デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

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D.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」の改訂版 The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition [Kindle版](邦訳もそろそろ?)では第6章 と第7章が新しく追加されたが、その第6章 Design Thinkingに次のような記述がある。
The prototypes might be scaled objects, constructed  by model makers or 3-D printing method. Even well rendered drawings and videos of cartoons or simple animation sketches can be useful. Virtual reality computer aids allow people to envision themselves using the final product, and in the case of a building, to envision living or working within it. All of these methods can provide rapid feedback before much time or money has been expended.

プロトタイプは、模型製作者や3Dプリンティングなどによる縮小された模型かもしれない。上手に描かれたデッサンやマンガあるいはアニメーションによるスケッチでもいい。コンピュータによるバーチャルリアリティ表現であれば、人々は最終的に製品化された製品を使っている自分自身を創造することができ、その製品が建物ならばそこでの暮らしや仕事を思い浮かべることができる。これらの方法によって、多くの時間とお金を浪費する前に迅速なフィードバックを得ることができる。
エリック・リースの「リーンスタートアップ」をご存じの方であれば、これはMVPの考え方と同じであることに気付いただろう。前々回の記事でLTFについて次のように書いた。
LTF(ルック・トゥ・ザ・フューチャー)はリーンスタートアップで提唱されているMVP(Minimum Viable Product:仮説の検証に必要な最低限の機能を持った製品)と同じようにも思えるがLTFはプロダクトではない。MVPもちゃんとした製品やサービスの形をとらなくてもその一部であったり、その機能を表す何か、たとえばペーパーモックやビデオであったりする。LTFは製品やサービスの説明をするものではない。それが提供されたときの人々の生活を表したものだ。そのストーリーを読んでもらい、そこからプロジェクトで狙いをつけた潜在的なニーズを顕在化させる製品やサービスについての気づきやヒントを得ようというのだ。 
D.A.ノーマンがいろいろなプロトタイプの形を示しているが、製品の種類やその企画・開発の段階によってフィードバックを得るための「プロトタイプ」は異なるだろう。あまりMVPとかLTFなどという定義にこだわらず、仮説を検証するためのフィードバックをえるために必要な「何か」を考えていけばよいのだろう。要は、最初のアイデアを盲信してそのまま時間とお金をかけて作り上げてしまうと痛い目をみるよということだ。もちろん、それで成功すればいいのではあるが。
approach

上の図は、いま取り組んでいるプロジェクトにおけるコンセプトデザインのプロセスを示したものだ。そのテーマがなんであるかをここで紹介することはできないが、例えば(前回と同様に)"What"が「1000曲を持ち歩くことができる携帯ミュージックプレイヤー」だとして考えてみる。それまでのCD-Walkmanでは得られなかった新しい未来の体験のストーリーをLTFに描き、それを用いてアンケートを実施することによって、そのコンセプトに対するフィードバックを得たり、顕在化させようとしている潜在的なニーズの可能性を探る。すなわち"What"という仮説について検証を試みる訳だ。その結果の分析から戦略マップを評価し、必要であれば比較の項目やポイントを修正する。もちろん、"What"自体を見直さなければならない事態もあるということも覚悟しておこう。そして、たとえば社内やクライアントや投資家にコンセプトを説明するためであったり、プロジェクトチームでコンセプトを共有しリファレンスとするためなどに必要であればLTFの視覚化を行う。以前のプロジェクトではこんなLTF視覚化(YouTubeでコンセプトビデオの再生が始まり音楽が鳴ります)を行ったが、プロジェクトのメンバーでコンセプトを共有するだけであればここまで作り込む必要はないだろう(自分はどうしてもこんなところに凝ってしまう)。

戦略マップと視覚化したLTFによってモノのデジタルリマスタリングの2まで進んだことになる。
  1. モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
バリュープロポジションとは「提供する価値」ということだが、LTFによって新しい経験価値を描き、戦略マップによってそのユニークさを定義する。この段階では必須ではないが、例えば"1,000 songs in your pocket."(1,000曲をポケットに)のように価値を伝えるためのフレーズ(言語化)を考えるのも楽しい。製品やサービスの名称と一緒に訴求するタグラインやキャッチコピーに使うことになるかもしれないが、まずはプロジェクトのメンバーでコンセプトを共有するのに有効だと思う。

そして、当初から想定していた機能要件に、アンケートからその必要性が導かれた新たな機能を加えて要件マップを作成する。まずは要件の羅列からはじめ、それを機能や実現に必要な技術やインフラ、その難易度や負荷などによってマッピングする。要件マップ自体は定義ではなく検討のためのたたき台になるものであるので、複雑にならないようにいくつかの軸ごとに複数のマップをつくるといいと思う。そこから次に"How"を考える訳だ。注意しなければならないことは、この要件マップは単一の製品やサービスで実現するものではないということだ。モノのデジタルリマスタリングの大前提は「ハード」と「ソフト」と「サービス」の組み合わせによって「新しい経験価値」を創出することだ。そのイメージを抱きながら要件マップを作成する。
lean innovation
上の図は、いま取り組んでいる「新たな(経験)価値創造」のプロセスを示したものだ。リーン・スタートアップの考え方あるいは精神を継承したもので、モノづくりのイノベーションすなわち新たな価値創造のためのリーン・イノベーションのプロセスと呼んでもいいのではないかと思っている。
戦略マップと視覚化したLTFによって新しい経験価値"What"をデザインする。そしてそれを実現するための「ハード」と「ソフト」と「サービス」がどのように役割分担するかによってそれぞれを再定義する。しかし、そのアイデアを盲信してそのまま時間とお金をかけて作り上げてしまうと痛い目をみるとD.A.ノーマンもエリック・リースも言っているのだ。実は、僕はなんども痛い目を見ている。しかし、どうだろう。自信満々のアイデアマンは「自分は違う」と思うのではないだろうか。できれば何度か痛い目をみたほうがいいのではないかとも思うのだが。もっとも、先達の考えたいろいろな方法論を駆使してイノベーションに取り組んだとしても、そうそう簡単に成功するものではない。イノベーションへの取り組みは何度か痛い目を見ることになるだろう。

まず1st Stepとして現行の製品とアプリの組み合わせによる価値提案を行ってみる。もちろんそれだけで、いままでになかった新しい価値を実現することはできない。いわば仮説を検証するためのMVPという位置づけだ。モノのデジタルリマスタリングによって創造しようとする新しい経験価値は、「モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる新しいユーザー体験」であり、それを実現する仕組みとして「ハード」と「ソフト」と「サービス」の役割分担を決めてとりあえずのゴールを描いたものがリーン・イノベーションのプロセスの3rd Stepになる。ここではもっと明確に「新しい製品(モノ)」とWebサービスとアプリとしている。すでにアプリはモバイルファーストで考えるべき時代になっているだろう。「現行の製品とアプリの組み合わせ」は1つの実施例にすぎない。End to Endで新しい経験価値を提供するというGoalに向かって、どのようなステップを踏んでいくかという戦略立案もコンセプトデザインの一環に含めるべきだ。 

iPodの創り方」で使った3つの図で考えてみよう。もちろんAppleが考えていたこととは違う。2001年1月にiTunesが"Lip, Mix, Burn"というキャッチフレーズで発表された。パソコン上の「デジタルミュージックボックス」というコンセプトで、音楽CDを取り込んで(Lip)自分の好きなように音楽を編集し(Mix)、それをCD-Rに焼いて(Burn)持ち運びWalkmanで聞くことができるというものだった。これはリーン・イノベーションのプロセスの1st Stepに相当する。
ipod1
Lean 1st Step

そしてリーン・イノベーションのプロセスに従って続きを書くと次のようになる。

iPod_a2
Lean 2nd Step
 
iPod_a3
Lean 3rd Step (Goal)

しかし、2nd Stepと3rd Stepの順序は実際は逆で、2001年10月にiPodが発売され、2003年4月にiTunes Music Storeが開始された。

ipod2
実際の2nd Step
 
ipod3
実際の3rd Step (Goal)


Appleにとって、 もちろんWalkmanは自社の(現行)製品ではなく、他社の現行製品に破壊的なイノベーションを仕掛ける立場にある。Appleが2nd StepでiPodを発売した意味は2つあると思う。

まず、iTunesというMacのアプリケーションによって、コンピュータ上で音楽を管理するという新しい考え方を市場に提案しその理解を得て、次にそのiTunesと一体化したiPodによって携帯ミュージックプレイヤー市場に参入するというシナリオは自然だ。
そして、それまで音楽のインターネットでの販売と配信に抵抗していたコンテンツホルダーも、iPodによってユーザーを味方に付けたAppleについていくしかなくなるという流れをつくり、End to Endのもう一方にあるiTunes Music Storeの構築に成功した。

すでに携帯ミュージックプレイヤー市場におけるNo.1のブランドとシェアを獲得し、また自社にソニーミュージックという音楽コンテンツプロバイダー事業を抱えるソニーが同じGoalを目指していたしたら、リーン・イノベーションのプロセスに示した順番がよかったかもしれない。もっとも元CEOは当時を振り返って「iPodをつくりたかったけど、自分は工場を持っていたのでつくれなかった」と、まったく違うところを見ていたようだ。ここでは「つくる」という言葉は「創る」のはずであり、「作る」とか「造る」ではないのだが。リーン・イノベーションは、段階的にプロダクトを市場に提供し、そのフィードバックを得て市場とコミュニケーションをしながら、市場と自社事業の両方にイノベーションを起こしてゆくための、Build-Measure-Learnのダイナミックなイテレーションプロセスだ。

そしてその過程でユーザーのコミットメントを獲得してゆくということも重要なポイントだ。AppleにとってのiTunesはMacの価値を高める(デジタルハブ構想)というもうひとつの狙いがあった。もしソニーがiTunesを無償で(もちろんWindowsとMacの両方に)提供していたとするとリーン・イノベーションのStep1として「功利主義マーケティング 」という考え方も可能だっただろう。

まったく新しい経験価値を実現するために再定義した「ハード」と「ソフト」と「サービス」を作り上げていく過程で、どうやってユーザーからのフィードバックを得てゆくのか。ノーマンが列挙したようなプロトタイプ、例えば上手に描かれたデッサンやマンガあるいはアニメーションによるスケッチ、あるいはコンピュータによるバーチャルリアリティ表現などでは、すでに実施したLTFアンケートによって得られた"What"に対するフィードバック以上のものは期待できない。潜在ニーズはありそうだ、コンセプトは受け入れられそうだというだけにすぎない。そして"How"については、ユーザーの思いを積み上げていくプロセスが必要だと思う。別の視点から言えば、それはモノづくり企業がイノベーションに挑戦する過程で、「不確実性」を克服してゆくために必要なプロセスでもある。 そのリーン・イノベーションという考え方についてこんな図を描いてみた。

thinkings

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前回にひき続いて...になるが

D.A.ノーマンのエッセイ"Technology First, Needs Last"に遭遇した時に、その全体の論旨には共感できるものの、なんとなくひっかかる感じがした。"Activity-Centered Design"という彼の提案の発展形あるいはそれを補完する概念として「共感できる」どころか、大賛成なのだが...

というこのブログの原点ともいえる"Technology First, Needs Last"という言葉について、「ノーマンは『技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできない』と言っているのではなかった。 」と書いたが、さらに僕なりの解釈を書いてみようと思う。すでにノーマンを引用するまでもなく、自分の中ではイノベーションについてのイメージが明確になりつつあるが、それも「誰のためのデザイン?」の改訂版の中の次の一文でインスパイアされたものだ。

Technology changes the way we do things, but fundamental needs remain unchanged.

技術は人々が何かをする手段を変えるが、その基本的なニーズは不変だ。 

稚拙な日本語訳だが、この本の中で一番ガツンときた文章だった。
何回かこのブログでiPodによるミュージックプレイヤーのイノベーションを例にして、潜在ニーズの見つけ方について僕のアイデアを説明した。もちろん、そのアイデアは間違っているかもしれない、あるいは万能でない1つの方法論に過ぎないかもしれないが、それはそれとして。

model

この「不変である人々の基本的なニーズ」という言葉。一見、「最初に新しい技術による革新があって、ニーズは後からついてくる」という言葉と矛盾するようだが。ミュージックプレイヤーを例にすると「音楽を聴く、楽しむ」ということが人々の基本的なニーズと考えることができる。そして技術の進化で可能になった新しい製品によって「どこでも音楽を聴きたい」「どこでも自分の選んだ音楽を聴きたい」「どこでもその場で選んだ音楽を聴きたい」といったニーズが製品という実現モデルで次第に顕在化した。「音楽を聴く、楽しむ」という基本的なニーズは変わっていないが、技術によってそれぞれの新しいニーズが後からついてきたといえると思う。もちろん、いったんその製品を手にすると人々は「こういうのが欲しかったんだ。」とか「どうしていままでなかったんだろう。」などと言う。それが顕在化した潜在ニーズだ。

カメラメーカーは、写真産業においてカメラメーカーが提供するバリュー自体を再定義し、それに基づいたバリューネットワークを再構築すべきだ。

この本はT.レビットの没後に、それまで彼がハーバードビジネスレビューに寄稿した論文を"Theodore Levitt on Marketing"としてアンソロジーとしてまとめたもので、日本では2007年11月に有賀裕子氏の訳で「T.レビット マーケティング論」として発売された。

T.レビット マーケティング論
セオドア・レビット
ダイヤモンド社
2007-11-02


他の書籍は人に貸して行方不明になったりしているが、僕がソフトウェアエンジニアから(インターネット)マーケティングを志すきっかけになった論文を集めたこの本はちゃんと机の上にある。
その最初の章の「マーケティング近視眼」の先頭に次のような記述がある。

鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。それらの需要は依然として増え続けている。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体がそうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客を他へ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

「マーケティング近視眼」は2001年11号のダイアモンド社のハーバードビジネスレビューに掲載された論文だが1960年にマッキンゼー賞を受賞している。
「鉄道」と「輸送事業」という二つの言葉を言い換えるだけで、いろいろな事業の衰退を形容することができる。写真の需要は依然として増え続けている。スマートフォンのカメラに顧客を奪われたわけではない。カメラメーカー(事業)が生き残り発展するには、自社の事業をカメラ事業ではなく写真事業として、その提供するバリュー自体を再定義し、それに基づいたバリューネットワークを再構築しなければならない。

いったん鉄道事業のためのバリューネットワークを忘れて、「輸送」という顧客の基本ニーズに立ち戻り、そこからその時点で利用可能な技術やインフラを前提に、その「輸送」というドメインにおける新たなバリューを定義する。そしてそのためのバリューネットワークを再構築する。それが事業のイノベーションだ。鉄道事業の例の場合、経営者はジレンマを感じていたのだろうか。iPodにミュージックプレイヤーの事業を奪われた企業の経営者は「自分は工場を持っていたからiPodを(作りたかったけど)作れなかった。」と言っていた。
日本では若い人の自動車離れが報道されている。自動車は目的なのだろうか。それが手段だとすると目的は何だろうか。再定義したバリューの実現モデルは果たして「自動運転自動車」なんだろうか。

もちろんそれも、デザイン思考で行こう!

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新しい製品やビジネスモデルの変革によって世界を変えるのは技術者だけではない。僕もそう考えている。ノーマンのエッセイ"Technology First, Needs Last"に遭遇した時に、なんとなくひっかかったのは、"The inventors will invent, for that is what inventors do" (発明者は発明をするから発明者なのだ)というところ。確かに新しい製品を「発明する」という言い方は間違っていないと思うし、ジョブズの有名な "Apple is going to reinvent the phone"という言葉もある。ただ、技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできないと言っているのだ。まあ短いエッセーのなかでの彼独特の表現だとは思うが。この秋に有名な著書『誰のためのデザイン?』の全面改訂版"The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition"が出版されるようなので、その中でいろいろ物議をかもした"Activity-Centered Design"などと共に詳しく解説されるかもしれない。

その「誰のためのデザイン?」の改訂版には次のような記述がある。

There are two major forms of product innovation: one follows a natural, slow evolutionary process; the other is achieved through radical new development. In general, people tend to think of innovation as being radical, major changes, whereas the most common and powerful form of it is actually small and incremental.

製品のイノベーションには2つの形がある。その1つは自然なゆっくりとした進化のプロセスによって起こるものであり、もう1つはラディカルな新しい発明によって可能になるものだ。一般に、人々はイノベーションをラディカルで大きな変化と考えがちであるが、もっとも一般的でパワフルなイノベーションは実際には小さくインクリメンタルなものだ。
Incremental innovation starts with existing products and makes them better. Radical innovation starts fresh, often driven by new technologies that make possible new capabilities. 

インクリメンタルイノベーションは既存の製品をもとにそれらをよりよくするという取り組みである。それに対しラディカルイノベーションは何もないところからスタートし、何かを可能にする新しい技術によってドライブされることが多い。
The techniques of human-centered design are appropriate to incremental innovation: they cannot lead to radical innovation.

HCDのデザイン手法はインクリメンタルなイノベーションに適している。ラディカルなイノベーションを導くことはできない。

ノーマンが使っているラジカルイノベーションとインクリメンタルイノベーションという表現は、前回の記事で紹介したクリステンセンの定義とはちょっと異なっている。ラディカルな(製品の)イノベーションは、それまでに存在しなかったものが新しい技術の発明によって生み出されるという意味で使われている。ノーマンは「技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできない」と言っているのではなかった。新しい発明によってそれまでなかった画期的な新しい製品を生み出すことは技術者の役割だということだった。
デザイン思考やHCDのアプローチでのインクリメンタルなイノベーションによっても、画期的な新しい製品やサービスを生み出すことは可能であり、さらにそれはパワフルすなわち世の中を変えることができるものだ。そして技術者でなくともイノベーションを起こすことができると、ノーマンは言っているのだと思う。

前回「カメラのほんとうのイノベーションはこれからだ!」で、カメラメーカーは写真産業においてカメラメーカーが提供するバリュー自体を再定義してバリューネットワークを再構築すべきだと書いた。要はカメラを再発明するということ。iPodもiPhoneもインクリメンタルなイノベーションによる再発明で世界を変えてしまった。ノーマンの次の言葉が大きなヒントになる。

Apple's success was due to its combination of two factors: brilliant design plus support for the entire activity of music enjoyment.

アップルの成功は、素晴らしいデザインと、音楽というエンターテイメントのすべてのアクティビティをサポートしたという2つの要素によるものだ。

デザイン思考もHCDのアプローチもイノベーションの手段にすぎない。ノーマンは、それに取り組む人間の意識の重要性を訴えているように思う。デザイン思考の元祖IDEOのケリー兄弟が書いた本もそういう意識を呼び起こしてくれる。技術者やビジネスマンは読んでおいて損はない。



Radical innovation is what many people seek, for it is big, spectacular form of change.

ラディカルなイノベーションは、その規模の大きさとスペクタクルな構造の変革を起こすが故に多くの人々が捜し求めているものだ。

ノーマンの言う「ラディカルなイノベーションを探し求めている人々」というのは、イノベーションを起こしたいと思っている人々を指している。"The inventors will invent, for that is what inventors do."(発明者は発明をするから発明者なのだ)という言葉にならって次のように言いたい。

イノベーターはイノベーションを起こすからイノベーターなのだ。

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D.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」の改訂版が発売された。



彼のエッセイ"Technology First, Needs Last"と "Human-Centered Design Considered Harmful" とそれに続くいくつかの投稿で提唱された "Activity-Centered Design" がどのように説明されているかが気になって、ざっと読んでみた。
余談だが、最近はKindle版の書籍を購入するようになり自宅ではiPad、外出先ではiPhoneのKindleアプリで読んでいるのだが非常に便利だ。デジタル・マーケティングやイノベーション関連ばかり乱読しているのでどうしても英文の本ばかりになるが、わからない(多くの)単語をタップするだけで和訳が表示されるのでスムースに読み進むことができる。気になるフレーズはマーカーで印をつけておけば、いつでも一覧表示から確認してその部分にジャンプすることもできる。読み進んだデバイスでの最終ページは、もうひとつのデバイスで開いたときに同期をしてくれる。この新しいユーザー体験が、ついAmazonに行って次の本を探したり、O'Reilly Mediaから毎日のように届くお勧めをクリックしてしまう僕の行動を生み出している。

第6章 Design Thinking と第7章 Design in the World of Business は完全に新しく追加されたとなっている。手元にオリジナルバージョンがなく(これも誰かに貸したはずだが)かなり昔に読んだので、その前の章の内容もあまり覚えていなかったが、読んでいるうちになんとなく思い出した。"Activity-Centered Design"は"Human-Centered Design"を否定して取って代わるような考え方としてではなく、"Human-Centered Design"の方法論として説明されているという印象だ。すなわち文化などによって異なる「個人」ではなく、人々の「行動」によってデザインを決めるべきだということ。"ACTIVITY-CENTERED VERSUS HUMAN-CENTERED DESIGN"という見出しの文節もあるのだが、全体を通してHCDの考え方は変わっていないように思う。
Designers first spend time determining what basic, fundamental (root) issue needs to be addressed. They don't try to search for a solution until they have determined the real problem, and even then, instead of solving that problem, they stop to consider a wide range of potential solutions. Only then will they finally converge upon their proposal. This process is called design thinking.

まずデザイナーは、 取り組むべき基本的で本質的な問題が何であるかを特定することに時間を費やす。そのほんとうの問題を特定するまで、その解決策を探すようなことはしない。さらに問題を特定した後でも、すぐにその問題を解決しようとするのではなく、立ち止まって広い視野で可能な解決策を広い視野で考える。そしてようやく自らの提案に集中する。このプロセスを「デザイン思考」と呼ぶ。
そしてHCDをデザイン思考のための強力な2つのツールの1つと位置付けている。もう1つは"The Double-Diamond Model of Design"と呼ばれ、問題の特定プロセスとその解決策を考えるプロセスにおいて、それぞれをいったん発散させて広い視点で客観的に考えてから結論に収束させるというものだ。そしてその2つのプロセスでHCDのデザイン手法
  1. Observation
  2. Idea generation
  3. Prototyping
  4. Testing
を繰り返して正しい結論を導く。この考え方はEric Riesの  "THE LEAN STARTUP"で提唱されているBuild-Measure-Learnの繰り返しによって、仮説としてのビジネスモデルを検証する手法と同じだ。また、そもそもデザイン思考という考え方を生み出したIDEOの"The Art of Innovation"で解説されている試行錯誤型アプローチとも(当然ながら)同じである。
ノーマンはHCDを否定しているのではなく、あまりにもそれを論理的に解釈したデザインやデザインの教育に対して警鐘を鳴らし、よりHuman-Centeredな取り組みをするべきだと訴えているように思える。

全体を通してHCDを実践はデザイナーの仕事として説明されているが、「ビジネスに携わる人がデザイナーをよく理解する必要などない。彼ら自身がデザイナーになる必要があるのだから。」というロジャー・マーティンの言葉で納得することにする。

この本を読んでいくつか気がついたことがある。この後、書いてみようと思っている。

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川手恭輔(Internet Born & Bred)
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D.A.ノーマンのエッセー"Technology First, Needs Last"に遭遇した時に、その全体の論旨には共感できるものの、なんとなくひっかかる感じがした。"Activity-Centered Design"という彼の提案の発展形あるいはそれを補完する概念として「共感できる」どころか、大賛成なのだが...
僕のオフィスの机の上の使わなくなったディスプレイにはこんな言葉をプリントした紙が貼ってある。

デジタルビジネスデザインの進め方
  1. デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する
  2. それによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  3. バリュープロポジションを定義する
  4. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する
これは10年くらい前に(そのころはこれ以外に本や雑誌を読む習慣がなかったので)きっとHBRという雑誌の記事に書いてあったか、もしかすると自分なりの勝手な解釈をして書きとめたのだろうと思う。"Technology First"とは、「デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する」と同じことを指しているのだろうと思う。

なんとなくひっかかったのは、"The inventors will invent, for that is what inventors do" (発明者は発明をするから発明者なのだ)というところ。確かに新しい製品を「発明する」という言い方は間違っていないと思うし、ジョブズの有名な "Apple is going to reinvent the phone"という言葉もある。ただ、技術者でなければ発明はできず画期的な新しい製品も生み出すことはできないと言っているのだ。まあ短いエッセーのなかでの彼独特の表現だとは思うが。この秋に有名な著書『誰のためのデザイン?』の全面改訂版"The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition"が出版されるようなので、その中でいろいろ物議をかもした"Activity-Centered Design"などと共に詳しく解説されるかもしれない。

僕は新しいビジネスは発明するというよりもデザインするものと表現したほうがよいのではないかと考えている。発明するよりもデザインするほうが方法論として議論することも可能になるとも思う。

ビジネスに携わる人がデザイナーをよく理解する必要などない。彼ら自身がデザイナーになる必要があるのだから。 ロジャー・マーティン

そのデザイナーがまずすべきことは、まだ誰も気づいていない「潜在的なニーズ」、ノーマンのエッセー中では"unspoken hidden needs"を見つけだすことだと思う。それはきっとその時に一般的で採用可能な技術では解決できない問題あるいは満たすことができないニーズであって、すべての人々があたりまえのこととして、あるいは無意識のうちにあきらめていることだ。

あるプロジェクトのキックオフミーティングを行った日の夜、サンフランシスコのレストランで食事をしたときに、メンバーの一人の米国人との会話の中で"serendipity"(セレンディピティ)という言葉が話題になった。英語でも造語であるようで日本語で対応する言葉を見つけられないのだが、ウィキペディアによると「何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉」とのことだ。僕が「新しいビジネスを思いつくにはセレンディピティが必要だ」と言ったときに、彼が「実は私も今日、別の場所で同じことを言ったんだ!」と盛り上がった。
  • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の意外な答えを発見する能力
ビジネスのデザイナーにはこのセレンディピティが不可欠だと思う。さらにその前に、「潜在的なニーズ」というものを常に探索し漠然としてであってもそれを自分が解決すべき課題として意識している必要がある。そうでなくては、新しい技術やインフラを見たときに「これだ!」と思いつくことなく他人事としてしかとらえることができないからだ。すなわちビジネスのデザイナーにとって、セレンディビティは必要な能力で、潜在的なニーズを見つけることは最初の仕事である。その2つによって、ジョブズのように誰も思いつかなかった製品をあたかも「発明」したかのように世に送り出すことができるのだ。だから技術者でなくとも発明はできる、ただし技術を理解する力は必要だが。実はディスプレイに貼った「デジタルビジネスデザインの進め方」には、0番として手書きで「だれも気づいていない潜在的なニーズを探索し解決すべき課題を定義する」と付け加えてある。

" The technology will come first, the products second, and then the needs will slowly appear, as new applications become luxuries, then "needs," and finally, essential."

まず技術が最初に来て、次に製品、そして新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化し、最後にそれが必要不可欠なものになる。

この「新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化する」という部分が非常に興味深い。新しい製品がもたらす新しいアプリケーションすなわちユーザー体験は、なかなか市場に受け入れられない。今までになかったもの、さらに誰も気づかなかった潜在ニーズを満たすもの、先進的であるがゆえに、理解されるまでに時間がかかるのは当然と言えば当然のこと。これはiPodが出現したときのことを考えるとわかりやすい。2001年にiPodが「1,000曲の音楽をポケットに...」と発売されてから爆発的なヒットとなるまでに2年以上かかっている。その間に容量が増えたとかWindowsにも対応したとか、いくつかの改善はあったものの基本的なアプリケーションは変わっていない。「アプリケーションが快適になる」とは、人々が新しいユーザー体験に慣れるには時間がかかるということと、アプリケーションが改善されてユーザー体験が快適になるということの2つの意味があるのだと思う。

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