デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way technology lives.

タグ:IoT

Yahoo!やebayやamazon.comがスタートした1995年をインターネット元年と呼ぶならば、今年はA.I.23年ということになります。A.I.はアフターインターネット、そう呼んでいいほど、現在の世界はインターネットなくして成立しなくなっています。

B.I.17年(西暦1978年)に『マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ』で、アラン・ケイは初めて「パーソナル・コンピュータ」という言葉を使い「将来、マイクロエレクトロニクス・デバイスの容量の増大と、価格の低下によって、コンパクトで強力なハードウェアの登場が促されるだけでなく、人間とコンピュータの対話方法も、質的な変化を被ることになるだろう」と予言しました。

インターネット元年にはWindows95が発売され、Netscapeのバージョン2.0がリリースされました。それからしばらくの間、ブラウザを使ってインターネットのサービスを利用する時代が続きました。そしてA.I.13年にアップルが発売したiPhoneによって、アラン・ケイの予言は「ほぼ」実現されました。iPhoneは「可能なかぎり小さく、持ち運び可能で、人間の感覚機能に迫る量の情報を出し入れできる装置」という、アラン・ケイが構想したダイナブックのモックアップよりもさらに小さい。スマートフォンの登場によって、インターネットのサービスはブラウザからアクセスするのではなく、スマートフォンのアプリを起動して利用するようになりました。 

次のプラットフォームはチャット

昨年、国内のスマートフォンの普及率が50%を超えましたが、その多くのユーザーは、ゲームかチャットアプリでのおしゃべり(チャット)に夢中になっています。これは世界的な傾向のようです。ゲーム以外のスマートフォンのアプリのアクティブユーザー数を見ると、日本ではLINE、中国ではWeChat、韓国ではKakaoTalk、米国を含むその他のほとんどの地域ではFacebookか、Facebook Messengerか、WhatsApp Messengerかがトップになっています。WhatsAppもFacebookが買収した会社で、Facebookが1位の国でもFacebookのどちらかのチャットアプリが2位になっています。(出所:App Annie 2015 Retrospective Report)

アラン・ケイは「人間とコンピュータの対話」といいましたが、すでに「コンピュータ」というものの存在が明確でなくなっています。例えば、チャットをしている人々は友達と会話しているのですが、そこにはいくつものコンピュータやソフトウェアが介在しています。しかし、それらは特別なものではなくなりました。ソフトウェアの進歩によって、人々は「コンピュータとの対話」を意識することなく、いろいろな目的を達成できるようになりつつあります。
platform
私は、すでに多くの人々が日常で利用しているチャットアプリが、インターネットのサービスを提供するための次のプラットフォームに成長すると考えています。IoT(モノのインターネット)やAI(こちらはいわゆる人工知能)などの技術も、そのアプリケーションのための新しいプラットフォームを必要としています。人々は友達と会話するように、サービスと会話するようになります。チャットアプリの上で、人とテキストで会話するソフトウェアはチャットボット(おしゃべりロボット)と呼ばれます。 スマートフォンのスクリーン上のアプリをタップして起動する代わりに、チャットアプリの上で必要なサービスのチャットボットに話しかけます。さらにIoTによってモノがインターネットにつながると、人とモノがチャットアプリの上で会話することも可能になります。

チャットアプリの勝負はこれから

前述したように、すでに多くのチャットアプリが存在します。Wedgeのコラム(リンク)で紹介したInCircleや、Slackといったビジネス用途向けのチャットアプリもあります。さらに、写真や動画で会話するSnapchatやSNOW、そしてグループでビデオチャットするHousepartyなども若者を中心に人気を集めています。

Sanpchatはエフェメラル(短命)、Housepartyはサードプレイス(自宅や職場・学校ではない第3の居心地の良い場所)といったユニークなコンセプトで、まったく新しいコミュニケーションの体験を提供しました。次のプラットフォームとしてのチャットアプリには、まだまだ開拓の余地が残されているようです。しかしそれには、他にないターゲットやユースケース、そしてコンセプトを思いつくことが必要です。 
 
サービスやIoTデバイスのチャットボットとの会話を前提としたチャットアプリには、これからでも開発にチャレンジする価値があると思います。既存のチャットアプリと何が違うのか。それぞれのサービスやIoTデバイスのチャットボットと会話するようになるのか、執事のようなひとりのチャットボットがすべてのサービスやIoTデバイスとのやりとりを仲介してくれるのか。後者のライバルはSiriやGoogle Assistantのような、スマートフォンのOSにバンドルされたソフトウェアエージェントになるでしょう。しかしチャットアプリは、人と人との会話にチャットボットが介在できるという点で差異化が可能です。

もちろん音声認識や自然言語処理といったAI技術によって、サービスやIoTデバイスと(テキストではなく)音声でチャットする可能性も最初から構想に入れておくべきでしょう。スマートフォンがなくても、インターネットにつながったAirPodsのようなデバイスでチャットできるようになれば便利です。スマートウォッチで自分の車に「流星号、応答せよ」などと話しかけます。
HNY

私が(自身)最初のインターネットサービスを立ち上げたのはA.I.3年のこと。A.I.18年には、旅行やパーティーなどの時間を共有した仲間と、その時の写真を持ち寄ってチャットするためのPrintPartyというサービス(コンセプトビデオへのリンク)を西海岸をベースに始めましたが、無駄な試みも多く、いくつかの大きな問題を乗り越えることができず、2年足らずで資金供給がストップされたという苦い経験をしました。その(そして、それ以前のいくつもの)失敗体験を踏まえた新しいチャットサービスを、いつかリブートしたいと思っています。

A.I.23年 元旦 川手恭輔
 

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最近、大きな注目を集めているチャットボットだが、現時点ではコマースやマーケティング関連での活用の話題が多い。しかし、その分野ばかりでチャットボットが増えると、メッセンジャーでプライベートなコミュニケーションを楽しんでいるユーザーにそっぽを向かれてしまうだろう。

まだ誰も気づいていないかもしれないが、チャットボットは一般消費者向け製品のモノのインターネット(IoT)の答えになる。

Wedge Infinityに寄稿しました
チャットボットでモノがしゃべりだす

chatbot2
 
チャットボットとIoTによって、スマホエコノミーのパラダイムが大きく変わる。それは、高い技術力を持ちながら一般消費者向けの最終製品ではなく、その部品を供給するという立場に甘んじてきた日本の製造業にとっても復活のチャンスになる。

しかし、これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 チャットボットなどというソフトウェアは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファームウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。

それでは、せっかくのチャンスも新たなピンチになってしまう。

記事の更新は
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IoTにはすでに多くのモデルが存在するが、それらがごちゃまぜになって語られることが多い。実は、それらのモデルに「インターネットに繋がったモノがデータを収集して交換する」という曖昧なこと以外に共通することはあまりない。解っているようで混乱しやすいIoTを、製造業の視点から整理してみた。

IoTの真髄とは何か?コトづくりへの変革の手段(Wedge Infinity)

技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しいという状況が、とくに日本の製造業において困難な事態を引き起こしている。さらに人々は、製品そのものの機能や品質や価格ではなく、購入した製品を利用することによって、どのような体験(経験価値)が得られるかを重視するようになってきた。「新しい市場への進出や新製品の開発」のためのIoTは、これまで「モノづくり」中心だった日本の製造業が、経験価値を提供する「コトづくり」へ自らを変革することを可能にするモデルだと考えることができる。

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最初に、これは私の勝手な想像だということをお断りしておく。

しかしソラコムは、久しぶりに想像力を掻き立てられるスタートアップだ。IoT(モノのインターネット)のためのモバイル通信サービスを提供するソラコムは、このブログで何度も引用しているマックス・マーマーのスタートアップのブームに対する手厳しい指摘にはあてはまらない。
起業のコストが劇的に下がり、まったく新しい層の起業家が会社を創ろうとしている。「取るに足らない会社」を始めようとする創業者は、10億ドル規模の会社を作ろうと目論む起業家とは違う。そのような創業者は世界を変えたいとは思っていない。彼らは家族を養ったり、車を買ったり、自由を得たりするために必要なお金を稼ぎたいだけなのだ。彼らは、情報経済社会における中小企業の経営者に過ぎない。ただテクノロジーのおかげで、これまでの店舗経営より効率的で収益性が高くなっただけだ。彼らはレストランや美容院を始める代わりに、多くのレストランや美容院で使えるクーポンアプリを作る。

ソラコムの創業者は世界を変えたいと思っている(はずだ)。

ソラコムはAWS(Amazon Web Services, Inc.)のエバンジェリストだった玉川 憲CEOが、2014年11月に設立した(2015年4月にソラコムに商号変更)。玉川CEOは設立まもない段階で異例ともいえる7億円もの資金を調達した理由を、(マックス・マーマーの言うような)中小企業をつくりたいのではなく、大きなリスクを負ってでもIoTの本格的プラットホームをつくる時間を稼ぐために必要だからだと話した。

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NTTドコモなどの携帯キャリア(MNO)のネットワークに接続してデータ通信の帯域を買い、携帯キャリアから貸与されたSIMによって独自の通信サービスを提供する事業者をMVNO(仮想移動通信事業者)という。
MNO

MVNO事業

IoTの端末はスマートフォンに比べて通信するデータ量が非常に小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また端末が通信するタイミングをうまく分散できれば、それほどの帯域も必要なくなる。その分、データ通信の売上高も少なくなるだろう。MVNOの事業にはパケット交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。これまでのような価格以外に付加価値のないスマホ向けの格安SIMを提供するMVNOの形態で、IoTのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。

ソラコムはMVNO事業のデータセンターに必要なパケット交換、帯域制御、会員管理や課金などの機能を、自社で開発したソフトウェアで実現して、2015年9月30日にIoT向けのモバイル通信サービスの提供を開始した。
ソラコム

そのソフトウェアは、MNO(NTTドコモ)のデータ通信ネットワークと接続されたAWSのクラウドサービス上で動く。それによって初期投資や維持費を大幅に削減できただけでなく、ソラコムからSIMを購入して自社製品に組み込む事業者が、そのSIMを自由にコントロールすることができるサービスを提供することが可能になった。

実はソラコムのデータ通信の利用料金自体は、他の格安SIMと比べて、それほど安いとはいえない。例えば、高速データ通信では、ソラコムは上り(端末からの送信)が1Mバイトあたり0.2円〜0.3円、下りが0.2円〜1円であるのに対し、同じようにNTTドコモの回線を利用する楽天モバイルのSIMは、上り下りに関係なく1Mバイトあたり0.23円〜0.29円とさほどの違いはない。低速データ通信の場合は、ソラコム(128kbps)は、1Mバイトあたり上り0.2円〜0.22円で下り0.2円〜0.7円と、高速の場合とあまり差がないのに対し、楽天モバイル(200kbps)は、月額525円で無制限のデータ通信が利用できる。

しかしソラコムの場合、利用料金がすべてのSIMの合計のデータ通信量で計算されるので、IoT事業者は実際に使った分だけを支払えば良い。また、IoT事業者はソラコムのサービスを利用して、SIMの状態やデータ通信量を監視し、SIMごとのデータ通信速度の変更、使用開始/休止といった操作をすることによって、データ通信にかかる費用を最小限に抑えるための努力をすることができる。

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さて、ここからが私の想像(期待)になる。ソラコムの本当の凄さは、サービスをグローバルに拡大するときに発揮されるはずだ。

現在普及しているSIMカードは、1つの携帯キャリアと通信するための情報(通信プロファイル)が書き込まれており、それを変更することはできない。そのため海外向けのIoT製品は、スマートフォンのようにSIMを交換できるようにするか、現地で利用できる携帯キャリアからSIMを購入し、仕向け地ごとに在庫・管理して組み込む必要がある。前者の場合は部品点数の増加、製品の形状の制約や耐久性・防水性についての問題があり、後者については生産の効率性や出荷テストが難しい、生産後に製品の仕向け地が変更できないといった問題が生じる。
現在普及しているSIM

このSIMカードの情報を後から書き換えることができるeSIMと呼ばれる技術が、GSMAという通信キャリアの業界団体で検討され、用途を限定した技術仕様書が策定されている。

eSIMは複数の携帯キャリアの情報を保持することができ、後から追加で書込むことも可能になっている。その1つを有効にして、その携帯キャリアのネットワークを使って通信を行う。それによって単一のeSIMで海外向けの製品の製造および在庫の管理ができるようになり、生産および管理の効率が格段に向上する。
eSIM

NTTドコモは2014年6月から法人向けにeSIMの提供を始めている。NTTドコモはJasper Technologies社のプラットフォームを採用しており、製品にNTTドコモのeSIMを組み込んで海外に輸出するIoT事業者は、このプラットフォームを利用して現地のキャリアへの変更を行い、その回線の開通と停止、利用状況の管理やトラブル診断を行うことができる。

しかし、実際には2015年10月からブラジルの携帯キャリアVivo(Telefonica Brasil S.A.)の利用ができるようになっただけだ。AT&Tをはじめとして、海外の多くの携帯キャリアもJapserのプラットフォームを採用しているので、仕組みとしては大きな問題はないはずだ。NTTドコモのeSIMで利用できる海外の携帯キャリアが増えないのは、まだグローバルに利用できるeSIMのニーズがないということもあるだろうが、携帯キャリア間で通信料金やサポートなどについての調整が難航しているからではないだろうか。

一方で、このeSIMのビジネスモデルは携帯キャリア間の通信プロファイルの交換であり、そこにMVNOが参加することは難しい。 しかし、ソラコムはMVNOのビジネスモデルの延長でeSIMと同様のサービスを実現することができるはずだ。
soracom global
想像図

海外でMVNOとして現地の携帯キャリアのネットワークと接続する場合、ソラコムはAWS上のソフトウェアをコピーするだけでよく、非常に低コストで実現することが可能だろう。IoT事業者は地域に関係なくSIMを一元的に管理して、回線の開通と停止や利用状況の管理をすることができる。

ソラコムがeSIMと同様の機能を持った書き換え可能な独自のSIMを発行するには、携帯電話番号、端末の所在地、顧客の契約状況などの情報を管理するデータベース(HLR/HSS)の独自運用が前提となるが、日本では携帯キャリアがHLR/HSSをMVNOに開放していない。

しかし総務省は、HLR/HSSをMVNOが保有するための加入者管理連携機能について、3月に予定されている改正電気通信事業法の施行に向けて準備中のガイドラインの中で「開放を促進すべき機能」に位置付け、事業者間協議の更なる促進を図るとしている。欧州では携帯キャリアのネットワークの開放が進んでいるので展開も容易だろう。すでにソラコムは、米国のキャリアとの接続についての検討を進めているという。

HLR/HSSは音声サービスのための回線交換網にも接続され、他の携帯キャリアの端末からの着信時などに重要な役割を果たす。その設備の導入には、やはり数億円から数十億円の投資が必要だと言われている。しかしデータ通信のパケット交換網だけに割り切れば、ソフトウェアでHLR/HSSを実現することはソラコムにとってさほど難しいことではないだろう。 

ソラコムは「IoTのためのグローバルなモバイル通信サービスを提供できる唯一のMVNO」という可能性を持っている。ぜひ、日本発のグルーバルなモノのインターネット製品のプラットホームとして、アップルやグーグルのMVNOに対抗できるものになってもらいたいと思う。
 

図ではソラコムが配布している公式アイコンセットを使わせていただいた。
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「さくらのIoT Platform」の発想は「モノがつぶやけばいいのに…」という会話がきっかけで生まれたという。ツィッター上の人々の膨大なつぶやきを解析することによって、様々な事業者にとって価値のある情報を得ることができるようになったように、IoT時代には「モノのつぶやき」が価値を生むのではないかという。
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「さくらのIoT Platform」とは何なのか。その技術面とビジネスモデルの特徴と、目指すビジョンについて考えてみた。

モノがつぶやく さくらインターネットのIoT(Wedge Infinity)

ツィッターで人々が何をつぶやくかは予測できないが、モノがつぶやくことはあらかじめ決められている。データサイエンティストではなく、どのようなデータをどう活かして新たな体験をデザインしていくのかということを考えてデータ自体をデザインするデータデザイナーという役割が必要になると思う。

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日本でもIoT向けのモバイル通信を提供するMVNOが現れ、これから一般消費者向けのIoT製品に取り組むスタートアップも増えるだろう。しかしハードウェア・スタートアップには、ウェブサービスのスタートアップとは違う難しさがある。

2011年5月に、スタンフォード大学を一学期で退学したばかりのマックス・マーマーが中心となって、シリコンバレーの650社以上のスタートアップへのインタービューを基に、スタートアップ企業がどうすれば成功するかを詳しく分析したスタートアップ・ゲノム・レポートが発表された。スタンフォード入学前の18歳のマックス・マーマーに初めて会った「アントレプレナーの教科書」の著者 スティーブ・ブランクは、その聡明さと見識に驚愕したという。

マーマーのグループは追加の調査分析を行い、スタートアップ・コンパスという、KPIに着目したスタートアップ向けの業績評価ツール(ウェブサービス)を開発した。そのツールはスタートアップコンパス社のサイトで利用できる。マーマーはスタートアップコンパス社にライターという肩書きで参加しており、スタートアップ・ゲノム・レポートやその後のレポートも同社のウェブサイトから入手することができる。→リンク

ビッグアイデア

ちょうど2年前に、グーグルがNestというインターネットにつながったサーモスタットと火災報知器のスタートアップを32億ドルという高額で買収したことが大きな話題になった。そして、その年(2014年)の7月にGoProが株式上場を果たすと、ベンチャーキャピタルだけでなくエンジェルと呼ばれる個人大口投資家もハードウェア・スタートアップに注目し始め、それまでウェブサービスが中心だったシリコンバレーのスタートアップのブームが、ハードウェアの分野にも広がり始めた。



3Dプリンターによる新しい試作プロセスの出現や、中国の深センなどのグローバルな製造インフラ(EMS)が、起業まもないスタートアップでも利用できるようになったこともそれを後押しした。
多くのベンチャーキャピタリストは、投資に対するリターンが減って資金が枯渇し始めており、そしてビッグアイデアを追求する起業家の数が減っているように思えると嘆いている。
これはマックス・マーマーが、2012年7月にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した"Reversing the Decline in Big Ideas"(ビッグアイデアの減少に歯止めをかける )の冒頭の言葉だ。 →リンク
起業のコストが劇的に下がり、まったく新しい層の起業家が会社を創ろうとしている。「取るに足らない会社」を始めようとする創業者は、10億ドル規模の会社を作ろうと目論む起業家とは違う。そのような創業者は世界を変えたいとは思っていない。彼らは家族を養ったり、車を買ったり、自由を得たりするために必要なお金を稼ぎたいだけなのだ。彼らは、情報経済社会におけるパパママ企業の経営者に過ぎない。ただテクノロジーのおかげで、これまでの店舗経営より効率的で収益性が高くなっただけだ。彼らはレストランや美容院を始める代わりに、多くのレストランや美容院で使えるクーポンアプリを作る。
シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータの共同創業者のポール・グラハムは、良いアイデアは最初バカげたものに見えると言っている。ほとんどの人がそれが価値があると認識していないアイデアこそが最高だと。しかし、そのバカげたものに見えるアイデアは、実際にバカげていて人々に使ってもらえないものかもしれない。スタートアップの文化では、それを確かめるために早く製品をつくって市場に投入しろといわれる。資金を使い果たす前に、それが実際にバカげているかどうかがわかる。

プロダクト・マーケット・フィット

ウェブサービスとハードウェアビジネスでは、プロダクト・マーケット・フィット、つまり製品を、狙う市場を満足させることができるものに育てるプロセスが大きく異なる。エリック・リースは、著書リーンスタートアップの中で、プロダクト・マーケット・フィットのために、製品をプロトタイプの段階から実際のユーザーに使ってもらって、「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すことが重要だと説いた。
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ウェブサービスに必要なソフトウェアは、まず十万円程度のパソコンがあれば開発できる。そのプロトタイプや、必要な最小限の機能だけを実装したサービスを公開して、実際のユーザーに使ってもらうためには、開発したソフトウェアをインターネットに接続されたサーバー上で動かす必要があるが、こちらも最初は年間数万円から数十万円程度でアマゾンのAWSなどのサービスを利用することができる。確かにウェブサービスの起業コストは劇的に下がった。そして、得られたフィードバックによって改良した製品を公開することも、ウェブサービスであれば毎日でも可能だ。

また、ウェブサービスのビジネスモデルは、サービスの利用が完全に無料であったりフリーミアムであったりする。プロトタイプや、必要な最小限の機能だけを実装したサービスを、多くのユーザーに使ってもらうことも比較的容易だ。

しかしハードウェアのプロトタイプの場合は、限定的なモニターに試してもらうという程度になってしまうだろう。実際のユーザーに使ってもらいフィードバックを得るには、製品を購入してもらわなければならない。イノベーターやアーリーアダプターを想定したものであったとしても、要求される製品の完成度はウェブサービスの場合とは比べものにならない。

iPodやiPhoneの例を見ても、ビッグアイデアのプロダクト・マーケット・フィットには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいだろう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加えて「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返す必要がある。そして徐々に、その価値が人々に理解されていく

時期尚早な規模拡大

ハードウェア・スタートアップにとって、3DプリンターやEMSを利用できるようになったとはいえ、「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すには、会社設立時に集めた数百万円程度のシードマネーだけででは不十分だ。 最初の製品が売れなければ、次のサイクルのための製品を作るための資金を獲得することも難しくなる。
投資家がニッチだと考えていた市場が、考えていたよりも大きかったことに気づくこともある。エアーベッドと朝食を提供するサービス(AirBnB)が、貸別荘などのバケーションレンタル市場やホテル業界を脅かす10億ドル規模の企業に成長すると想像することができただろうか。多くの目利きの投資家も想像することができなかった。 
 スタートアップ・ゲノム・レポートによると、スタートアップが失敗する一番の原因は、時期尚早な規模拡大だったという。顧客、製品、チーム、財務、ビジネスモデルというスタートアップの5つの要素のうち、製品における「時期尚早な規模拡大」は次のように説明されている。
解決しようとする問題と解決策(製品)が合致しているかを検証しないまま製品を作り、プロダクト・マーケット・フィットの前に販売に投資し、たくさんの「なくても良い」機能を追加する 
ビッグアイデアに取り組むハードウェア・スタートアップは「時期尚早な規模拡大」の誘惑と、時間がかかるプロダクト・マーケット・フィットの重要性とのジレンマを克服しなければならない。ハードウェアの場合、初めから誰でもその価値を理解することができる「そこそこのアイデア」で「取るに足らない会社」を始めるスタートアップの割合がさらに増加するだろう。

大企業が学ぶべきこと

スタートアップだけでなく、デジタルコンバージェンス(デジタル化による産業融合)の大きな波に乗り遅れてしまった日本の大手製造業にとっても、IoTは復活の大きなチャンスにちがいない。

「我々は消費者向け製品の分野でもイノベーションを起こしていく」「IoTは大きなビジネスの可能性がある。誰もが驚くような製品を生み出せるのか、各事業部にどういう商品展開が可能か検討してもらっている」ソニーの平井社長がCESの会場でこう話したという(ニュースイッチ→リンク)。

かつてソニーの「社内のスタートアップ」は、ウォークマンというバカげたものを作り出し、そのプロダクト・マーケット・フィットに成功した。再び誰もが驚くような製品を生み出すためには、スタートアップ・ゲノム・レポートが発見した次の事柄を思い出す必要がある。
  • 最も成功しているスタートアップは少なくとも一度ピボットしている(ピボットとは、スタートアップが、そのビジネスの主要な部分を変更すること)が、大企業は「社内のスタートアップ」に対してピボットを許さない傾向にある。
  • 異なったタイプの市場や製品には異なったタイプの創業者やリソースが必要だが、大企業はその本業から学んだことを、イノベーションの取り組みに反映しようとして失敗を招く。
  • スタートアップが失敗する一番の原因は時期尚早な規模拡大だが、大企業は「社内のスタートアップ」に対して早すぎる規模拡大を強いる傾向にある。
  • 迷走するスタートアップは顧客が自分たちの製品を欲しがっていると証明することに躍起になるが、成長するスタートアップは顧客の発見に注力する。大企業は最初の市場調査だけで実行に入り、発見と検証という2つの重要な段階を忘れる。
  • 収益は検証の重要な指標だが、スタートアップがそれに固執しすぎると、機会を見逃したり成長につながらないことを始めたりする。大企業は新しい製品やサービスの重要な提供価値ではなく、収益にフォーカスする傾向にある。
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「2016年はIoTのためのMVNOが加速するか」という記事で予告した月刊Wedge2016年1月号の記事は、次のように結んだ。
うがった見方をすれば 、アップルの狙いはeSIMを提供することによって、3rdパーティのiPhoneやiPadのアプリだけでなく、ハードウェアまでもそのエコシステムに組み込もうとしているのではないかと考えることもできる。いろいろなモノにアップルのeSIMが組み込まれてインターネットにつながる。
人々はiPhoneやiPadを使って、モノからの情報を受け取ったりモノに指示を与えたりする。アップルは、そんな世界を創ろうとしているのではないだろうか。このまま日本のモバイル通信がガラパゴス状態から抜け出せないと、IoT時代のエコシステムもアップルに抑えられてしまいかねない。
7月16日のフィナンシャルタイムスは、「アップルとサムスンは、eSIMカードを製品化するために、移動通信の業界団体(GSMA)に参加する話し合いを最終段階に向けて進めている」と報じた。それをうがって見てみたのは、「モノのインターネットの通信は金にならない」からだ。
スマホ向けの格安SIMを提供するMVNOが、(例えば)NTTドコモに支払うXi(LTE)サービスの2014年度の接続料は、10Mbpsという帯域について月額945,059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに94,505円増加する。もちろんMVNOにとっては、10Mbpsという帯域ではビジネスにならない。その数倍、数十倍の帯域を調達して、多くの顧客を獲得しなければならない。

それに対しIoT端末は、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また、通信の時間をうまく分散できれば、それほどの帯域は必要ない。

例えば、128kbpsの低速で、1回の通信で50文字(半角)のテキストデータ、例えばGPSによる位置情報などをクラウドに送信するIoT端末を考えてみる。単純に10Mbpsを128kbpsで割れば、同時に78台のIoT端末が128kbpsで接続可能だ。128kbpsで50文字(400ビット)を送信する時間は1/320秒なので、1秒を320台で分割すれば合計25000台のIoT端末が通信することができる。

さらに乱暴な計算を続けると、それぞれの端末が1分間に1回の頻度で通信する必要があるケースであれば、10Mbpsの帯域で150万台のIoT端末に通信サービスが提供できることになる。
このような(乱暴な計算の)例の場合、100万円程度で調達した通信を150万台のIoT端末向けに販売するならば、その調達価格は1台あたり月額1円にも満たない。MVNO事業には通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。

これまでのMVNOの形態で、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。
アップルがIoT向けのMVNOに乗り出す?

しかしアップルには、その「金にならないモノのインターネットの通信」に参入する戦略的な意味がある。
ジョブズといえども、iPhoneに匹敵するような大成功をもたらす革新的な製品を、また「発明」することは容易なことではなかっただろう。クックが、スマートフォンの市場を拡大して、iPhoneのシェアをさらに増やすことを最も優先すべきだと考えるのは自然なことだ。iPhoneで得られる経験価値をさらに向上させ、iPhoneでなければならない理由をつくる。

WWDCで発表されて大きな話題を呼んだ定額の音楽ストリーミング配信サービス(Apple Music)も、その戦略の一環だと考えることができる。App StoreやiTunes Storeなどで販売される音楽やアプリなどの売り上げは全体の1割にも満たない。しかし、それらのサービスなくしてはiPhoneのビジネスが成り立たないことは明白だ。Apple Musicから得られる利益も、Appleにとって重要なものではないだろう。元々、Appleとしては利益を度外視しているのではないかと思われるほどの、競合他社に圧倒的な差をつけるための価格設定を狙っていたようだ。

Apple Watchも、そのような視点からAppleにおける、その戦略的な位置づけを考えることができるのではないだろうか。Apple Watchを購入すると「iPhoneでなければならない理由」ができ、その顧客はAndroidへの乗り換えを躊躇する。Apple MusicやApple Watchが、少しずつ人々の生活を変えればいい。それによってiPhoneが、さらに人々の生活になくてはならないものになっていく。
すでにアップルは昨年10月から、ユーザが購入後に携帯通信キャリアとデータプランを選ぶことができる独自のApple SIMが付属したiPadを販売しているが、アップルがモバイル通信サービスを提供しているわけではない。しかしアップルが(例によって半ば強引に)世界各地の携帯キャリアと接続し、MVNOとして「モノのインターネットの通信」を、「インターネットにつながったモノ」をつくろうとする企業に提供することは十分に考えられる。

一般消費者向けの「インターネットにつながったモノ」のビジネスモデルにおいて、その通信をどのように提供するかということは大きな課題だ。モノを購入した後で、携帯キャリアやMVNOからSIMを購入して月々の利用契約をしなければならないとしたら非常に面倒だろう。

「インターネットにつながったモノ」を購入する。そのモノと連携するiPhoneのアプリをApp Storeからダウンロードする。そのサービスを利用するには、アプリの利用料金を支払う必要があるが、それにはモノの通信料金が含まれている。ユーザは通信料金を払うのではなく、モノとサービスを利用することで得られる「新しい体験」に対価を支払う。いろいろなモノにアップルのeSIMが組み込まれてインターネットにつながる。それがiPhoneで得られる経験価値をさらに向上させ、iPhoneでなければならない理由をつくる。

米テスラ・モーターズの電気自動車「モデルS」はインターネットにつながっており、スマートフォンのアプリを使って離れた場所から管理・操作することができる。航続可能な距離や充電状況を確認したり、充電完了の通知を受け取ったり、遠隔操作でルーフの開閉や空調のコントロールをしたり、駐車した場所をGPSによって確認したりすることができる。日本ではNTTドコモのSIMが搭載されているが、テスラのオーナーはドコモにもテスラにも通信料金を支払う必要はない。1,000万円もするモノであれば、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないIoT端末の通信料金のコストを、端末本体の価格に算入してしまうことが可能になる。

米国で販売されているサムスンのスマートウォッチGalaxy Gear S2には、eSIMが内蔵(エンベッド)されたモデルがある。その3G/4Gに対応したモデルは、AT&T、Verizon、T-Mobileのいずれかのキャリアから購入し、同時にモバイル通信プランを契約する必要がある。例えばAT&Tで購入する場合は、複数の端末で5Gバイトのデータ通信と無制限の音声通話が利用できるモバイル・シェアというプランが月額50ドルになる。これはスマートフォンとGalaxy Gear S2で一つの契約を共有することなどを想定している。別々に購入したスマートフォンとGalaxy Gear S2をペアリングすれば、スマートフォンを持っていないときでも、Galaxy Gear S2で電話をかけたり、メッセージやeメールを送ったり、スマートフォンへの着信通知を受け取ったりすることができる。T-Mobleで購入する場合は、2年縛りで月額15ドルのモバイル通信料金と15ドルのGalaxy Gear S2の割賦料金というプランがあるが、スマートフォンの契約があればモバイル通信の追加料金は5ドルになる。

一般消費者向けのIoT製品の勝負はこれから

日本の製造業から、一般消費者向けのイノベーティブな製品が生み出されなくなって久しい。スマホエコノミーにおいても、その存在感は希薄になってしまった。
スマホエコノミーのスマートフォンの部品のレイヤーには、村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサー)、日本電産(振動モーター)、アルプス電気(オートフォーカスと手振れ補正用アクチュエーター)などの、高い技術力を持った日本のメーカーがいる。皮肉なことに、スマートフォン事業が低迷するソニーも、イメージセンサーを他のセットメーカーに提供する事業は好調だ。
しかし、テスラにしてもサムスンにしても「インターネットにつながったモノ」で可能になることは、まだ「新しい体験」と言えるほどのことではない。"nice to have"かもしれないが"must have"なものではないだろう(まあ、なくても良いものだと思う)。テスラの場合は、その通信料金をユーザが意識することがないので「おまけ」と考えることもできるが、サムスンの場合はビジネスモデルを含めてまだまだ試行錯誤の段階だろう。一般消費者向けのIoT製品の勝負はこれからだ。日本の製造業にとっても反転攻勢に出る大きなチャンスと言える。

2014年10月にパナソニックは、企業向けのMVNOに参入すると発表した。同社は2007年にhi-hoというプロバイダー事業から撤退したが、2013年にスマートフォン向けのWonderlinkというブランドの格安SIMの通信ビジネスに再参入した。これはMVNOではあるが、「通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数十億円かかる設備」を保有するMVNEと呼ばれる他社(富士通とIIJ)のソリューションを利用したものだ。新しい企業向けのMVNO事業は、これらの設備を自社で保有して「お客様の用途に合わせたフレキシブルな無線通信サービスプラン提供を実現し、当社の無線対応機器および保守・運用サービスと組み合わせ、ハードから通信回線・運用まで一気通貫のワンストップソリューションとして企業向けに提案」するという。

言うまでもなく、パナソニックは多くの一般消費者向けの製品をつくる日本を代表する製造業だ。「金にならないモノのインターネットの通信」を事業として考えるよりも、せっかくの自前のMVNOを武器として活用し、自社の製品をIoT化することによって「新しい体験」の価値を創造することにチャレンジして欲しいと思う。
製造業のイノベーション戦略を考えるには、製品と市場という軸を、それぞれの上位概念である技術とドメインという軸で表すとわかりやすい。,魯▲鵐哨佞水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。
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この,「インターネットにつながったモノ」であり、それに必要な「新技術」とは、モノをインターネットにつなげるためのモバイル通信や、モノと通信するクラウド上のサービスや、そのサービスを経由してモノから情報を受け取ったり指示を与えるためのスマートフォンのアプリに関する技術だ。
これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファーム・ウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。自社の事業にとっての、スマートフォンのアプリの重要性など想像もつかない。これは、IoT時代を生き抜こうとする製造業にとって致命的な問題だ。
パナソニックの企業向けMVNOは、パナソニックAVCネットワークスという別会社の事業のようだが、製品事業部との壁は他企業との壁よりも厚いのかもしれない。その壁を壊すことが、「アプリの力」以上に必要なことだろう。

「2016年はIoTのためのMVNOが加速するか」という問いについては、「モノのインターネットのための通信は金にならない」ので「これまでのMVNOの形態で、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい」だろうと答える。しかし、一般消費者向けの製品をつくる製造業において、「インターネットにつながったモノ」をつくるためのバリューネットワークとしてのMVNOを水平統合するという戦略は検討する価値があるのではないだろうか。

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9月末にWedge Infinityにスマホエコノミーを読み解くという記事を寄稿してから、しばらくIoTのためのモバイル通信について考えてきた。

スマホエコノミーを形成する事業領域は、スマートフォンなどの端末とクラウド、そしてその間を取り持つ通信の3つに分類することができ、それぞれが大きく3つのレイヤーを持つ。例えば、スマホエコノミーの覇者となったアップルの事業領域は次のようになる。

apple
アップルの事業領域
アップルは、新しい技術を部品として世界中から調達し、それをOSとアプリによってユーザーが体験できる価値に変換する。例えば、iPhone6sの3D Touchと呼ばれる新しい操作方法では、指でディスプレイを押したときに、その圧力の大きさによって指にかすかな振動が返ってくる。この機能は、それぞれ別の部品メーカーの、感圧センサーと振動モーターを組み合わせて実現されている。
さらに、アップルはiCloudというiOSと連携したクラウドサービスを提供している。 iCloudを利用すると、アップルが提供するアプリのデータや写真や音楽のバックアップや、iPhoneやMacなどのアップルの端末間での同期を自動的に行うことができる。
アップルは、OSとアプリそしてクラウドサービスを自社で提供することによって、最大の収益源であるiPhoneに、他にない価値を付加することに成功している。 
(スマホエコノミーを読み解く) 
スマホエコノミーでは、人々は常にインターネットにつながったハンドヘルドのコンピュータを携帯し、ニュースや音楽や動画やゲームなどのコンテンツを消費するようになった。そしてソーシャルネットを利用して、友人や家族や見知らぬ人と頻繁にコミュニケーションを行っている。

H2H
スマホエコノミーのモデル

人々が常にインターネットにつながったスマホエコノミーでは、IoTすなわちモノがインターネットにつながるということによってヒトとモノがつながる。
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ヒトとモノがつながる
スマホでないものを、それがハードウェアでなければならない理由を明確にし、そしてクラウドにつなげて関連する情報やコンテンツをクラウドと交換する。人々が常に携帯しているスクリーンを備えたスマートフォンで、そのハードウェアや情報をコントロールすることができるようになる。スマホエコノミーの顧客に、これまでになかった新しい体験を提供できる環境が整ってきたのではないだろうか。
(スマホエコノミーを読み解く)
モノをインターネットにつなげるための通信手段は、有線・無線のLANや、ブルーツゥースなどの近距離無線でスマートフォンを介した接続も考えられるが、いつでもどこででもつながるモバイル(携帯)通信が最適だ。

携帯キャリアのネットワークと接続し、スマートフォン向けの格安SIMを販売するMVNOと呼ばれる通信事業者は、交換機や課金・認証のための設備などを保有し、さらにその運用や保守も自社で行っている。MVNOは携帯キャリアからデータ通信を帯域という単位で購入するが、SIMのエンドユーザーには、例えば「月に2Gバイトまでの通信ができるサービスが3000円」というようにデータ量で販売している。しかし、このスマートフォン向けの通信の料金プランは、データ量が非常に大きいコンテンツを利用することを前提にして設定されていて、実際にそこまで使わなくても定額の料金を支払わなければならない。通信するデータ量が小さくそのスピードも遅くて構わないIoTでは、このモデルは使いにくい。

2015年10月にIoT向けのMVNO事業を開始したソラコムというスタートアップ(ベンチャー企業)は、MVNO事業のデータセンターに必要な機能を、自社で開発したソフトウェアで実現してしまった。それによって初期投資や維持費を大幅に削減できたという。ソラコムのSIMを使えば、1日10円のSIMごとの基本料以外は1メガバイトあたり0.2円から1円の課金となるが、すべてのSIMの合計のデータ通信量で計算される(SIMごとの1メガバイト以下の未使用分も無駄にならない)ので、事業者は実際に使った分だけを支払えば良い。
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デジタルリマスタリングのプラットホーム

これで、このブログで日本の製造業のイノベーションの1つの手段として提案してきた「モノのデジタルリマスタリング」のためのプラットホームがすべて揃ったことになる。(AWSはアマゾンが提供するクラウドプラットホーム)
インターネットが出現するまで、コンスーマ製品をつくる一般的な製造業は造った製品を流通業に販売するだけで、その製品の顧客(ユーザ)との接点はほとんど持っていなかった。接点といえばTVなどのマスメディアを利用した広告などの一方的なものばかりで、双方向性のあるものは困ったときだけ顧客から電話をかけてくるコールセンターぐらいだった。これでは流通業やサービス業のように顧客の経験に関与することができず、自社の提供する製品に関連して顧客が経験する価値を高めることは不可能であり、経験経済の時代に製造業が生き残ることはできないことになる。
しかし、インターネットによって製造業が顧客との接点を持つことが容易になった。インターネットを利用し、製品(モノ)に関連するコンテンツやソリューションを提供して顧客との接点を作り、顧客がモノを使う経験に積極的に関与してその価値を最大化することができる。
デジタルリマスタリングの3つのステップ 
  1. モノに関連する情報やコンテンツをスマートフォンで扱うことによって可能になる「新しいユーザ体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
2014年3月の記事では、1は「インターネットで扱う」だったが、現在のスマホエコノミーにおいてはスマートフォンに置き換えた方がわかりやすいだろう。

米テスラ・モーターズの電気自動車「モデルS」はモバイル通信(SIM)によって常時インターネットにつながっており、スマートフォンのアプリを使って離れた場所から管理・操作することができる。航続可能な距離や充電状況を確認したり、充電完了の通知を受け取ったり、遠隔操作でルーフの開閉や空調のコントロールをしたり、駐車した場所をGPSによって確認したりすることができる。テスラはヒトとつながっている。しかし、それで可能になったことは、あまり「新しいユーザ体験」とは言い難い。あればいい(nice to have)が、なくてはならない(must have)ことではないだろう。

「ヒトとモノがつながる」IoTのためのプラットホームは(一応)揃った。あとは、人々の生活になくてはならないものになる「新しいユーザ体験」を描けばいいだけになった。 

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9月の経済財政諮問会議における携帯電話の料金に関する安倍晋三首相の発言を受けて、利用者の負担を減らす方策を話し合うために10月に発足した総務省主催の有識者会は、4回の会合を経て、端末の「実質0円」や販売価格を超える「キャッシュバック」そして系列販売店に払う「販売奨励金」の制限などを盛りこむ方向で提言をまとめ、それを受けて高市早苗総務相が12月18日に料金の引き下げ策を公表するという。(10日 朝日新聞デジタル

この提言とは別の動きとして、高市早苗総務相が第4回の有識者会議で、「MVNOサービスの低廉化につながるように、加入者管理機能の開放についての事業者間協議のさらなる促進を図るということで、パブリックコメントを行いたい」との方針を示した。加入者管理機能の開放とは、MVNOが、電話番号と端末識別番号、所在地情報等を管理するデータベース(HLR/HSS)の独自運用や電話番号の発行ができるようにすることを意味する。
総務省は、「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の改定案のうち、「開放を促進すべき機能」に関して、「ICTサービス安心・安全研究会 携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」における議論を踏まえ、「開放を促進すべき機能」(案)を作成いたしました。
 つきましては、同案について、本年11月28日(土)から同年12月25日(金)までの間、意見を募集します。
「開放を促進すべき機能」とは、アンバンドル機能(接続料を設定すべき機能)に該当しない機能でも、一定の要件を満たす場合は、接続又は卸役務による提供が望ましいため、事業者間協議の更なる促進を図るものとして定める機能のこととされ、以下の5項目が挙げられている。
  1. 料金情報提供機能
  2. 携帯電話のEメール転送機能
  3. パケット着信機能
  4. 端末情報提供機能
  5. HLR/HSS連携機能
このガイドラインは、5月22日に公布された「電気通信事業法等の一部を改正する法律(平成27年法律第26号)」の施行(1年以内)までに整備しなければならない省令やガイドラインの一つになる。

現在、MVNOが独自の料金プランを設定できるのは、自社設備を携帯キャリアのネットワークに接続したデータ通信についてだけだ。通話料金については、電話回線ネットワークとHLR/HSSを保有する携帯キャリアから、通話料に応じた従量制の料金プランしか提供されていない。そのためMVNOは、携帯キャリアのような家族割りや定額プランを提供することができない。

mvno
HLR/HSS連携機能の開放が実現すれば、MVNOが独自の音声通話割引サービスを提供したりするなどの自由度が拡大するだけでなく、MVNOが海外のキャリアに対応した独自のSIMを発行したり、複数のキャリアのネットワークを使い分けたりするサービスが可能となるという。

この有識者会議の目的は携帯通信料金を下げることであり、会議でもIoTについてはほとんど議論されていない。しかし、HLR/HSS連携機能が開放されることによって、MVNOが独自のSIMを発行できるようになることは、日本のIoT関連事業にとって大きな意味を持つ。

続きは少し先になるが、12月20日頃発売の月刊Wedge 2016年1月号のWedge Reportで。MVNOのフロンティアである日本通信の福田社長と、注目が集まるクラウドMVNOのソラコムの玉川社長にもお話をお伺いした。

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IoTのためのモバイル通信サービスは誰が提供するのか?

今後、一般消費者が購入するスマートフォン以外の製品(モノ)もインターネットにつながり、クラウド上のサービスと連携することによって、人々に新しい価値を提供するようになるだろう。しかし、そのためのモバイル通信サービスはまだない。それは技術的な障害があるからではない。

例えば、身の回りのいろいろな製品がIoT化されていくと、それぞれの通信料金はどのようになるだろうか。IoT製品ごとに、スマートフォンと同じような契約が必要になるとしたらとても面倒だ。昨年10月にApple SIMが付属したiPadを発売したAppleや、Project FiというMVNO事業を始めたGoogleは、そのような世界において、通信レイヤーを人々に意識させない(隠蔽する)ことを考えているのではないだろうか。

モバイル通信レイヤーのプラットフォーマーとして、腕時計やメガネや鍵や自転車などのIoTに、誰が新しいNVNOを提供するのか。

「モバイルによる我が国創生」格安SIMは本命ではない(Wedge Infinity)
 
IoTというと、モノ(端末)の議論ばかりになりがちで、それは目に見えるものでメディア受けもいい。しかし、IoTの時代の勝者は端末を提供する者ではなく、新たなプラットフォーマーに違いない。

ここでの問題提起は、自分なりの答えを考えた上でするようにしているが、このコンスーマIoTのためのモバイル通信プラットフォーマーは、そのモデルや誰がなすべきかについては、まだあやふやで答え(提案)を用意できていない。 

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