。もっともそれは、より良いものとしてより悪い丘を見つけることになりかねないが。

D.A.ノーマンが「誰のためのデザイン?」の改訂版で言っているラディカルなイノベーションと、イノベーションのマトリックスの△同じという訳ではないが、その方法を明確にすることが難しいという点では非常に似通っていると思う。

Appleは2001年1月9日にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポで初めてiTunesを発表した。iTunesは2000年にジョブズがCEOに復帰した直後にAppleがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、Appleに移籍したその開発者たちが開発したそうだ。このときジョブズは、同時にデジタルハブ構想も発表している。パソコンがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うことによって、デジタル機器が人々のライフスタイルをもっと楽しく便利にするものになるというものだ。
"Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのはその年の10月23日になる。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を同時に発表したのだから、そのときすでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずだ。AppleはiTunesの発表の直後に携帯音楽プレーヤーの市場調査を始め、それからiPodの開発に着手したようだ。(過去記事から)

  • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の答えを発見する能力
ビジネスのデザイナーにはこのセレンディピティが不可欠だと思う。さらにその前に、「潜在的なニーズ」というものを常に探索し漠然としてであってもそれを自分が解決すべき課題として意識している必要がある。そうでなくては、新しい技術やインフラを見たときに「これだ!」と思いつくことなく他人事としてしかとらえることができないからだ。すなわちビジネスのデザイナーにとって、セレンディビティは必要な能力で、潜在的なニーズを見つけることは最初の仕事である。その2つによって、ジョブズのように誰も思いつかなかった製品をあたかも「発明」したかのように世に送り出すことができるのだ。だから技術者でなくとも発明はできる、ただし技術を理解する力は必要だが。(過去記事から) 

「セレンデピティ」という言葉をイノベーションに関連して非常に限定した意味で使ったが、ジョブズがSound Jam MPを見たとき「これは使えそうだ」と思ったのはセレンデピティを備えていたからだ。なぜ、Appleの本業でない「音楽」というドメインで「使えそうだ」と思うことができたのだろう。それはジョブズだからだと身も蓋もないことを言ってしまうと、またため息が出るだけだ。
Appleはなぜ「音楽」を選んだのだろうという疑問に明確に答えることはできない。もしかすると
Sound Jam MPに出会ったからかもしれない。しかし、ガートナーが言うように

あらゆる産業がデジタルリマスターされる。その意味は、あらゆる企業における事業の中核にある製品自体が、大きく変化してしまうということだ。

デジタル化(技術)とインターネット(インフラ)によって産業のドメイン間のボーダレス化が進み、相互の参入障壁が格段に低くなっている。参入しやすく参入されやすくもなっているのだ。自社の事業の周辺の別のドメインにおいても、,汎瑛佑砲修隆靄椒法璽困猟蟲舛叛在的なニーズの探索を日常の業務にすべきだと思う。そのターゲットが設定できてから、横に置いておいたSWOT分析図を見直してみれば何をすべきかがわかるはずだ。ため息をついている暇はないことも。
 

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大企業(特に製造業)のイノベーションについて、多くの人々は悲観的だ。その理由については、「イノベーションのジレンマ」をはじめとしてすでに多くの分析がなされている。例えば、成功した企業がさらなる成長のために最適化した組織が、病原菌が侵入した時の白血球のようにイノベーションを拒絶し死滅させるという分析だ。
企業の成長戦略についてはアンゾフの成長マトリックで俯瞰することができる。

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このマトリックスではイノベーションという観点での分類はされていないように見えるが、アンゾフは多角化についてさらに水平型、垂直型、集中型、集成型という4つの分類をしている。このうちの水平型と集中型はイノベーションの戦略として、成長戦略に組み込むことができるのではないかと思う。製造業のイノベーション戦略を考えるには、製品と市場という軸を、それぞれの上位概念である技術とドメインという軸で表すとわかりやすい。すなわちイノベーションのマトリックスだ。

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,魯▲鵐哨佞水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。写真というドメインにおいてカメラメーカーが新しいデジタル技術を導入し、フィルムカメラからデジタルカメラへのプロダクトイノベーションに成功した事例がある。
△麓社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって、別のドメインに参入するというアンゾフの集中型多角化だ。Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケースがあてはまる。
自社にない新しい技術を獲得して新しいドメインへ参入する、いわゆるコングロマリット戦略は経営のより上位レベルでM&Aなどのオプションを含めて検討されるものであり、上記の2つのイノベーション戦略と同じ次元で考えられるものではない。

いったん鉄道事業のためのバリューネットワークを忘れて、「輸送」という顧客の基本ニーズに立ち戻り、そこからその時点で利用可能な技術やインフラを前提に、その「輸送」というドメインにおける新たなバリューを定義する。そしてそのためのバリューネットワークを再構築する。

前回の記事からの引用だが、これは,鮃圓Δ燭瓩旅佑方だ。そしてデザイン思考のアプローチが得意とするところでもある。再三の登場になるが「デジタルビジネスデザインの進め方」も、デザイン思考のアプローチの過程に組み込むべきステップだ。
  1. デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する
  2. それによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  3. バリュープロポジションを定義する
  4. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
製造業といえども、デジタル化の流れの中でソフトウェアやWebサービスをプロダクトに組み込むことなくして、新しい価値を創出することは困難だ。

では△呂匹Δ世蹐Αその答えを導くための手法といったものがあるのだろうか。
その方法ついては別の記事でまとめてみようと思うが、どこかに答えやヒントが紹介されているのだろうか。あるいは,亮茲蠢箸澆鮃圓辰討い訝罎猫△療えを見出すことがあるやもしれない。

イノベーションには自社の事業をイノベーションするという意味と、市場にイノベーションを起こすという意味の2つがある。もちろん、企業(事業)にとってのイノベーションの狙いは前者だ。それによって企業が生き残り、その事業が拡大し成長することが目的だ。そのイノベーションが結果的に市場にイノベーションを起こし、それが他社にとって破壊的なものになったとしても、それは結果であり目的ではない。
イノベーションのマトリックスの始点に飽和・限界と書いたが、それが起こってからイノベーションに取り組んだのでは遅い。アンゾフのマトリックスの市場浸透、製品開発、市場開拓の3つの成長戦略には必ず飽和・限界があることを認識する必要がある。

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