デザイン思考で行こう!

Life will find a way, we'll find a way Technology lives.

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前回(シーズ起点のデザイン思考の始め方)、シーズ起点で考えた革新的な技術によって実現が可能になる画期的なアイデアから「釘を探すハンマー(ニーズを顕在化できない製品)」をつくってしまわないために、機能領域から顧客領域に遡上して、そのアイデアが解決しようとしている問題やニーズを明確に定義する必要があると書きました。今回はiPodを例にして、そのプロセスをたどってみます。

デジタルという技術革新があった         

アップルは2001年1月にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポでiTunesを発表しました。このときジョブズは同時にデジタルハブという構想も披露し、「Macは浸透しつつあるデジタルライフスタイルにおけるデジタルハブとなって、いろいろなデジタルデバイスに素晴らしい価値を与えるだろう」と言いました。音楽に関していえば、この時点ではまだiPodは存在しておらず、CDから音楽をMacにコピーしてiTunesで管理し、曲を編集したプレイリストをCD-Rに焼き付けてCDウォークマンで楽しむという提案でした。
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その頃、人々は外で音楽を聴くためには、購入したCDの中から自分が選んだ数枚を持っていかなければなりませんでした(アメリカではMDは普及しませんでした)。音楽がデジタル化されても、そのメディアがレコードやテープからCDやMDに変わっただけで、ウォークマンがCDウォークマンやMDウォークマンになっても、その顧客の体験に大きな変化をもたらすことはありませんでした。デジタルが「イノベーションを起こすためには、ラディカル(不連続)な技術革新が必要だ」というノーマンの言葉にあるラディカルな技術革新であったにも関わらず、音楽ビジネスの分野にはまだイノベーションは起きていませんでした。

すでに1999年にはラスベガスのコンピュータ関連の展示会で、ソニーがメモリースティックウォークマンを発表しており、それ以前にもシリコンメモリーを使った携帯型音楽プレーヤーが発売されていました。しかし使用するメモリーの容量では1〜2枚のCDの音楽を格納することしかできず、CDに加えて新しいメディアの管理という余計な作業も増える結果になっていました。特にメモリースティックウォークマンで使用するMagicGateメモリースティックは価格も高く、ほんの数枚のメモリースティックを使い回さなければならないという状況でした。

技術シーズからの発想

「ポケットに1,000曲」というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのは2001年の10月になります。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を発表したとき、すでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずです。
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Design Crazy: Good Looks, Hot Tempers, and True Genius at Apple [Kindle版]に、発売後のiPodの販売が伸び悩んでいるときに、周囲がiTunesをWindowsにも展開すべきだとジョブズに進言したときの興味深いエピソードが紹介されています。
我々は、WindowsにiTunesを提供することについてスティーブと多くの議論をしたが、最終的にフィルと私は「(あなたが反対しても)我々はやりますよ」と言った。スティーブは「くそったれ!好きなようにするがいいさ、責任はとれよ!」といって部屋から飛び出していってしまった。
iTunesは、ジョブズが2000年にCEOに復帰した直後にアップルがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、アップルに移籍したその開発者たちが開発したそうです。きっとジョブズはSound Jam MPを見たとき、「これはMacの価値を向上させるために使えそうだ」と思ったのでしょう。赤字を垂れ流していたアップルのCEOに復帰したばかりのジョブズにとって、Macの価値を最大化して販売を伸ばすことが最大の課題だったはずです。それは製造業のイノベーション戦略マトリックスに示した、,凌靴靴さ蚕僉淵妊献織襦砲砲茲辰得宿覆鬟ぅ離戞璽轡腑鵑垢襦Macを単なるコンピュータではなくデジタルライフスタイルにおけるデジタルハブにするという戦略です。
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(製造業のイノベーション戦略マトリックス)

顧客領域に遡上する

では顧客領域に遡上して「観察」を行い、「CDから音楽をMacにコピーしてiTunesで管理し、プレイリストに編集した曲をCD-Rに焼き付けてCDウォークマンで楽しむ」というシーズ(Sound Jam MP)起点のアイデアが解決しようとしている問題やニーズを考えてみましょう。実際にジョブズまたはアップルの誰かが、いつiPodという製品のアイデアを思いついたのかはわかりませんが「顧客領域への遡上」する意義を説明するために、iTunesというアイデアを発想した時点ではまだそこに至っていないと仮定します。
  • 現実の生活における人々を「観察」し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、現在提供されている製品やサービスでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す
ウォークマンなどの携帯型音楽プレーヤーのユーザーの、変わることのない基本的なニーズは「どこででも音楽を聴きたい」というものでしょう。ウォークマンの出現の以前の「製品やサービス」は、放送される音楽を携帯ラジオで聞くというレベルのものでした。そしてウォークマンは、どこででも「自分の選んだ」音楽を聴きたいという潜在ニーズを顕在化しました。しかしその後、音楽がデジタル化されてウォークマンがCDウォークマンやMDウォークマンになり、メディアの可搬性、ダビングの速度や質が向上するなどの改善はありましたが、ユーザーの体験に大きな変化をもたらすことはありませんでした。
 
iTunesが解決しようとする、現在提供されている製品(CDウォークマン)のユーザーが抱えている問題は「たくさんあるCDを管理できない」というものでしょう。音楽をコンピュータで管理することによって、それを解決しようというアイデアです。iTunesでは曲ごとのメタデータから自動的に作成したデータベースによって、ユーザーはアーティスト名やジャンルなどから曲を探して選んだ曲でプレイリストを編集することができます。しかし、それはユーザーの体験に大きな変化をもたらすものになるのでしょうか。 

ユーザーの基本的なニーズが「どこででも音楽を聴きたい」というものであるならば、音楽を聴くときの体験が重要です。iTunesによって、その前に必要な作業を改善することはできるでしょうが、「持ってきたCD」で音楽を聴くという体験には大きな変化はなさそうです。依然として「持ってこなかったCD」の音楽を聴くことはできません。保有しているすべての音楽をコンピュータで管理することによって、持って出かける曲を選ぶという作業が変化します。その作業を行うユーザーになりきって「観察」すると、そこに新たな問題が見えてきます。
  • iTunesのユーザーを「観察」し、何が人々を行動させるのか、さらに何が人々を混乱させるのか、人々は何を好み何を嫌うのか、iTunesでは満たされていない潜在ニーズがどこにあるかを探し出す
音楽が一覧で見えるようになり、検索したり整理したりすることが容易になると、持って出かける音楽の選択肢が格段に増えることになります。そのプレイリストを作成してCD-Rに焼き付ける作業が増えるだけでなく、「持ってこなかった曲」を意識(後悔)することも多くなるでしょう。これまでは、そんな音楽を所有していることすら忘れていたのですから。iTunesで音楽の一覧を見て曲を選ぶ行為と、その曲を携帯型音楽プレーヤーで聴くという行為との時間差が問題なのです。すべての音楽を持ち歩いて「聴く曲をその場で選びたい」という潜在ニーズが見えてきます。 

機能領域で考えるべきこと

現在提供されている製品のユーザーが抱えている問題は、「たくさんあるCDを管理できない」ことだという仮説を持って顧客領域に遡上しましたが、そこで「聴く曲をその場で選びたい」という潜在ニーズを発見しました。それはiTunesという「コンピュータで音楽を管理する」というアイデアが存在したからこそ発見できました。

さらに、音楽を聴くときの体験が価値だとすれば、その前に行うことはすべて「なくてもいい作業」だと考えることができます。CDを買いに行くこと、それをMacにコピーすること、プレイリストを作成すること、CD-Rに焼き付けること、そしてCD-Rを持ち歩くことなど、それらのすべてが作業です。購入する音楽を選ぶことすら、なくてもいい作業なのかもしれません。「どこででも音楽を聴きたい」という基本的なニーズには、それらの作業をなくして欲しいという潜在ニーズが隠れているのです。もちろん、それは顕在化するまで存在しないニーズです。

それらの顧客領域からのインプットから、機能領域では「コンピュータで音楽を管理する」という最初のアイデアに次の2つを追加することになります。
  • 携帯型音楽プレーヤーにすべての曲を入れて持ち歩く
  • インターネットで音楽を販売する
ここで、持っているCDのすべての音楽を携帯型音楽プレーヤーに入れることができると、「膨大な数の曲の中から探して選ばなければならない」という新たな問題が発生することに気づくでしょう。それは次の実体領域(設計フェーズ)への要求仕様になります。実体領域では、その時点での技術やコストの制約から持ち運べる音楽は1,000曲になりましたが、スクロールホイールという技術を応用して指一本で曲を選ぶという操作を提供しました。
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"Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."
 
さらに、CD数枚分とかではなく1,000曲の音楽を持ち運ぶことができるとしたら、まったく新しいユーザー体験を提供できるのではないかと考えた人がいたようです。そして「ユーザーが曲を探して選ぶ」のではなく、iPod
が選んだ曲を流せばいいという発想の転換がありました。まったくランダムなシャッフルモードから、ユーザーが気に入った一曲に関連性のある曲をiPod 選ぶジーニアスというプレイリストまで。シャッフルモードで聞いていて、普段なら選ぶことがなかったはずの曲が、その時の環境や気持ちなどで印象が全く違うものになっていたことはないでしょうか。CDを買って一度しか聞かなかったようなアルバムの記憶にない一曲がかかって、そこからそのアーティストの曲の探索を始めたことがなかったでしょうか。 これは、まさにこれまでになかった新しい体験でした。

イノベーションは黒魔術か?

最初にお断りしたように今回は、シーズ起点で考えた画期的なアイデアが解決しようとしている問題やニーズを明確に定義するプロセスをiPodを例として説明しました。それは、おそらくiPodを発想したジョブズやアップルの誰かの実際の思考プロセスとは異なるでしょう。しかし彼らは、シーズとニーズとを調和させるために多くの時間と努力を注いだはずです。
イノベーションは決して黒魔術などではありません。

インターネットでの音楽の販売は、技術的問題ではなく既存のバリューチェインにおける既得権を守ろうという抵抗勢力との戦いに時間がかかりましたが、アップルは2003年4月にiTunes Music Storeをオープンしました。そして、その10月にようやくWindowsへのiTunesの提供を開始しMacの呪縛から解放されたiPodのブレイクが始まりました。
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結果的にiPodの販売は2008年の5483万台にまで成長し、その後のiPhoneにつながるアップルの驚異的なイノベーションの先駆けになりました。アップルコンピュータだった社名からコンピュータという言葉を消した(2007年1月)ことに象徴されるように、製造業のイノベーション戦略マトリックスの△了業のイノベーションに成功しました。

ジョブズのメッセージは数多く紹介されていますが、iPodを発表したときのフレーズは特に印象的でした。
"a part of everyone's life" 
アップルがなぜiPodで音楽の市場に挑戦するのか、それは音楽が「人々の人生の一部だから」だという文脈でした。人々は(ジョブズも)皆、音楽が大好きだという言葉どおりの意味もあるでしょうが、それ以上にアップルという企業が挑戦する価値があるほど「大きな市場」だということを言ったのだと思います。


ご相談やお問い合わせは、contact に @ と ibornb.red をつけたアドレスまでメールでお寄せください。 

お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです
図やイラストはPowerPointで作成しました 

モノづくりのデザイン思考 (連載 8)

製品のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化をはかり、そのアドバンテージを長期間にわたって維持してゆくことが難しい時代になりました。その困難を克服するためには、一般消費者向けの商品をつくる製造業は製品だけではなく、それを利用することによってそれぞれの顧客が感じることができる豊かな経験を提供していかなければなりません。

デジタル化されたコンテンツや情報を記録したり保存したり伝達したりするメディア(媒体)の変化が、市場に破壊的なイノベーションを起こしてきました。音楽市場に破壊的なイノベーションを起こしたiPodは、音楽というコンテンツの流れを変えることによって、人々にそれまでになかった新しい経験を提供しました。

かつて音楽はミュージックショップでCDという物理メディアで売られており、外出先で音楽を楽しみたい人は、選んだCDを持ち出して携帯型のCDプレーヤーで音楽を聴いていました。MDが普及していた日本では、MDにコピーして携帯型のMDプレーヤーで聴いていた人も多かったと思います。

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2001年1月のマックワールドエキスポで、スティーブ・ジョブズは「Macはデジタル時代のライフスタイルにおけるハブとなって、いろいろなデバイスに素晴らしい価値を与えるだろう」とiTunesというMac用のアプリケーションソフトウェアを紹介しました。それは、iTunesを使ってCDの音楽をMacに取り込んで「管理」し、「編集」した音楽をCD-Rに焼き付けて携帯型のCDプレーヤーで楽しむことができるという提案でした。

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アップルは、音楽というコンテンツの流れに「管理」と「編集」のための新しい機能を追加しました。そして2001年10月にiPodが発売され、1,000曲の音楽と編集したプレイリストをそのまま持ち運べるようになりました。スクロールホイールという画期的なユーザーインタフェースを備えたiPodは「どこででも(1,000曲の中から)その場で選んだ音楽を聴くことができる」という新しいユーザー体験を提供しました。
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2003年4月にiTunes Music Storeが開始されると、CDによる音楽の売り上げは徐々に落ち込んでいきました。デジタル音楽配信サービスによって、単に購入する音楽のメディアやビジネスモデルが変化しただけでなく、それまでアルバムというまとまった形で購入していた音楽は、好きな楽曲だけを選んで購入して楽しむものになり、それによって人々の音楽経験も大きく変化しました。

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そしてウォークマンに取って代わったiPodも、あっというまにアプリケーションの一つとしてiPhoneに吸収されてしまい、さらにストリーミング配信がインターネットによる音楽配信サービスの主流になりつつあります。

デジタル・メディアが変化するとき、その対応に遅れをとった企業が衰退したり、新たなプレイヤーがその市場に参入したりする状況をデジタル・コンバージェンス(産業融合)と呼びます。いったんデジタル・コンバージェンスが起きた市場では、技術やインフラの革新が継続的に起きるようになり、さらなる変化を起こしやすくなります。 その市場の次の変化を自ら起こし勝者となるには、製品(モノ)が提供する機能的な価値だけでなく、その製品に関連して経験する「コト」によって顧客が得られる価値にまで視点を拡張して製品をデザインする必要があります。

これまで一般消費者向けの商品をつくる製造業は、造った製品を流通業に販売するだけで、その製品を購入した顧客との接点はほとんど持っておらず、顧客の経験に積極的に関与することができませんでした。しかし、インターネットによって製造業が顧客との接点を持つことが容易になりました。人々は、インターネットにつながったスマートフォンを常に携帯し、ニュースや音楽や動画やゲームなどのコンテンツを消費し、そしてソーシャルネットを利用して、友人や家族や見知らぬ人と頻繁にコミュニケーションを行っています。

この接点を活用して、製品に関連するコンテンツや情報の新しい流れをつくり、その流れに合わせて製品を再定義することによって、製品のデザインに経験のデザインを含めることができます。この連載(モノづくりのデザイン思考)では、その考え方を「モノのデジタル・リマスタリング」と呼び、イノベーションに挑戦する企業(製造業)が、新しい経験価値をデザインするための方法として、前回の多角化戦略の図で示した水平型の多角化を念頭に考えて行きます。

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お断り これは連載のために過去の記事を書き直したものです。

この記事は、2014年5月4日の「リーン・イノベーション」の続きとなる。ずいぶん時間が空いてしまったが、その間に断片的に続きを書いてきた。それらの引用からはじめるが、前回同様に非常に長くなる。
  1. モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描く
  2. バリュープロポジションを定義する
  3. それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する 
 この「モノのデジタルリマスタリング」によって新しい経験価値をデザインしたら、そのゴールのためのステップを考える。
まず1st Stepとして現行の製品とアプリの組み合わせによる価値提案を行ってみる。もちろんそれだけで、いままでになかった新しい価値を実現することはできない。いわば仮説を検証するためのMVPという位置づけだ。モノのデジタルリマスタリングによって創造しようとする新しい経験価値は、「モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる新しいユーザー体験」であり、それを実現する仕組みとして「ハード」と「ソフト」と「サービス」の役割分担を決めてとりあえずのゴールを描いたものがリーン・イノベーションのプロセスの3rd Stepになる。ここではもっと明確に「新しい製品(モノ)」とWebサービスとアプリとしている。すでにアプリはモバイルファーストで考えるべき時代になっているだろう。「現行の製品とアプリの組み合わせ」は1つの実施例にすぎない。End to Endで新しい経験価値を提供するというGoalに向かって、どのようなステップを踏んでいくかという戦略立案もコンセプトデザインの一環に含めるべきだ。 
「リーン・イノベーション」ではiPodを例にとって説明したが、その場合の Webサービスは、iTunes Music Storeであり、2nd StepはiPod(新しい製品)とiTunes(アプリ)であった。iTunes Music Store(Webサービス)は3rd Stepで登場しEnd to Endのデザインが完成した。
Appleが2nd StepでiPodを発売した意味は2つあると思う。
まず、iTunesというMacのアプリケーションによって、コンピュータ上で音楽を管理するという新しい考え方を市場に提案しその理解を得て、次にそのiTunesと一体化したiPodによって携帯ミュージックプレイヤー市場に参入するというシナリオは自然だ。
そして、それまで音楽のインターネットでの販売と配信に抵抗していたコンテンツホルダーも、iPodによってユーザーを味方に付けたAppleについていくしかなくなるという流れをつくり、End to Endのもう一方にあるiTunes Music Storeの構築に成功した。
 iPodのモデルの場合、「新しい製品」よりも「Webサービス」のほうが製品化の難易度やリスクが大きかった。

では、過去の成功モデルを分析した後付けの理屈ではなく、1st Stepや2nd Stepで「仮説を検証するためのプロダクト」として何をつくり、どのように検証するかについて、次の課題を例にして具体的に考えてみる。
いま、あなたの顧客はiTunesからダウンロードした音楽をiPhoneのアプリで聴いていたり、Walkmanにストリーミングされる音楽を楽しんでいるかもしれない。あるいは、 大きな手間とお金を払ってハイレゾの音楽にアーリーアダプトしているかもしれない。
彼らが諦めていることが理解できるだろうか。 (前回記事より)
WalkmanやiPodを再発明してみようということだ。

いま、音楽を聴こうとするとき、まずWalkmanやiPodやiPhone(アプリ)などのデバイスで曲やプレイリストなどを選ぶ必要がある。そしてBluetoothという選択もあるが、多くの場合はヘッドホンやイヤホンを、そういったデバイスとケーブルで繋げなければならない。プレイリストなどを作成してカスタマイズすると、そこに新しい曲を追加したり、あとで編集し直したくなったときのメンテナンスが面倒になる。
「彼らが諦めていること」あるいは自分が諦めていることはいろいろ考えることができる。
すでに、AppleがBeats(Beats ElectronicsとBeats Music)を買収したという発表があったときに書いた「僕がTim Cookだったら...」で次のようなアイデアを提案した。残念ながらAppleやソニーから声がかかることはなかったが(笑)。
ヘッドホンやイヤホンに音楽が直接ストリーミングされたらどうだろうか。
すでに世界中の携帯キャリアに大きな影響力を持っているAppleであれば、ストリーミング受信のためにヘッドホンやイヤホンをインターネットに4Gや5Gで常時接続させる新たなビジネスモデルをつくることはさほど難しいことではない。世の中がモノのインターネット(IoT)とは何かなどと騒いでいるうちにさらっとやってしまう。もちろんAmazonのKindle Paperwhite 3Gのようにユーザーに通信料金を意識させないようにするだろう。

ヘッドホンやイヤホンが別に必要になる携帯ミュージックプレイヤーではなく、ランニングやいろいろなシーンに合わせた新しい音楽視聴デバイスをいくつも考えることができる。それによって汎用のデバイスであるiPhoneでは叶わない新しいユーザー体験を描くことができる。
聴きたい音楽のジャンルの指定やプレイリスト作成のためのコンテキストの入力などを行う手段としてモバイルのアプリが必要かもしれないが、その程度であればPCやモバイルからアクセスできるWebページやWebアプリでも十分だろう。あるいは音声のインタフェースで音楽をシャッフルしたり、ロケーション情報などによって自動選曲することなども簡単なことだ。提供価値が明確なアイデアが無限に広がる。ヘッドホンやイヤホンは元々ウェアラブルだからあらためてウェアラブルナントカなどとダサいカテゴリーをつくる必要もない。Appleはクールな名前をつけ、それが新しいデバイスのカテゴリーを指すものとなるだろう。
このモデルのプロダクトは、新しいヘッドホン(ハード)とストリーミングサービスだ。
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ヘッドホンが赤いのは「新しいヘッドホン」を表しているだけでBeatsのヘッドホンを意識しているわけではない(笑)。ヘッドホンを着けるだけで聴きたい曲や「この曲いいな」と思う曲が流れてくる。他に余計なデバイスや面倒な作業はいらない。そんな新しい体験を提供するためにいくつかの課題を解決しなければならないが、なかでも次の2つは重要なものだろう。
  • ヘッドホンの画期的なユーザーインターフェース
  • ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する
「iPodに1000曲が入る」ことを顧客価値にするためには、クリックホイールという画期的なユーザーインターフェースの提供が必須だった。聴いている音楽を変更するための「画期的なユーザーインターフェース」を、新しいヘッドホンに実装しなければならない。そして、そのユーザーの変更の操作や視聴の履歴などを学習し、好みの曲の傾向、そして曲を変更した時の状況を分析して、ヘッドホンに「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」アルゴリズムを考える。
 
このビジネスモデルの最大の収益源はハードウェアの販売だ。そのハードウェアは最初はヘッドホンのようなものかもしれないが、「ランニングやいろいろなシーンに合わせた新しい音楽視聴デバイス」を考案して、複数のデバイスの購入(買い増し)を提案してゆく。家や車内での視聴もターゲットだ。もちろん、音楽のストリーミング配信のサブスクリプション、すなわち聴き放題の視聴料金も収益となるが、そちらのほうはあまり多くを期待できない。
 
このEnd to Endのサービスを提供できる企業として、まず考えられるのはAppleとソニーだろう。サブスクリプション型の音楽ストリーミングサービスで世界最大のSpotifyがハードウェアビジネスに参入するというシナリオも考えられる。Spotifyは2013年の売り上げが10億ドルを超えているが、まだ黒字化ができていない。有料会員への課金以外に広告収入もあるものの、その割合は非常に小さい。ヘッドホンのメーカーを買収して、ハードウェアビジネスへ転換するのも面白いのではないかと思う。すでにアクティブユーザー数が5,000万人、有料会員数が1,250万人に達しているSpotifyは、少なくとも1st Stepは有利に展開することができる。
 
ゴールに向けての1st Stepを、まず「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」サービスをスマートフォンのアプリとして提供することから始めてみよう。

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1st Step

ユーザーは最初、好きなアーティストあるいはあらかじめ提供されているジャンルやプレイリストなどを選択して聴き始める。そして、その時の気分で曲を変更する。すでにスマートフォンの音楽アプリで提供している機能だが、このアプリケーションはそれらの操作を収集しクラウドに送って分析する。そのユーザーは何故、そのような変更と選択をしたのか。その理由を知るための、A/Bテストのような仕掛けを仕込んだ新たなプレイリストをストリーミングサービスで提案してみる。きっと曲やアーティストの好みだけでなく、ユーザーのその時の気分や、場所、季節、時間などの状況なども大きく影響するだろう。それをどのように検知し分析に役立てて学習するか。協調フィルタリングを超える「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」アルゴリズムができるのではないかと思う。

AppleがBeatsを買収したというニュースに接したとき、AppleはBeatsのDr.DreとJimmy lovineという音楽というドメインのエキスパートを獲得して、このような研究・開発しようとしているんじゃないかと考え(すぎ)た。
システムが学習を重ね、そのユーザーの状況に応じて配信される曲をユーザーが心地よく感じるようになる。その新しい体験が、そのユーザーの音楽生活になくてはならない"must haveな"ものになると、他の音楽配信サービスに乗り換えることが難しくなる、すなわちスイッチングコストが高くなる。サブスクリプション型のビジネスモデルにおいて、それは重要なポイントだ。

1st Stepでは、ユーザーはスマートフォンのアプリケーションで曲の選択や変更の操作をする。この操作は、ゴールではヘッドホンのユーザーインタフェースで行わなければならないことを前提にしてシンプルにする必要があるが、同時にこの操作の情報を分析することによって「ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する」アルゴリズムの精度を高めていくということを考慮しなければならない。曲のスキップやアーティストやジャンルの変更、プレイリストの選択などのほかに、「これは好き」とか「また聴きたい」というようなものまで必要かもしれない。

2nd Stepでは、 1st Stepでスマートフォンのアプリケーションに実装した曲の選択や変更の操作を「ヘッドホンの画期的なユーザーインターフェース」で実現する。この段階になるとヘッドホンとスマートフォンの両方のハードウェアをもっている Appleとソニーが断然有利になってくる。
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2nd Step

ヘッドホンの基本的な機能については従来の製品と同じでいいだろう。例えば、ヘッドホンのハウジング部分を指でタッチしたりジェスチャーしたりするインターフェースが考えられる。せっかく頭に装着しているのであるから、脳波によって操作するということにもチャレンジしてみるべきだ。

そういった操作をスマートフォンのアプリケーションに伝達するには、BluetoothのA2DP/AVRCPプロファイルで可能なのだろうか。ケーブルで接続する場合は、ケーブルやスマートフォン本体のハードウェアを変更する必要があるかもしれない。

この例の場合、2nd Stepが非常に重要になる。基本的なユーザー体験は2nd Stepで実現できている。

  • ヘッドホンの画期的なユーザーインターフェース
  • ユーザーが聴きたいであろう曲を配信する

  • この段階でユーザーの支持を得られなければ次に進めない。リーンというアプローチは、すべてを作り込んでから製品化するというこれまでの事前設計主義的なアプローチを変革しようとするものだ。それは必ずしも開発期間の短縮を目的とするものではない。ここでプロダクト・マーケット・フィッティングに十分な時間を費やす必要がある。

    2nd Stepのプロダクトでユーザーの支持を得られたならば、いよいよ「我々は Walkmanを再発明する」というメッセージとともに新しいヘッドホンを発表する。そのデザイン(外形)もあっと驚くようなものであってほしい。意地でも「iPodを再発明」とは言わないだろうが、仇討ちのように意気込まずにクールにやってほしい(笑)。
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    3rd Step

    新しいヘッドホンは、4Gあるいは5Gのモバイル通信をサポートする。通信料金は音楽のストリーミング視聴のサブスクリプションに含めなければならない。「それだったらスマートフォンで聴いた方がいい」というような価格では意味がない。最初は一社のモバイルキャリアとMVNO契約をすることになるだろうが、ユーザーの支持をレバレッジにして戦略的な価格を引き出してほしい。

    そのころには人々は皆、スマートフォンを持っているだろうが、新しいヘッドホンで音楽を聴くときにはスマートフォンは必要ない(初期設定などの補助操作に必要になるかもしれないが)。皆が持っているんならスマートフォンで聴けばいいじゃないかと考えるかもしれない。その新しい体験が提供する価値を想像できなければイノベーションは始まらない。3rd Stepはゴールではなく、イノベーションのためのスタートだ。
    一度(か二度)成功した企業のイノベーションにおいて、他者に対するアドバンテージと考えていいものは体力(お金)だけだ。保有技術や生産システムそして販売チャネルは、イノベーションにとっては焦げ付き資産になるかもしれない。しかし、市場にイノベーションを起こすようなモノが市場に受け入れられるには三年はかかる。これはスタートアップにはとても耐えられない。他者に投資を請うことなく、ふんだんにイノベーションに投資することができる。株主を説得できるか、そしてその意思の上にも三年だ。(過去記事より)
    この「新しいヘッドホン」は、リーン・イノベーションのステップを説明するためのひとつの例にすぎないということを再度お断りしておく。もちろん、僕が欲しいもの"my itch"ではあるが。

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    アイデアはどうしたら思いつくことができるのか。スタンフォード大学の有名なd.school (Institute of Design at Stanford)が提供しているデザイン思考のガイドブック"bootcamp bootleg"に次のように書かれている。
    Brainstorming is a great way to come up with a lot of ideas that you would not be able to generate by just sitting down with a pen and paper.

    ブレーンストーミングは多くのアイデアを思いつくための素晴らしい方法だ。ペンと紙で机に向かうだけでアイデアを思いつくことはできない。
    このガイドブックはブレーンストーミングだけでなく、デザイン思考のための多くのツール(方法論)が紹介されていて非常に面白い。しかし、ひねくれ者はどうしてもブレーンストーミングが苦手だ。それよりもこっちのほうがいい。


    残念ながら、Friskを噛むことはアイデアを思いつくための必要条件であっても十分条件ではない。やはり、その前にペンと紙で机に向かう必要がある。これはブレーンストーミングに臨むにあたっても(最低限のマナーとして)必要なことだ。
    (素晴らしい)アイデアをどうしたら思いつくことができるのかという問いに答えはない。しかし、そのギリギリのところまで行く方法はある。そして(非常に稀にではあるが)ブレーンストーミングをしたりFriskを噛むことがきっかけになって、素晴らしいアイデアをポロっと思いつく。あるいはセレンディピティという能力によって。だからペンと紙で机に向かって、そのギリギリのところまでは煮詰まっておこう
     
    前回と前々回の記事でモノのリマスタリングを行うために、そのモノに関連する情報やコンテンツを洗い出すことについて書いた。そしていろいろな「新しいユーザー体験」を描いてみることに取り掛かる。
    モノに関連する情報やコンテンツをインターネットというインフラとその周辺の技術やサービスで扱うことによって可能になる新しいユーザー体験をいくつも描いてみると、きっと顧客(とあなた)が諦めていたことが見えてくる。(前回記事から)
    iPodの創り方(1)(2)で、Walkmanという実現モデルのユーザーの行動観察から「どこででもその場で選んだ音楽を聴きたい」という潜在ニーズを導き、その実現モデルとしてのiTunes/iPodについて考察した。そしてブッシュネルの言葉を紹介し、そろそろ誰かが次のiPodを発明してもいい頃だと書いた。
    "I actually think iPhone was actually an exchange of iPod ecology."
    それも念頭に置いて、モノに関連する情報やコンテンツをインターネットというインフラとその周辺の技術やサービスで扱うことによって可能になる新しいユーザ体験という観点で、もういちどWalkmanからiPodへの変革を見直してみよう。

    CD Walmanの場合、コンテンツ(音楽)はミュージックショップで売られており、それを購入しCD Walkmanで音楽を聴くという流れであった。
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    iPodはこのコンテンツの流れに着目し、iTunesというパソコンのアプリケーションソフトウェアを介在させることによって、コンテンツを提供するサービスからコンテンツを消費するデバイスまでのエンドツーエンドのビジネスモデルを構築し、音楽産業にデジタルコンバージェンスを起こした。音楽というコンテンツの流れを変えることによって新しいユーザー体験を創出した。
    iPodで再生中の曲をいいなと思った時、Geniusプレイリストというメニューを選択すると、iPodの中のその曲と同じ傾向の曲が集められたプレイリストが自動的に作成される。全世界のiPodのユーザーが作成したプレイリストの情報が集められたデータベースから生成されたアルゴリズムによって、そのユーザーのiPodの中を分析した結果によって作成されたものだ。iPodのユーザーのプレイリストを作成するという行動の情報を活用して、モノの経験価値を向上させた例だ。なにしろ1,000曲(今ではその数倍)を持ち歩くことができるという価値を最大化するには、単にユーザーが思いついた曲を探して聴けるというだけでは不十分だ。クリックホイールやシャッフルなどの新しいユーザーインタフェースが必要になる。
    iPod_org
    しかし、Apple(ジョブズ)はソーシャルが苦手だ。あるいは、プロダクト志向の会社(人間)だ。もちろん、常に1,000曲の音楽をポケットに入れて携行することができて、素晴らしいユーザーインターフェイスによって「どこででもその場で選んだ音楽を聴くことができる」iPodという画期的なプロダクトにケチをつけるつもりはまったくない。
    CD Walkmanの時代の人々の行動を簡単にいえば、ミュージックショップで音楽CDを購入し、外出するときに持っていくCDを選び、そのCDの音楽を聴くというものだ。そしてその行動に関連する情報として考えられるものは、たとえば購入時にはどんなCDを買ったか、それをどこで買ったかなどであり、音楽を聴いた時には何を聴いたか、それをどう感じたかなどである。
    walkman
    音楽CDの購入のきっかけや、何を買うかについて参考にする情報は、TVやラジオの音楽番組や、雑誌や友達との会話(口コミ)、そしてぶらっと立ち寄ったミュージックショップ店頭から得ることが多かっただろう。ソーシャルサービス全盛の今となってはあたりまえだが、音楽の趣味嗜好をよく知っている親しい友人の音楽に関連する上述のような情報は、CDを購入したり聴く音楽を選ぶ行動に大きな影響を与える。そしてミュージックプレイヤーはその多くの情報を取得できるほどユーザーの身近にある。これは単にコンテンツ(音楽)ビジネスの売り上げに貢献するというだけでなく、ユーザーにとっても音楽を楽しむための有益な情報になるに違いない。iTMSとiPodのエンドツーエンドのビジネスモデルに、この情報の流れを組み込むことができれば、そのモデルをより強化することができるだろう。この情報の伝え方、共有の仕方をいろいろ考えてみる。どんなタイミングでどんな情報を伝えられたら、どんな価値が生まれるか。ここまではペンと紙で机に向かっていくらでも考えることができる。
    すでにCDという物理メディアの購入からデジタルデータの購入への変化によって、音楽を所有するという概念が希薄になっている。ストリーミングによって音楽を聴くいう考え方も市場に受け入れられつつある。ユーザーにとってどちらが便利かという観点での戦いになる。コンテンの流れ方もさらに変化させることも並行して考えなければならない。誰もが誰の仲介も必要としないで自分の音楽を販売することができるようになるだろう。その場を提供するサービスもいろいろな可能性がある。

    iTunes Storeのようなデジタル音楽配信サービスが成長する一方で、CDという物理メディアによる音楽の販売は急激に落ち込んだ。日本の場合はアイドルの同じCDを(音楽を聴く以外の目的で)ひとりで複数枚購入するというビックリマンチョコと同じ特殊なビジネスモデルが生まれたために、統計的にはCDの売り上げ規模が維持されているように見えるが実態は違うだろう。デジタル音楽配信サービスによって、単に購入する音楽のメディアが変化しただけでなく、それまでアルバムというまとまった形での音楽の販売が楽曲ごとのばら売りという形に変わってしまった。前にも書いたように、いったんある市場にデジタルコンバージェンスが起こると、その市場は不安定になり次のコンバージェンスが起こりやすくなる。

    iTunes Storeの楽曲販売の売り上げに、Spotifyというスウェーデンの音楽ストリーミングサービスがせまってきている。2006年に始まったこのサービスは、音楽を購入するのではなく月額9.9ドルの定額(広告付き無料有り)で聴き放題というモデルを提供する。
    SpotifyのiPodに対するアドバンテージは2つある。 
    ひとつはiPodは、iPodというハードウェアとiPhoneのアプリ(ミュージック)という限られた環境だけのしくみであるのに対して、SpotifyはiOS、Android、Windows Phone、Blackberry、Symbian向けのアプリが用意され、PCのブラウザにも対応しているほか、オーディオ機器やゲーム機などにもビルトインされていることだ。
    もうひとつはSpoifyはFacebookとOpenGraph連携しており、毎月20億ものユーザーの音楽行動がFacebookに投稿されていること。これがどの程度、Facebookの友人の音楽行動に影響を与えているかが非常に興味深い。Apple(ジョブズ)は2010年に鳴り物入りで音楽関連のソーシャルネットPingを始めたが、Facebook連携が不調に終わったこともあって利用者が増えずにすでに閉鎖されてしまっている。

    そろそろ誰かが次のiPodを発明してもいい頃だと書いたが、それを行うことができるのはきっとAppleかSonyだろう。そしてそれはiPhoneやAndroidの1つのアプリではなく、iPodやWalkmanという専用のミュージックプレイヤーをリマスタリングすることによって可能になるのではないかと僕は考えている。きっとモノに関連する情報やコンテンツを洗い出し、その流れを変えることによって、だれも思いつかなかったあたらしい価値を生み出すことができないかと取り組んでいると思う。そしてそのアイデアは何かをきっかけにポロっと生まれる。

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    このところD.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」の改訂版など、最近読んだ本を読み返しながらいろいろ書いているが、ノーマンにはいろいろ引っかかるところがあってつい引用してしまう。

    Engineers and business people are trained to solve problem. Designers are trained to discover the real problems. A brilliant solution to the wrong problem can be worse than no solution at all: solve the correct problem.

    エンジニアやビジネスパーソンは問題を解決することに長けているが、デザイナーは真の問題を発見することに長けている。どんなに素晴らしいソリューションでも、それが間違った問題を解決しようとするものだとしたらまったく価値がない。正しい問題を解決しよう。

    ノーマンは全体を通して、こんな調子でエンジニアとビジネスパーソンに対するデザイナーという軸で語っている。以前にも引用したが、ハーバードビジネスレビューのWeb記事に掲載された「集合知とデザイン思考」という記事に次のような文がある。

    そもそも「デザイン思考」とは何なのか?簡単に言えば、“人々の生活や価値観を深く洞察し、ユーザーが何を潜在的に求めているのかを感知しながら、プロトタイピングを通じて、新しいユーザー体験を提供するイノベーション・プロセス”である。

    この意識はデザイナーだけでなく、エンジニアとビジネスパーソンも持つべきものだと思う。そして、それら三者が参加し、それぞれが自分の領域以外の2つの領域への理解を深めることによってイノベーションを起こすことが可能になる。

    今回(とその後のいくつかの記事で)、これまで書いてきたことを振り返るために、CD/MDのWalkmanからiPodを発想するプロセスを考えてみたい。
    そのプロセスは次の2つのステップにわける。
    1. まだだれも気付いていない「潜在的なニーズ」を見つける
    2. 新しいユーザー体験をデザインする

    まず「まだだれも気付いていない『潜在的なニーズ』をどう見つける?」で書いたように、現在(その当時)は「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズがWalkmanによって満たされている。そのユーザーの行動を観察してみよう。ユーザーはCDを購入し、たくさんのCDの中から自分が選んだ数枚を持って出かける。日本の場合はCDをレンタルしMDにダビングするという人も多いだろう(海外の場合はCDのレンタルというサービスが多くなかった)。その観察によって、いろいろな問題やユーザーの不満を発見することができるだろう。例えば、聴いているうちにWalkmanのバッテリーが切れてしまった、CDがかさばる、CDを壊してしまった、Walkmanを置き忘れてしまった、でかけるときにCDを選ぶ時間がなかった、気持ちが変わって持ってきたCDと違う音楽を聴きたくなった、CDをまだ購入していない音楽が聴きたくなった、CDでかばんの中がいっぱいになる、持っているCDが管理できない、CDを別のケースに入れてしまって間違えた...どんな些細なものでもくだらないと思えるものでも、解決できそうにもないものでも、なんでもかんでも列挙する。それもいろいろな人の立場や状況に立って考える。もちろん、周囲の人やフォーカスグループを集めたインタビューも参考にしたい。現在では、プロダクトについてのソーシャルネット上での人々の意見やつぶやきをあつめることも容易にできるし、もしプロダクトを提供する企業であれば、そのプロダクトにユーザーの行動や声を収集する仕組みを組み込んでおくことを考えるべきだろう。

    Designers first spend time determining what basic, fundamental (root) issue needs to be addressed. They don't try to search for a solution until they have determined the real problem, and even then, instead of solving that problem, they stop to consider a wide range of potential solutions. Only then will they finally converge upon their proposal. This process is called design thinking.

    まずデザイナーは、 取り組むべき基本的で本質的な問題が何であるかを特定することに時間を費やす。そのほんとうの問題を特定するまで、その解決策を探すようなことはしない。さらに問題を特定した後でも、すぐにその問題を解決しようとするのではなく、立ち止まって広い視野で可能な解決策を広い視野で考える。そしてようやく自らの提案に集中する。このプロセスを「デザイン思考」と呼ぶ。(ノーマン)

    これは冒頭の引用にあるような、デザイナーがビジネスパーソンから問題の解決を託されたというシーンからの続きだ。例えば、ビジネスパーソンが「Walkmanが大きすぎるから小さくしてくれ」とか「CDがかさばるから携行しやすくしてくれ」などと言う。それを受けたデザイナーは、それにまともに対応するのではなく、ユーザーが「Walkmanが大きすぎる」とか「CDがかさばる」といった不満をいうのはなぜだろうと、その裏にある「ほんとうの問題」は何かを考えることから始めるということだ。

    ここではちょっと違ったアプローチをとりデザイナーに頼まずに、まだ誰も気付いていない「潜在的なニーズ」を見つけてみよう。もちろん、すでにiPodという答えが見えてはいる。
    まず、列挙したそれぞれの問題について片端から単純な解決策を考えてみる。バッテリーを大きくする、予備のバッテリーを携帯する、CDを小さくする、CDを丈夫にする、音楽を全部持って行けるようにする、その場で音楽を入手できるようにする等々。それはブレインストーミングでもいいし、ポストイットを使ったアイデア出しでもいい。あるいは一人で大きめのモレスキン(もちろんロディアでも折り込み広告の裏でも構わないが)に書きだす作業でもいい。そのいくつかのアイデアはプロダクトの改善として実施されるかもしれない。もちろん、列挙した問題の本質を理解することが目的で、そして多くの場合は画期的な解決策が見つかることはない。しかしそれでいいのだ。画期的なアイデアなどめったに見つかることはないのだから。
    しかし、この作業が非常に重要だ。雑多な問題とその単純な解決策の組み合わせの中から「潜在的なニーズ」を見つける。「潜在的なニーズ」のポイントは次の2点だ。
    • 満たす価値がある
    • 満たすことが可能である
    「満たす価値がある」とは、それによってこれまでになかったまったく新しい価値を提供できること、そして満たすためのハードルが高いことだ。誰かが思いついて解決しそうな問題は放っておく。

    たとえば、自分の持っている音楽を全部持ち運ぶことができれば列挙した問題のいくつかは解決される。もちろん全部のCDを持っていくわけにはいかないから、別のメディアにコピーすることになるだろう。
    すでに1999年には、ラスベガスのCOMDEXというコンピュータ関連の展示会でSonyがメモリースティックウォークマンを発表し、それ以前にもRioというシリコンメモリーを使った携帯型音楽プレイヤーが発売されていた。使用するメディアはCDに比べればはるかに小さく、いくつも持ち歩くことは可能になっていた。しかし1つのメディアの容量は1〜2枚のCDの音楽を格納することしかできず、CDに加えて新しいメディアの管理という余計な作業も増える結果になっていた。特にメモリースティックウォークマンで使用するMagicGateメモリースティックは価格も高く、持っているすべてのCDをメモリースティックにコピーするということは考えられなかったので、依然として「どこででも(事前に選んでおいた数十曲のなかから)自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズを満たしているに過ぎなかった。「ほんとうの問題」は「CDがかさばる」ということではない。

    「音楽を全部持って行けるようにする」というフレーズに出くわしたとき、それは何回目かもしれないが「あれっ」と思う瞬間がある。単に目の前の問題の解決手段としてでなく、それによってまったく新しいユーザー体験を提供できるのではないか、と。自分が何曲持っているかを考えたことがあるだろうか。数百曲だろうか、数千曲だろうか。あるいは世の中に存在するすべての曲が手元の小さなデバイスにあったとしたら。それはそれまでの携帯型のミュージックプレイヤーとはまったく異なる次元のユーザー体験を提供できる。その実現性はともかくとして、それはどんなユーザー体験なのだろうか。きっとそれはすごいことで満たす価値がある。

    「その場で音楽を入手できるようにする」というフレーズも面白そうだ。それは(2013年が終わろうとしている)いま、iPod/iPhoneでiTunes Storeから音楽をダウンロードできるという実現モデルが満たしている以上の潜在的なニーズを見つけることにつながると思う。イノベーターはそんな課題を常にいくつも抱えて考えている。

    そして(ジョブズのように)Sound Jam MPを見たとき「これは使えそうだ」と思うことになる。これは決して偶然ではない。

    • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の答えを発見する能力
    ビジネスのデザイナーにはこのセレンディピティが不可欠だと思う。さらにその前に、「潜在的なニーズ」というものを常に探索し漠然としてであってもそれを自分が解決すべき課題として意識している必要がある。そうでなくては、新しい技術やインフラを見たときに「これだ!」と思いつくことなく他人事としてしかとらえることができないからだ。(過去記事から)

    抱えているいくつかから「満たすことが可能である」課題が浮かぶ。これで「音楽を全部持って行けるようにする」ことができそうだ、そしてすべての音楽をPCに入れて管理し、それをミュージックプレイヤーにコピーすればいいのだと。しかし、この解は「世の中に存在するすべての曲が手元の小さなデバイスにあったとしたら」というところまでは達成していない。

    Technology changes the way we do things, but fundamental needs remain unchanged.

    技術は人々が何かをする手段を変えるが、その基本的なニーズは不変だ。 (ノーマン)

    人々の基本的なニーズは不変で、技術によってその手段が変化してゆく。技術の進化が無限であれば、人々が何かをする手段も無限に変化する可能性がある。そのすべてが潜在的なニーズだが、その時点で利用可能な技術によって顕在化させることができる、すなわち満たすことが可能な潜在的なニーズには限界はある。しかし「それまでの携帯型のミュージックプレイヤーとはまったく異なる次元のユーザー体験を提供できる」というビジョンを妥協してはいけない。そこで自分をごまかせばユーザーは決してついてこない。
    「自分が持っているCDの音楽を全部持って行くことができる」ことによって、「どこででもその場で選んだ音楽を聴きたい」という潜在ニーズを顕在化できるはずだ。さらにその潜在的ニーズの設定が正しければ、そのプロダクトなりサービスを提供しようとする側も、それをデザインする過程で最初は気付かなかった新しいユーザー体験とその価値を開発することになる。

    もちろん、これはジョブズの考えたプロセスとは明らかに違う。きっとジョブズはSound Jam MPを見たとき、「これはMacの価値を向上させるのに使えそうだ」と思った。それは、Design Crazy: Good Looks, Hot Tempers, and True Genius at Apple [Kindle版]に記録されている、iPodの販売の伸び悩みに周囲がiTunesをWindowsにも展開すべきだとジョブズに進言したときのエピソードからも伺える。

    JON RUBINSTEIN
    We argued with Steve a bunch [about putting iTunes on Windows], and he said no. Finally, Phil Schiller and I said "We’re going to do it." And Steve said, "Fuck you guys, do whatever you want. You’re responsible." And he stormed out of the room. 
     
    我々は、WindowsにiTunesを提供することについてスティーブと多くの議論をした。そしてついにフィルと私は「我々はやります。」と言った。スティーブは「くそったれ!好きなようにするがいいさ、責任はとれよ!」といって部屋から飛び出していってしまった。

    AppleのCEOに復帰したばかりのジョブズにとって、当然それは最大の課題だったはずだ。ジョブズがどの時点でiPodを思いついたかは知らない。

    Appleは2001年1月9日にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポで初めてiTunesを発表した。iTunesは2000年にジョブズがCEOに復帰した直後にAppleがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、Appleに移籍したその開発者たちが開発したそうだ。このときジョブズは、同時にデジタルハブ構想も発表している。パソコンがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うことによって、デジタル機器が人々のライフスタイルをもっと楽しく便利にするものになるというものだ。
    "Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのはその年の10月23日になる。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を同時に発表したのだから、そのときすでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずだ。AppleはiTunesの発表の直後に携帯音楽プレーヤーの市場調査を始め、それからiPodの開発に着手したようだ。(過去記事から)

    「すでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずだ」と書いたが、そのときのプレゼンのスライドを見てみるとMacにはCD Walkmanがつながっていた。(続く)
     
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    川手恭輔(Internet Born & Bred)
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    自社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって別のドメインに参入するというイノベーション戦略は、自社のコアコンピタンスを生かした多角化や新規事業の創出を検討する取り組みのシナリオとなることが多い。企業のコアコンピタンスとしては、技術や物流ネットワーク、生産方式など、さまざまなものが考えられる。そのような取り組みは、必ずといっていいほどSWOT分析から始まる。そして技術の棚卸しやヒアリングなどに多大な時間とリソースを費やして、非常に正確なSWOT分析図が完成する。その図を前にして、イノベーションのために集められたメンバーがため息をつき、そしてそのため息で地球が温暖化する。

    完成したSWOTはひとまず横に置いておいて、前回の宿題のイノベーションのマトリックス図の△砲弔い
    その事例として挙げた「Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケース」で考えてみたい。

    innovation_matrix

    Appleはなぜ「音楽」を選んだのだろう。コンピューターと音楽というドメインは、音楽がまだアナログであった頃にはまったく関連がなかった。

    ウォークマンが顕在化させた「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というニーズはウォークマンとその周辺のエコシステムによって十分に満たされ、メディアのデジタル化という大きな変化においても「レコードをテープにダビングする」ことが「CDをMDにダビングする」に変化しただけで、デジタルコンバージェンス(産業融合)は起きなかった。(過去記事から)

    そしてMP3などのコンピューターで扱うことができるデジタル音声ファイルフォーマットが出現し、その2つのドメインに関連性が生まれた。
    単純に考えれば、もし、すでに「音楽」というドメインにいた企業がiPodを創ったとしたら,離僖拭璽鵑砲覆辰燭呂困澄N昭圓琉磴い呂垢任忙っているものと補完すべきものが逆になっているだけだ。Appleは「自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連した」iPodという製品によって「音楽」という新しいドメインに参入したが、すでに「音楽」というドメインにいた企業の場合は「コンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアに関連する技術を導入して」iPodを創ったということになる。
    なぜそれがAppleにできて「音楽」というドメインにいた企業にできなかったのか。もちろんイノベーションのジレンマという問題もあっただろうが、そもそもiPodのようなアイデアを思いついてジレンマを感じるまでに至っていたのだろうか。iPodにミュージックプレイヤー事業の盟主の座を奪われた企業の経営者は「自分は工場を持っていたからiPodを(作りたかったけど)作れなかった。」と言っていたが、彼のいうiPodとは果たしてどのようなものだったのだろうか。

    iPod以前にもMP3のミュージックプレイヤーはいくつも存在していた。しかし、それらは「どこででも自分の選んだ音楽を聴きたい」というCD/MDのウォークマンですでに満たされているニーズを単にデジタル技術で置き換えたに過ぎなかった。「どこででもその場で選んだ音楽を聴きたい」という潜在ニーズ(仮説)を顕在化させようというものではなかった。もちろん、Appleがそのような戦略設定でiPodを創りだしたかはわからない。あくまでも後付けで僕が考えた理屈だが、そんなに外れてはいないように思う。

    Hill climbing. This method is the secret to incremental innovation. This is at the heart of the human-centered design process. Does hill climbing always work? Although it guarantees that the design will reach the top of the hill, what if the design is not on the best possible hill? Hill climbing cannot find higher hills: it can only find the peak of the hill it started from. Want to try a different hill? Try radical innovation, although that is likely to find a worse hill as a better one.

    ヒルクライミング。これはインクリメンタルなイノベーションの秘訣であり、HCDのデザインプロセスの中心に位置付けられている。ヒルクライミングはどんな場合でも有効だろうか。そのデザインによって、その丘(ヒル)の頂上に到達することが保証されているとしても、最良の丘を上っているとは限らない。ヒルクライミングではより高い丘を発見することはできない。登り始めた丘の頂上を発見することができるだけだ。他の丘に登ってみたいならラディカルなイノベーションを試してみるといい。もっともそれは、より良いものとしてより悪い丘を見つけることになりかねないが。

    D.A.ノーマンが「誰のためのデザイン?」の改訂版で言っているラディカルなイノベーションと、イノベーションのマトリックスの△同じという訳ではないが、その方法を明確にすることが難しいという点では非常に似通っていると思う。

    Appleは2001年1月9日にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポで初めてiTunesを発表した。iTunesは2000年にジョブズがCEOに復帰した直後にAppleがその権利を買収したSound Jam MPというソフトを元に、Appleに移籍したその開発者たちが開発したそうだ。このときジョブズは、同時にデジタルハブ構想も発表している。パソコンがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うことによって、デジタル機器が人々のライフスタイルをもっと楽しく便利にするものになるというものだ。
    "Say hello to iPod. 1,000 songs in your pocket."というキャッチコピーで初代iPodが発表されるのはその年の10月23日になる。もちろん、iTunesとデジタルハブ構想を同時に発表したのだから、そのときすでにiPodという新しいデジタル機器のイメージはできていたはずだ。AppleはiTunesの発表の直後に携帯音楽プレーヤーの市場調査を始め、それからiPodの開発に着手したようだ。(過去記事から)

    • 新しい技術やインフラを見たとき、それまで抱いていた「どうしたらこの潜在的なニーズを解決できるだろうか?」という課題の答えを発見する能力
    ビジネスのデザイナーにはこのセレンディピティが不可欠だと思う。さらにその前に、「潜在的なニーズ」というものを常に探索し漠然としてであってもそれを自分が解決すべき課題として意識している必要がある。そうでなくては、新しい技術やインフラを見たときに「これだ!」と思いつくことなく他人事としてしかとらえることができないからだ。すなわちビジネスのデザイナーにとって、セレンディビティは必要な能力で、潜在的なニーズを見つけることは最初の仕事である。その2つによって、ジョブズのように誰も思いつかなかった製品をあたかも「発明」したかのように世に送り出すことができるのだ。だから技術者でなくとも発明はできる、ただし技術を理解する力は必要だが。(過去記事から) 

    「セレンデピティ」という言葉をイノベーションに関連して非常に限定した意味で使ったが、ジョブズがSound Jam MPを見たとき「これは使えそうだ」と思ったのはセレンデピティを備えていたからだ。なぜ、Appleの本業でない「音楽」というドメインで「使えそうだ」と思うことができたのだろう。それはジョブズだからだと身も蓋もないことを言ってしまうと、またため息が出るだけだ。
    Appleはなぜ「音楽」を選んだのだろうという疑問に明確に答えることはできない。もしかすると
    Sound Jam MPに出会ったからかもしれない。しかし、ガートナーが言うように

    あらゆる産業がデジタルリマスターされる。その意味は、あらゆる企業における事業の中核にある製品自体が、大きく変化してしまうということだ。

    デジタル化(技術)とインターネット(インフラ)によって産業のドメイン間のボーダレス化が進み、相互の参入障壁が格段に低くなっている。参入しやすく参入されやすくもなっているのだ。自社の事業の周辺の別のドメインにおいても、,汎瑛佑砲修隆靄椒法璽困猟蟲舛叛在的なニーズの探索を日常の業務にすべきだと思う。そのターゲットが設定できてから、横に置いておいたSWOT分析図を見直してみれば何をすべきかがわかるはずだ。ため息をついている暇はないことも。
     

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