デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

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では、ここまでの人間不在デザインを人間中心デザインに転換しよう。
 
HCDでは、まず解決すべき問題を設定し、ユーザー調査とニーズ分析によってユーザーの行動と感情を理解し、設定した問題の原因やユーザーのニーズを発見してからデザインのコンセプトをまとめる。前回紹介したISOで規定されている「人間中心設計(HCD)プロセス」のステップ(とメソッド)は次のように図示できる。
hcd-step
この場合最初の取り組みは、現在の製品やサービスのユーザーの利用状況の理解と明示ということになる。
Tom Kelleyによる"The Art of Innovation: Success Through Innovation the IDEO Way"の中で、IDEOで実施されているデザイン思考のプロセスの5つのステップにおける「利用状況の理解と明示」に相当する取り組みは次のように説明されている。
現実の生活における人々を観察し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す。
これらのアプローチに対して、ここまでのモノのリマスタリングでは、まず「モノに関する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描くという、ドメインエキスパートや技術者の思い込みによる完全に人間不在の取り組みから始めている。
  1. モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
この最初のステップは、さらに次のように細分化する。
dr-step
「コンテンツ・情報の流れの分析・検討」はすでに説明した。そしてFriskを噛んで新しいユーザー体験のアイデアを思いついたら、そのアイデアを視覚化する。
IDEOデザイン思考のプロセスの3番目のステップは次のように説明されている。
それまでになかった新しいコンセプトとそれを使うであろう顧客を視覚化する。 一部の人々は、このステップを未来を予測することだと考えている。そしてこのプロセスの中で最もブレインストーミングを必要とするフェーズである。視覚化はコンピュータを使った演出やシュミレーションの形式をとることが非常に多いが、IDEOでは毎年数千もの模型やプロトタイプも作成されている。新しい製品のカテゴリーの場合は、合成したキャラクターと、ストーリーボードに図で描いたシナリオを使ってユーザー体験を視覚化したりする。場合によっては、まだ存在しない未来の製品が提供されたときの生活をビデオにしたりもする。
ここではコンセプトを「戦略マップ」と「ユーザーストーリー」によって視覚化する(戦略マップについては次回以降に説明する)。
視覚化することは、プロジェクトチームにおいてコンセプトを共通の理解として共有しやすくするという狙いもあるが、IDEOの場合はコンセプトをクライアントに説明(プレゼン)するためのマテリアルであるとも考えられ、その目的に合った表現方法が採られているようだ。ここではまず、HCDのプロセスの「利用者と組織の要求事項の明示」という2番目のステップで用いられているペルソナ/シナリオ法を用いて「まだ存在しない未来の製品が提供されたときの生活」というユーザーストーリーを文章で描いてみよう。すでに製品の機能のイメージはできているかもしれないが、その機能を説明するのではなく、それによって可能になることを書く。たとえばiPodのクリックホイールを例にすると、「親指で円を描くだけでタイトルをスクロールさせて音楽を探すことができる」というのではなく、「片手だけで1000曲の中から好きな音楽をあっという間に選べる」という感じにだ。あるいは最初はクリックホイールというアイデアがまだないときは、「1000曲を持ち歩けばいつでも好きな音楽が聴ける」でいいかもしれない。
この最初のユーザーストーリーを文章で書く目的のひとつは「新しいユーザー体験を描くことの意義」で書いたように、プロジェクトのメンバーで最初に思いついたアイデアを、シナリオを描く過程での気づきで膨らませたり、いろいろなペルソナやユースケースにおいても価値があるかを確認することだ。

そして、この最初のユーザーストーリー、すなわち「まだ存在しない未来の製品が提供されたときの生活」について書いたストーリーをいろいろな人に読んでもらってコメントをもらう。
問題あるいはニーズには、それを解決する(満たす)モノが現れて初めて顕在化するものがある。それまで潜在的なニーズというものは存在しない。それまでになかった新しいコンセプトの製品(モノ)が現れてから、あたかも潜在していたニーズが顕在化したように見えるだけだ。このようなケースでは、「人間中心設計プロセス」のプロセスの「現在の製品やサービスのユーザーの利用状況の理解と明示」からという取り組みは難しい。
そこで、未来の製品やサービスのユーザーの利用状況を現在の人々に見てもらって、自分の「潜在ニーズ」に気づくかどうか試してみようということだ。以前の記事で「共感アンケート」と言ったが、LTF(ルック・トゥ・ザ・フューチャー)と呼ぶことにした。LTFアンケート、LTFインタビューなどと。
LTF
これはリーンスタートアップで提唱されているMVP(Minimum Viable Product:仮説の検証に必要な最低限の機能を持った製品)と同じようにも思えるがLTFはプロダクトではない。MVPもちゃんとした製品やサービスの形をとらなくてもその一部であったり、その機能を表す何か、たとえばペーパーモックやビデオであったりする。LTFは製品やサービスの説明をするものではない。それが提供されたときの人々の生活を表したものだ。そのストーリーを読んでもらい、そこからプロジェクトで狙いをつけた潜在的なニーズを顕在化させる製品やサービスについての気づきやヒントを得ようというのだ。アンケートやインタビューの方法は、HCDやリーンシリーズの書籍に書かれている方法と同様だ。製品やサービスに対する回答者の質問に答えたり、LTFに書いていない情報を提供したり、アイデアの弁護や誘導を行わないようにする。その人の現在の状況と比較してコメントや感想を自由に書いてもらう。

アンケートを前提にすると、模倣されると困るようなことを書くことはできない。しかし、読み手にとってあまりにも抽象的すぎたり理解しにくいものであると、価値のあるコメントが得られなくなりアンケートの意味がなくなってしまう。
インテルのフューチャリスト(未来研究員)によるSFプロトタイプも「その技術は未来にどのように具体的に用いられ、未来の生活として展開していくかを書く」というLTFと同様のものだが、これは社内の技術者が読むために書かれるので技術やアイデアが外部に漏れることはない。ストーリーを描く前にどのような人たちにアンケートに答えてもらうかも考えなければならない。アンケートのバージョンは「片手だけで1000曲の中から好きな音楽をあっという間に選べる」よりは「1000曲を持ち歩けばいつでも好きな音楽が聴ける」のほうがいいだろう。アンケートに「1000曲から音楽をどう探すんだ?」という疑問が帰ってくるかもしれない。あえて抽象化したつもりのない部分にも、同様の疑問や指摘がされるだろう。それらは、技術的に解決したりUX/UIで挑戦したりしなければならない課題なのかもしれない。どのようなコメントであれ、その奥に潜んでいる人々の思いに共感し、コンセプトや想定している機能などと照らし合わせてみる価値がある。この共感はHCDなどでも言われているように、Sympathy(同情)ではなくEmphathy(感情移入)のほうの意味で、アンケートに答えてくれた人になりきってなぜそのようなコメントをしたのかを考えようということだ。問題やニーズを引き出すためや、提供しようとしている体験に価値を感じるかどうかを知るために、とくにコメントをほしい部分に下線をひいたりしてもいい。しかし、そうでないところに多くのコメントが付いたりもする。
これは、実際にやってみると思った以上に面白いはずだ。

考えている製品やサービスによって、ユーザーストーリーのスケールが異なるだろうが、複数のペルソナについて異なったシナリオを描いたほうがいいだろう。1つの方法だが、4人のペルソナに登場してもらい、新しい製品やザービスの価値を伝えるための起承転結となるストーリー構成を考える。最初のペルソナには「問題提起」をしてもらう。もちろん、未来の世界ではその問題は解決されているのだから、その解決された生活を強調して描いて読み手の現在の生活とのギャップを感じて問題に気づいてもらうようにする。
例えば、なにかのきっかけで聴きたくなった曲をすぐに探して聴いているというシーンを描いて、数枚のCDを持ち歩いている現在とのギャップを感じてもらう。気持ちがすぐに変わってどんどん別の曲を探すなどの状況もいいかもしれない。次のペルソナには、1000曲あるはそれ以上の大量の音楽を持ち歩けることによって可能になる体験をいろいろな角度から描き、ペルソナの感じた気持ちすなわち価値を表現する。「転」では、シャッフルなどの機能をイメージして忘れていた音楽との思いがけない出会い、それによっていろいろなことを思い出して、その頃の曲をたどってしまう。要するにコンテンツ(音楽)自体が持つ価値を新しい製品やサービスで最大化することを考えればいいわけだ。そして最後のペルソナには、新しい体験の世界観を伝えてもらうか、さらにその先の展開を想像させるようなストーリーを語ってもらう。もちろん、誇張したり実現性のないことを描くことがナンセンスであることは言うまでもない。ストーリーのバリエーションがみつからないとしたら、まだそのアイデアは人々に問うところまで考えられていないのかもしれない。
このユーザーストーリーを読んで想像力を働かせた人は「そもそも購入していない曲が聴きたくなったらどうするのか?」とか「そんなにあっても何を聴いていいかわからない」とかのコメントをきっとしてくれる。起承転結の構成にしておくと、最初ネガティブなコメントを描いた人が、読み進んだ後半になって違った印象でコメントしてくれたりもする。その流れからインサイトを読み解くにはちょっと想像力と柔軟性が必要かもしれない。
自分が思いついたアイデアにたいするネガティブなコメントは、たとえば「この読者はターゲットじゃないな」などと自分で言い訳をして解決してしまったり無視してしまったりする。そのアイデアを守ろうとするのではなく育てようとする気持ちが重要だ。すべて、思い込みを気づかせてくれる貴重なコメントかもしれないと考えてみよう。

開発者の思い込みといえば、エリック・リースの「リーンスタートアップ〜思い込みを捨てて、顧客から学ぼう〜」というタイトルを思い出すだろう。上にも書いたように、LTFはそこで提案されているMVPと狙いは同じようなものだ。
さらにIDEOの文章をちょっと書き換えてみると、
未来の生活における人々を観察し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、未来に提供される製品やサービスで満たすべき潜在ニーズがどこにあるかを探し出す。
というように時間が変わっただけ。そして実はHCDのステップと「調査」をするタイミングが変わっただけなのかもしれない。デザイン思考に基づいて考えられたいろいろなメソッドはどんどん活用し応用していこう。

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それはあなた自身だ。
HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)の記事に次のような記述があった。
"The only way out of this innovation gridlock is an expansion in founding team diversity. I believe the missing piece from the DNA in the founding teams of Transformational Companies is now the Domain Expert, who has deep insight into the industry they are trying to disrupt. Without a domain expert attempts at disruption are unimaginative and incremental at best.
There are so many industries ripe for technology startups to disrupt: Education, Health Care, Business, Art and Government just to name a few. But where are the domain experts ready to be paired with a team of rockstar engineers and superstar designers? "

イノベーションの停滞状況から抜け出す唯一の道は、創業者チームの多様性を拡大することだ。私は「変革型企業」の創業者チームのDNAに欠けているものは、彼らが変革を起こそうとしている産業分野に詳しいドメイン・エキスパートであると信じている。ドメイン・エキスパートなしでは変革の企ても想像力に乏しくなり大した成果も期待できない。
教育、ヘルスケア、ビジネス、アート、政府、その他にもテクノロジースタートアップの変革を待っている産業は数多く存在する。しかしロックスター・エンジニアやスーパースター・デザイナーとチームが組めるドメイン・エキスパートはどこにいるのだろうか?
新しい企業が既存の市場に変革を起こすためには“Founder Market Fit”(創業者と市場が適合していること)が必要であり、その創業者チームに必要な人材は時代とともに変わってきている。最初はHPやApple、Microsoftなどのように一人か二人のエンジニアと一人のセールスマンがいればよかったが、現在はデザイン思考などで語られているようにデザイナーの時代になった。しかし、それもすでに市場に適合しなくなっているという。



Tom Kelleyによるこの本の中で、IDEOにおいて実施されているデザイン思考のプロセスの5つのステップが紹介されている。
  1. その市場、クライアント、テクノロジーを理解し、そして与えられた問題に関して認識されている制約事項を理解 する。後でそれらの制約事項に挑戦することもあるが、まずは現状の認識を理解しておくことが重要だ。

  2. 現実の生活における人々を観察し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す。

  3. それまでになかった新しいコンセプトとそれを使うであろう顧客を視覚化する。 一部の人々は、このステップを未来を予測することだと考えている。そしてこのプロセスの中で最もブレインストーミングを必要とするフェーズである。視覚化はコンピュータを使った演出やシュミレーションの形式をとることが非常に多いが、IDEOでは毎年数千もの模型やプロトタイプも作成されている。新しい製品のカテゴリーの場合は、合成したキャラクターと、ストーリーボードに図で描いたシナリオを使ってユーザー体験を視覚化したりする。場合によっては、まだ存在しない未来の製品が提供されたときの生活をビデオにしたりもする。

  4. プロトタイプを評価し洗練することを何回も素早く繰り返す。最初の頃のプロトタイプは変更することになるので、あまり執着しないようにしている。どんなアイデアでも改良しなければ大したものにはならないので一連の改良を加えることを前提としなければならない。社内のチーム、クライアントのチーム、プロジェクトに直接参加していない有識者、ターゲット市場を形成する人々などからのインプットを得るようにする。何が機能して何が機能していないのか、何が人々を戸惑わせているのか、人々はどのように感じているかなどを注意深く観察し、繰り返しの中で徐々に製品を改良してゆく。

  5. 新しいコンセプトを市場に出すために製品化する。このフェーズはしばしば長期間にわたり、開発プロセスの中でも技術的にもっともチャレンジングだ。しかし、IDEOのこれまでのすべての創造的な仕事は、IDEOが持つ製品化を成功させる力への信頼の証しだと信じている。
(原書"The Art of Innovation: Success Through Innovation the IDEO Way"からの訳)
1の「理解」について「市場、クライアント、技術などに関する制約事項を理解する」との解釈が見受けられるが、認識されている制約事項は「与えられた問題に関して」であり、クライアントや技術などの制約事項とするとちょっと意味がおかしくなってしまうように思う。

注意しなければならないのは、このプロセスはあくまでも多くの優秀なエンジニアとインダスリアルデザイナーを擁したIDEOで行われているということだ。心理学、建築学、経営学、言語学、生物学といった分野のバックグランドをもつメンバーも多いそうだ。IDEOはデザイン・コンサルティングファーム(会社)で、多くのクライアントは大企業であり、その経営層からの経営戦略に関わる案件を手掛けている。プロセスの1と5のステップは、それを前提としたものであるが、しかし1から5のすべてのステップとタレントが揃ってこそ、IDEOのこれまでのすべての創造的な仕事という成果をあげることができたのだ。

2008年6月のHarvard Business ReviewでTim Brownが次のように書いている。 
Put simply, design thinking is a discipline that uses the designer's sensibility and methods to match people's needs with what is technologically feasible and what a viable business strategy can convert into customer value and market opportunity.

デザイン思考とは簡単に言えば、採り得る事業戦略によって顧客価値と市場機会に転換することができ、かつ技術的に実現可能である何かを、デザイナーの感性と手法を用いて人々のニーズに調和させる専門分野である。 
IDEOにおいては、インダスリアルデザイナーだけでなく、エンジニアあるいはそれ以外を専門とする人も含めてメンバーのすべてが、この「デザイナーの感性と手法」を備えてえいるということだろう。

IDEOのデザイン思考やそのプロセスは、 広く学ばれ実践されている。その中心にいるスタンフォード大学のデザインスクール「d.school(Institute of Design at Stanford)」 によるテキストの日本語翻訳版「デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド -the d.school bootcamp bootleg-」が一般社団法人デザイン思考研究所から提供されている。そこではデザイン思考の5ステップが次のようになっている。
  1. Empathize:共感
  2. Define:問題定義
  3. Ideate:創造
  4. Prototype:プロトタイプ
  5. Test:テスト
このテキストでは、オリジナルのステップの1(理解)と5(製品化)が消えてしまっている。2(観察)が共感と問題提起に分割され、3(視覚化)が創造となり、4(プロトタイプ)がプロトタイプとテストに分割されている。一見するとオリジナルの1(理解)と共感が対応するように思えるが、1(理解)はコンサルタントから見てのクライアント、すなわち製品やサービスを提供する側の状況を理解するということであり、d.schoolのテキストにおける共感は製品やサービスを利用する人々の気持ちになりきって考えるためのステップである。デザインスクールのカリキュラムやワークショップのテキストとして、その2つが扱いにくいということは理解できるが、この消えてしまった2つはデザイン思考において非常に重要なステップだと思う。
コンサルティングとしてクライアントの経営課題に取り組む場合でも、自社のイノベーションに取り組む場合でも、その会社(自社)の事業の市場や関連するテクノロジーを理解し、そして直面する経営課題に関して認識されている制約事項を理解 することなくしては始まらない。

デザイン思考と人間中心のデザイン(HCD)とはどこが違うのかという質問を受けて、自分もその関係をちゃんと理解していないことに気付いた。イノベーションを起こすための3ステップ・ツールキット〜人間中心デザイン思考:Human-Centered Design Thinking〜 by IDEO.orgという資料が前出の一般社団法人デザイン思考研究所で提供されていることからも混乱してしまう。
実は人間中心のデザインプロセスはISOで規定されている(ISO 13407, JIS X 8530)。 それによると「人間中心設計プロセス」とは「製品(インタラクティブ・システム)のユーザビリティ改善について規定した プロセス規格」とかなり限定されている。そしてそのプロセスのステップ(とメソッド)は、
  1. 利用状況の理解と明示(コンテクスト調査法)
  2. 利用者と組織の要求事項の明示(ペルソナ/シナリオ法)
  3. 設計による解決策の作成(プロトタイプ作成)
  4. 要求事項に対する設計の評価(ユーザビリティ・テスト)
となっている。これはd.schoolのテキストのプロセスと同様だ。「HCDの手法はインクリメンタルなイノベーションに適している。ラディカルなイノベーションを導くことはできない。」とノーマンが言っている。ラディカルなイノベーションのためには、IDEOのオリジナルのデザイン思考のプロセスとそれに取り組むメンバーの高いスキルが必須となる。
勝手な解釈だが、デザイン思考とは考え方"Mindset"でありプロセスは規定していない。ISOで規定されているHCDやd.schoolのテキストのステップやメソッドは、デザイン思考に基づいて、インタラクティブ・システムやそのほかの製品やサービスのユーザビリティ改善のために考えられたプロセスであり、IDEOで用いられているプロセスも同様にデザイン思考に基づいて考えられたプロセスの1つだと考えるとしっくりする。

最初に戻ろう。

ドメイン・エキスパートはあなた自身だ。あなたは、あなたが変革を起こそうとしている自社の属する産業分野に詳しいはずだ。そしてさらに、その産業分野に関連する技術についてもおおよそ把握している。あなたはすでにIDEOのデザイン思考のオリジナルのステップの1(理解)はクリアしている。しかし、これまではあなたの顧客のことをあまり気にしていなかった。あなたがエンジニアであってもビジネスパーソンであっても、IDEOのスタッフのようにデザイン思考の考え方を身につけることによって、あなたはあなたの顧客になりきる(Empathize)ことができるようになる。
たったこれだけのことを言いたかっただけなのだが、例によって引用とその勝手な分析が長くなってしまった。

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前回の約束を違えることになるが、ここでモノのデジタルリマスタリングという考え方を整理しておきたい。「モノのデジタルリマスタリング」という考え方は確立された方法論ではない。他者によって有効性が確認されたものでもない。なにやらなんとか細胞のようだが、整理のためにこれまでの記事からのコピペや書き直しも多くなるがご容赦を。

技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図り、そのアドバンテージを長期間にわたって維持してゆくことが難しい時代になった。そこで、単に製品やサービスの機能ではなく、それを使用することによって得られる「経験価値」に着目すべきだと(ずいぶん前から)いわれている。
「経験価値」に着目したデザインプロセスあるいはイノベーションプロセスとして「デザイン思考」というアプローチがある。これは有名なデザイン・ファームであるIDEO社やスタンフォード大学のデザインスクール「d.school(Institute of Design at Stanford)」において提唱され、広く学ばれ実践されている。簡単にいえば、製品やサービスの提供者からの視点ではなく、顧客の立場から何が問題点なのかを感じて考えるというもので、HCD(人間中心のデザイン)とも共通する考え方だ。そしていずれも「技術者の思い込み」や「技術からの発想」ではなく、そういった教育や仕事の経験を持つデザイナーを中心とした取り組みが前提となっている。もちろん、そのデザイナーが技術者でもあっても構わないが、思考回路は(技術志向ではなく)デザイナーでなければならない。

「技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しい」という状況が、とくに日本の製造業において困難な事態を引き起こしていることは明白だ。イノベーションのジレンマなど、その状況分析や解説は多く行われているにもかかわらず、それを克服するための有効な方法論や実例がない。よくスターバックスがデザイン思考やHCDの取り組みの例としてあげられるが、それ以外の例もショッピングセンターや航空会社やテーマパークなどの流通業やサービス業ばかりだ。「技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しい」という製造業が直面している課題に取り組んだ例ではない。

HCDの提唱者のひとりであり、「誰のためのデザイン?」で有名なD.A.ノーマンはAppleの企業文化を変革したとされているが、ジョブズ復帰と前後してAppleを退社している。その後のジョブズが起こしたiPodから始まるAppleのイノベーションが、ノーマンが残したものとどう関係しているかが非常に興味深い。個人的にはジョブズがそのまま受け入れて利用したとは思えないが。
そのノーマンは「誰のためのデザイン?」の改訂版"The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition"で次のように書いている。
Incremental innovation starts with existing products and makes them better. Radical innovation starts fresh, often driven by new technologies that make possible new capabilities. 

インクリメンタルイノベーションは既存の製品をもとにそれらをよりよくするという取り組みである。それに対しラディカルイノベーションは何もないところからスタートし、何かを可能にする新しい技術によってドライブされることが多い。
The techniques of human-centered design are appropriate to incremental innovation: they cannot lead to radical innovation.

HCDの手法はインクリメンタルなイノベーションに適している。ラディカルなイノベーションを導くことはできない。
ラディカルな(製品の)イノベーションは、それまでに存在しなかったものが新しい技術の発明によって生み出されるという意味で使われている。それまでなかった画期的な新しい製品を生み出すのは技術に依るところだという。 

インターネットが出現するまで、コンスーマ製品をつくる一般的な製造業は造った製品を流通業に販売するだけで、その製品の顧客(ユーザー)との接点はほとんど持っていなかった。接点といえばTVなどのマスメディアを利用した広告などの一方的なものばかりで、双方向性のあるものは困ったときだけ顧客から電話をかけてくるコールセンターぐらいだった。これでは流通業やサービス業のように顧客の経験に関与することができず、自社の提供する製品に関連して顧客が経験する価値を高めることは不可能であり、経験経済の時代に製造業が生き残ることはできないことになる。
しかし、インターネットによって製造業が顧客との接点を持つことが容易になった。インターネットを利用して製品(モノ)に関連するコンテンツやソリューションを提供して顧客との接点を作り、顧客がモノを使う経験に積極的に関与してその価値を最大化することができる。

「モノのデジタルリマスタリング」はデジタルビジネスデザインという考え方からの発展形だ。
  1. デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する
  2. それによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  3. バリュープロポジションを定義する
  4. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
これは十年以上前に本かWebで見つけて以来、自分の仕事の基本にしてきたものなのだが、その出典元を忘れてしまった。この考え方をベースに「デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラ」をインターネットとその周辺の技術やインフラに絞ったものを、ここで「モノのデジタルリマスタリング」と呼んでいる。
  1. インターネットによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品とWebサービスをデザインする 
最初の取り組みは、デジタルリマスタリングの対象となるモノに関連する情報やコンテンツを洗い出すことだ。そのモノを使ってユーザーが何らかの目的を達成する過程を、その情報やコンテンツの流れに着目して観察してみる。その情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描くことから始める。
インターネットで扱えるものはデジタル化されたデータだけだから、「インターネットによって可能になる」ということは、そのデータの新しい扱い方によって可能になることと考えればよい。そこで最初のステップをより具体的にしておきたい。
  1. モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
最後のステップも元に戻した。インターネットとその周辺の技術やインフラとして、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末とそのアプリケーションソフトを考えるべきだと思い直した。

デザイン思考やHCDの取り組みの例として挙げられるスターバックスやショッピングセンターや航空会社やテーマパークなどに共通することは、いずれもがユーザーが訪問し体験する「場所」を提供していることだ。ユーザーはホームページやチェックインカウンターや飛行機の中という「場所」でサービスを体験する。それらのユーザーの体験には始まりと終わりがある。もちろん、ユーザーとの関係性は長く続く(続けたい)ものであるが、ユーザー調査や分析などではカスタマージャーニーマップなどのツール類を使って始点と終点の有る限られた期間の、ユーザーがその場所(サービス)を利用するという行動にフォーカスする。
コーヒーショップやファストフード店でコーヒーを飲んでいる人が、店に入って出てゆくまで、あるいはその前後に少し拡張した期間のユーザーの体験を調査分析し、そこに潜在的なニーズを発見し、それを満たす新たなユーザー体験をデザインする。その2つのユーザー体験の価値の比較は容易にできる。

「モノのデジタルリマスタリング」という考え方に取り組み始めたきっかけは、ノーマンのエッセー"Technology First, Needs Last"の次の一言だ。
" The technology will come first, the products second, and then the needs will slowly appear, as new applications become luxuries, then "needs," and finally, essential."

まず技術が最初に来て、次に製品、そして新しいアプリケーションが快適になるに連れてニーズがゆっくりと顕在化し、最後にそれが必要不可欠なものになる。
問題あるいはニーズは、それを解決する(満たす)モノが現れて初めて顕在化する。それまで潜在的なニーズというものは存在しない。モノが現れてから、あたかも潜在していたニーズが顕在化したように見えるだけだ。
デザイン思考のアプローチ、すなわちまず本当の問題を特定してからその解決策を考えるというアプローチではモノの機能や仕様の改善にしか結びつかない。ラディカルな(モノの)イノベーションを起こすことはできない。「技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しい」という困難な事態を克服するには、それらとは異なったアプローチが必要になる。

しかし、上述の「モノのデジタルリマスタリング」の3つのステップだけでは、デザイン思考が排除しようとする「技術者の思い込み」や「技術からの発想」の落とし穴を回避することはできない。最初のステップで描いた新しいユーザー体験が満たそうとする「潜在的なニーズ」はあくまでも「技術者の思い込み」や「技術からの発想」による仮説にすぎない。間違った仮説に基づいてサービスやモノを創ったら悲惨なことになる。 次のステップに移るまえにデザイン思考やHCDのテクニックを参考にして、この人間不在のアプローチの仮説を人間中心に転換する工夫をしなければならない。

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川手恭輔(Internet Born & Bred)
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デジタルリマスタリングの最初のステップで少し停滞している。じつは進行中のプロジェクトでの取り組みを、iPodやNike+に置き換えてここで書いているものだから、その進捗のスピードが影響している。そのプロジェクトが停滞している訳ではなく、「新しいユーザー体験」と「潜在的なニーズ」ということについて繰り返し考えることに時間を費やしている。
モノに関連する情報やコンテンツをインターネットというインフラとその周辺の技術やサービスで扱うことによって可能になる新しいユーザー体験をいくつも描いてみると、きっと顧客(とあなた)が諦めていたことが見えてくる。その中から、顧客が本当に必要としているユーザー体験を抽出することができるはずだ。(過去記事より)
ここで、もう一度「顧客の諦めの式」を見てみよう。
公式
WalkmanからiPodへの変化をあてはめると次のようになる。もちろん、(いまさらであるが)これは説明のためのものであり実際にはもっと複雑だ。
公式例
式を入れ替えると次のようになる。
公式例変換
新しいユーザー体験とは、「どこででもその場で選んだ音楽を聴くことができる」と「どこでも(あらかじめ選んで持ってきたCDから)自分の選んだ音楽を聴くことができる」との差分であることがわかる。この差分を描けばいいわけだ。
この2つの「こと」の差を価値として感じるかどうかは人や状況によって大きく異なるだろう。誰も価値を感じてくれないとしたら、その潜在的なニーズを具現化できない(あるいはそれを潜在的なニーズとした仮説が間違っている)ことになる。間違った仮説に基づいてサービスやモノを創ったら悲惨なことになる。
「新しいユーザー体験を描く」という作業には実は非常に大きな意味がある。

新しいユーザー体験はペルソナ/シナリオで描く。これはHCD(人間中心デザイン)のアプローチでも用いられているものに似ている。しかし、その目的とアプローチ上の位置づけ(順番)が異なる。
HCDのアプローチでは、
  1. 問題の設定
  2. ユーザー調査とニーズ分析
  3. ペルソナ/シナリオ作成によるコンセプトの抽出
という順番になる。
問題あるいはニーズは、それを解決する(満たす)モノが現れて初めて顕在化する。それまで潜在的なニーズというものは存在しない。モノが現れてから、あたかも潜在していたニーズが顕在化したように見えるだけだ。存在しないものを見つけることは不可能だ。モノのデジタルリマスタリングではデザイン思考のアプローチ、すなわちまず本当の問題を特定してからその解決策を考えるというアプローチは機能しないのだ。サービスデザインと同じ取り組みでは、モノの機能や仕様の改善にしか結びつかない。(過去記事より)
ノーマンの"Technology First, Needs Last"にそそのかされて非常に断定的に書いてしまったが、もちろん僕自身がHCDやサービスデザイン思考のアプローチを否定しているわけではない。
HCDでは、問題設定からインタビューなどのユーザー調査とニーズ分析を行い潜在的なニーズを特定する。それに対し、ここ(モノのデジタルリマスタリング)では、「モノに関連する情報やコンテンツをインターネットというインフラとその周辺の技術やサービスで扱うことによって可能になること」という取り組みから始めている。

以前にも紹介したが、ノーマンの『誰のためのデザイン?』の全面改訂版"The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition"には次のような記述がある。
Incremental innovation starts with existing products and makes them better. Radical innovation starts fresh, often driven by new technologies that make possible new capabilities. 

インクリメンタルイノベーションは既存の製品をもとにそれらをよりよくするという取り組みである。それに対しラディカルイノベーションは何もないところからスタートし、何かを可能にする新しい技術によってドライブされることが多い。
The techniques of human-centered design are appropriate to incremental innovation: they cannot lead to radical innovation.

HCDの手法はインクリメンタルなイノベーションに適している。ラディカルなイノベーションを導くことはできない。
ラディカルな(製品の)イノベーションは、それまでに存在しなかったものが新しい技術の発明によって生み出されるという意味で使われている。それまでなかった画期的な新しい製品を生み出すのは技術に依るところだという。

HCDのアプローチでは、まず解決すべき問題を設定し、ユーザー調査とニーズ分析によってユーザーの行動と感情を理解するところから始まる。そしてターゲットとするユーザー像をペルソナによって明確にし、そのペルソナが製品やサービスを使う様子をシナリオで表現する。この2つのステップを通して、設定した問題の原因やユーザーのニーズを発見してデザインのコンセプトをまとめる。すなわちペルソナ/シナリオは製品やサービスの改善すべきことを浮き彫りにするために用いられることが多い。ノーマンの言うインクリメンタルなイノベーションである。

「どこででもその場で選んだ音楽を聴くことができる」という潜在的なニーズの仮説だけみると、HCDのアプローチでも導くことができそうであるが、これは上でも書いたように説明のために簡略化したものであり、さらに「新しい技術やインフラによって可能になることは」という探索によって、iTunesというデジタルハブやiTunes Music Storeというコンテンツ配信サービスなどの新しい技術寄りのアイデアから導かれたものだ。ここまでは人間不在だ。
ノーマンが言うように「問題あるいはニーズは、それを解決する(満たす)モノが現れて初めて顕在化する」のであるならば、解決するモノが現れるまで、ユーザー調査やニーズ分析を行っても問題やニーズの発見はできないことになる。もちろん、すべての問題やニーズではなく、ラディカルなイノベーションによって解決される問題やニーズを指している。
この人間不在デザインと天才的なひらめきを頼りに、新しい技術やインフラによって実現が可能になる製品やサービスを発明し、人々の潜在的なニーズを顕在化させて大きな成功を得ることが技術者の夢だ。
しかし、数少ない大きな成功の裏側には多くの失敗が累々としている。たとえ天才的なひらめきによるものであっても、その不確実性は確実に存在する。

デザイン思考によって製品(モノ)をデザインすることを、ここではあえてモノの(デジタル)リマスタリングと呼んでいる。それはモノの価値を再定義し、モノが提供する機能的な価値だけでなく、そのモノを購入したユーザーが、そのモノに関連して経験することによって得られる価値にまで視点を拡張してデザインし直すことだ。
新しい技術やインフラによって可能になる新しいモノのアイデアを思いつき、それが人々に大きな価値を提供できると確信しても、まずデジタルリマスタリングのアプローチを試してみる価値はあると思う。
  1. インターネットによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品とWebサービスをデザインする 
iPodの場合はオリジナルのデジタルビジネスデザインのステップの方がフィットするが、新しいユーザー体験を描く」というステップは同じだ。
  1. デジタルコンバージェンスを可能にする技術やインフラを定義する
  2. それによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  3. バリュープロポジションを定義する
  4. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
iPodというハードウェアとiTunesというソフトウェア、iTunes Music Storeというサービスの役割分担を決めるのは最後になる。
「どこででもその場で選んだ音楽を聴くことができる」という潜在的なニーズが満たされるということは、どのような価値が生まれるということなのかをペルソナ/シナリオで描いてみる。 どんな人(ペルソナ)が、どんなときに、どんな場所で、どんな音楽を聴きたくなるか。そしてそのとき、どんなことができたらどんな気持ちになるか。これはHCDのアプローチの場合と異なり、ペルソナが価値を感じるシナリオでなければならない。この時点では、プロジェクトチームの思い入れで構わないので、いろいろなペルソナとシナリオを考えてみる。
異なったペルソナでいろいろなシナリオが書けるだろうか。そのシナリオはペルソナにとって、他では得られない価値のある経験だろうか。きっと書きながらいろいろな疑問や課題が見えて、アイデアを少し客観的に評価することができる。そしてそれだけでなく、新たなアイデアが生まれるかもしれない。きっとターゲットとなるユーザー層やアーリーアダプタも見えてくるに違いない。

次は、ここまでの人間不在デザインを人間中心デザインに転換するための、ペルソナ/シナリオを用いた「共感アンケート」について書こうと思っている。これはリーンスタートアップのMVPという考え方から発想したものだ。

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D.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」の改訂版が発売された。



彼のエッセイ"Technology First, Needs Last"と "Human-Centered Design Considered Harmful" とそれに続くいくつかの投稿で提唱された "Activity-Centered Design" がどのように説明されているかが気になって、ざっと読んでみた。
余談だが、最近はKindle版の書籍を購入するようになり自宅ではiPad、外出先ではiPhoneのKindleアプリで読んでいるのだが非常に便利だ。デジタル・マーケティングやイノベーション関連ばかり乱読しているのでどうしても英文の本ばかりになるが、わからない(多くの)単語をタップするだけで和訳が表示されるのでスムースに読み進むことができる。気になるフレーズはマーカーで印をつけておけば、いつでも一覧表示から確認してその部分にジャンプすることもできる。読み進んだデバイスでの最終ページは、もうひとつのデバイスで開いたときに同期をしてくれる。この新しいユーザー体験が、ついAmazonに行って次の本を探したり、O'Reilly Mediaから毎日のように届くお勧めをクリックしてしまう僕の行動を生み出している。

第6章 Design Thinking と第7章 Design in the World of Business は完全に新しく追加されたとなっている。手元にオリジナルバージョンがなく(これも誰かに貸したはずだが)かなり昔に読んだので、その前の章の内容もあまり覚えていなかったが、読んでいるうちになんとなく思い出した。"Activity-Centered Design"は"Human-Centered Design"を否定して取って代わるような考え方としてではなく、"Human-Centered Design"の方法論として説明されているという印象だ。すなわち文化などによって異なる「個人」ではなく、人々の「行動」によってデザインを決めるべきだということ。"ACTIVITY-CENTERED VERSUS HUMAN-CENTERED DESIGN"という見出しの文節もあるのだが、全体を通してHCDの考え方は変わっていないように思う。
Designers first spend time determining what basic, fundamental (root) issue needs to be addressed. They don't try to search for a solution until they have determined the real problem, and even then, instead of solving that problem, they stop to consider a wide range of potential solutions. Only then will they finally converge upon their proposal. This process is called design thinking.

まずデザイナーは、 取り組むべき基本的で本質的な問題が何であるかを特定することに時間を費やす。そのほんとうの問題を特定するまで、その解決策を探すようなことはしない。さらに問題を特定した後でも、すぐにその問題を解決しようとするのではなく、立ち止まって広い視野で可能な解決策を広い視野で考える。そしてようやく自らの提案に集中する。このプロセスを「デザイン思考」と呼ぶ。
そしてHCDをデザイン思考のための強力な2つのツールの1つと位置付けている。もう1つは"The Double-Diamond Model of Design"と呼ばれ、問題の特定プロセスとその解決策を考えるプロセスにおいて、それぞれをいったん発散させて広い視点で客観的に考えてから結論に収束させるというものだ。そしてその2つのプロセスでHCDのデザイン手法
  1. Observation
  2. Idea generation
  3. Prototyping
  4. Testing
を繰り返して正しい結論を導く。この考え方はEric Riesの  "THE LEAN STARTUP"で提唱されているBuild-Measure-Learnの繰り返しによって、仮説としてのビジネスモデルを検証する手法と同じだ。また、そもそもデザイン思考という考え方を生み出したIDEOの"The Art of Innovation"で解説されている試行錯誤型アプローチとも(当然ながら)同じである。
ノーマンはHCDを否定しているのではなく、あまりにもそれを論理的に解釈したデザインやデザインの教育に対して警鐘を鳴らし、よりHuman-Centeredな取り組みをするべきだと訴えているように思える。

全体を通してHCDを実践はデザイナーの仕事として説明されているが、「ビジネスに携わる人がデザイナーをよく理解する必要などない。彼ら自身がデザイナーになる必要があるのだから。」というロジャー・マーティンの言葉で納得することにする。

この本を読んでいくつか気がついたことがある。この後、書いてみようと思っている。

記事の更新はTwitter (@kyosukek)でお知らせします。お問い合わせやご相談は、contact に @ibornb.red をつけたアドレスまでメールでお寄せください。
川手恭輔(Internet Born & Bred)
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